『チルドレン』は三浦みうさんの作品です。18歳の透は、半年で300万円のアルバイトをしに秋田の山奥を訪れます。迎えてくれたのは14歳の園長、桜子。他にいるのもすべて子供たちです。
いたずらをしかけたりの子どもたちに、透は素早く馴染み、楽しく夕飯をとり、お風呂も楽しみます。
ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。
しかし、桜子は仕事は夜が本番だと言います。仕事とは、村の大人、山田らが運んでくる人間を殺して解体すること。当然透にはできませんが、子どもたちはなんでもないことのようにその仕事をこなします。
その仕事をできない子供は処分されると言います。子どもたちは大人に近い年齢なうえ、殺人も解体もできない透が処分されないことが不満ですが、桜子は透はやればできる子だから、と味方をします。
子供たちとの関係は微妙に近くなり、透は同じように殺人のできない未来と、凛子と一緒に園を抜け出そうと約束します。
ところが、透が目を覚ますと布団の中には未来の首が転がっています。やっとやれたのね、と喜ぶ桜子ですが、子どもたちの間には不穏な空気が流れます。
心が壊れはじめ、未来を解体する透。一方で子どもたちの中でも心の乱れがでてきます。未来や弟の航も殺してしまう翔は「約束を守らない子」として桜子に殺されます。自分たちがやっているのは悪いことと自覚したりんごや愛美は山田らに殺されます。
そして透は昔のことを思い出します。透は残酷な子供で虫や動物を殺してその様子を見たがっていました。ある日、桜子の助けを借りて透は母親を殺します。透が感じていたのは、殺したらどうなるのだろうという好奇心。記憶を取り戻した透は、一緒に逃げてここであったことはすべて忘れようと桜子に言って桜子を喜ばせますが、次の瞬間桜子をお崖から放り投げます。
透は園に深く関わっていた山田と相討ち状態で死にますが、山田のトドメをさしたのは、逃げようとしていた凛子です。凛子は山田の妹の助けを受けて無関係の村の老夫婦の家に、椎瑠を連れて駆け込み、保護されます。警察もうごいて子どもたちと山田と透の遺体は回収されますが、桜子の遺体は見つかりません。
8年後。大都会で暮らす凛子が街を椎瑠と歩いていると、すれ違いざまの女に「人殺しのくせに」という言葉をぶつけられます。
おそろしいお話でした。罪悪感なしに、届けられる大人たちの息の根を止めて内臓をすっかり出し、肉と骨を分けて処分する子どもたち。それができない子供は惨殺されるという残酷さです。それを主導しているのはたった14歳のいたいけな少女。透は孤児院の園長だったママを殺して、その罪の深さにおそれをなした父親が、自分と同じように慈悲深い(というかまっとうな感覚を持った)人間になるように暗示をかけられ、過去の記憶を封印されて生きてきたようです。
桜子は透がママを殺したあと、孤児院に放置されて、山田が様子を見に来るまでそこで一人で暮らしていたようです。山田は透に妹を殺されかけたのを恨み、まだ幼い桜子を複数の村の男の慰み者にしたうえで、孤児院の管理者としておき、子どもたちを送り込むとともに、敵対する暴力団に関連する大人たちを送り込んで子どもたちに殺させていました。逃げようとした子供は捕まえて殺して園の滑り台に座らせることで、逃げようとすると死んで園に帰ってくることになるという言い伝えを作り、子どもたちの恐怖心を煽って、言いなりに扱えるようにしていたのです。
最初、桜子と子どもたちは、人を殺すことにも解体することにも(未来以外は)何のためらいもないように描かれていたので、間違ったイノセンスがまかり通っている恐ろしい世界、普通の感覚を持っていて、ペナルティとして体を傷つけられても「人を殺してはいけない」という絶対的な価値観を持った透が、どんな風に子どもたちに罪の意識をもたせるかという物語だと誤解して、怖いもの見たさでどんどん読んでしまいました。
が、2巻になると話は急展開します。妹といつも一緒にいる少年の妹はとっくに亡くなっていて、妹だと思ってるのはタオルだとか、本当は人を殺すことは悪いことで、ほとんどの子どもたちはやめたいと思っているけど園長である桜子が怖くてそうできないでいるとか、逆にどんどん仲間である子どもたちも殺しちゃう子供がいるとか、読み進めれば進めるほど悲惨な物語になっていきます。
透が実は生き物の命を奪うことをなんとも思わない、どころか、殺したらどうなるかにしか興味がない男の子で、桜子が透だけを家族だと思ってるのに、透は桜子をあっさり死に追いやるとか、もの凄く怖いです。
最後、平和に暮らしている凛子と椎瑠のところに、遺体が見つからなかった桜子と思われる人物があらわれてすれ違いざまに話しかけるのも背筋が凍るシーンでした。人を手にかけて解体していた人生から、逃れたつもりでも逃れられないのだ、これから追い詰められていくのだと、恐怖を覚える終わり方でした。
絵は、ずっと目の表面を涙が流れているかのような表現が独特です。ただ無垢で大人に騙されて人を殺しているのではなく、自分でも意志を持って人をどんどん殺している、透お兄ちゃんに再び会って、お兄ちゃんに支えてもらいたいと思いながら、男たちに乱暴されて自分の心に鍵をかけ、殺しができない子供たちをパージしてきた桜子の壮絶な人生も、その目に現れているのだと、ぞっとしながら読みました。