『辱』(にく)は窪茶さんの作品です。オープニングは3人のかわいい女のコたちがいます。キャピキャピしていますが、やっていることは生きている男性の体の解体です。初めて解体を担当するという女の子を、調理担当の子たちがおだてながら作業をすすめさせます。
意外と解体の筋がいいと満足しながら、男性が息絶えると作業は終了。死んだ肉は食べないという掟のためです。
ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。
話はがらっと変わって、心霊スポットツアーと称して東北旅行を楽しむ3人の大学生たち。中田と郷田と香取公平。3人は露天風呂で恭子と名乗る若い女性に出会い、誘われて地図にものっていない村にいきます。
村にいるのは若い女性ばかり。歓待してくれますが、中田は女性に誘われます。ついていくとセックスでもてなされ、寝かされます。気づくと裸にされ、身の自由を奪われています。中田はそのまま解体の場へと連行されます。
公平は、中田、郷田といなくなる中で不安に苛まれます。セックスの誘いを断った公平が村の中をさぐると、解体された郷田の頭が鍋に入っているのを見つけてしまいます。そこに入ってきた村の娘を、公平は包丁で傷つけてしまいます。娘は死にます。
公平は逃げ、その過程でさらに娘たちを殺します。恭子を始めとする村の娘たちは「ひどいことを」と、公平に対する怒りをあらわにします。
公平はヒッチハイクして近くの村にいき、駐在に駆け込みます。話を聞く若い女性警官は、そんな村のことは聞いたこともないし、血だらけでヒッチハイクしてきた公平のほうが怪しく見えるといいつつ、どこかに電話します。公平は安心したのか、意識が遠くなります。
目を覚ました公平が目にしたのは、自分を覗き込んでいる恭子の顔。公平は手足を切り取られ、皮膚の表面を鉋で削り取られます。恭子は、公平が殺した娘たちのことを考えると公平のことは絶対に赦せない、無駄に死なせてやる、公平の肉は絶対に食べてやらない、と宣言します。
駐在の女性警官は村のおばさんに「ただでさえ鬼巫女さまたちの扱いは大変なのに」とねぎらわれています。そこに声をかけてきて辺境の村にイキタイという旅行者の男性たちに、警官は「そんな村、ここにはないと思うけど」と返事します。
Renta!で試し読みできるのがどこまでだったか…冒頭の、かわいい女の子たちが楽しそうに男性を「生きたまま」解体する凄惨なシーンを何度試し読みしたかわかりません。いったいどんな話が展開されるのか、興味津々ながらも、こわいんだろうな、と、なかなか手がでませんでしたが、結局は好奇心に負けて読んでしまいました。
そこで始まる男子学生の旅。冒頭とはまったく違う展開ですが、心霊スポット巡りの旅に来たのに、マグロの解体ショーとか、何気ない旅のランチとか、何もかもビデオに残す公平のオタクっぽい感じは、なかなか好印象です。心霊探求の旅といいながら、本心は女の子との出会いが希望だったらしき中田の提案で3人は露天混浴風呂にいきます。そこに入ってくる恭子は、冒頭の解体シーンで初めて解体を体験し、解体の才能を開花させていた女の子がちょっとお姉さんになった感じでしょうか。「若い坊やたちがいる」と言って風呂に入ってくるセリフからするとオバサンっぽいですが、容姿からいくと25から28歳ぐらいというところでしょうか。ロリな顔に大人の女の体つきです。
すぐ調子に乗って急所まる見せで自分たちのことを語る中田に、恭子さんは動じる風がまったくありません。女子校出身の私が男性にそんなふうにフランクに接することができるようになったのは…いや、秘所まる出しにされたらやっぱりいまでも引くわ、とか思いつつ読んでいきます。実際、公平もグイグイくる恭子さんにちょっと引いてます。後になって思うと、恭子さんは、村の食堂などでの彼らの会話を聞いていた村人から連絡を受けて、彼らを村に誘いに来たのでしょうね。最初は村人もグルだって知らないので、恭子さんには超人的なオカルト能力があって3人が居ることを知って露天風呂に来たのかと思ってしまいました。
謎の村はかなり本格的にリッチな作りで、篝火を焚く物見塔みたいなものがあります。公平たちが通されるお屋敷も立派です。そして出される「初めて食べる美味しい」味の肉。公平には何の肉なのか想像もつきませんが、冒頭の解体シーンを読んでいる読者には、それが男の肉であることは容易に想像できます。
ネットで、自分の肉を食べてみたいと思った人(欧州だったかな?)がいて、人の食感はほとんど匂いからくる、という説を参考に、自分の体の匂いを分析してその匂いになるような食べものを作ってもらって食べた、感想は「結構おいしかった」という話を、読んだことがあります。クマがヒトの味を覚えるとまた食べたくて襲ってくるから、ヒトを食べたクマは殺さなければいけない、という話を聞いたこともあります。ってことはやっぱり人肉は旨いのかな。公平が食べているところを見るとドキドキします。孤立した村の立派な屋敷で謎の歓待をうける公平たちの姿にはブラックな空気が漂っていてなかなかよいです。
一番ナンパな感じの中田は、最初の晩から襲われます。まずはセックスをするのですが、それも恭子さんは掟だからといい、解体の前にやらなきゃいけないことのようです。そして中田は解体に回されますが、「毒抜き」が済んでいなかったとのことで、担当の桔梗と恭子は中田を置き去りにしてその場を去ります。もちろん、逃げ出したときに備えてアキレス腱を切るのも忘れません。ずっと何が起こっているか受け止めきれず、説明もしてもらえず、食料として扱われていた中田でしたが、ここで拘束具のネジを緩め、最後には自分の手の親指まで切って、その場を逃げ出します。ここで恭子たちの気持ちになる読者は稀だと思いますが、意外と、中田にも感情移入が難しく、アキレス腱を切るところではゾッとするものの「そうだ、親指を落としてでも逃げるんだ、中田!」と応援しきれないところがあるのは何故なのかと思います。多分冒頭の解体シーンにやられちゃってて、私も中田くんをエサとして見る視線ができちゃってたんだろうなあ、と思います。中田は結局、その部屋もでないうちに恭子たちに見つかり、絶望します。
それから1週間。おとといには郷田もいなくなり、食事は謎肉だけの中で、公平は警察にいこうと思いたちます。誘惑にきた桔梗をかわして外に出ようとすると恭子に追われ、公平は村の中を逃げ、自然と解体棟に入り込み、郷田の死体をみつけます。ここで桔梗に色仕掛けで襲われそうになった公平は、桔梗を刺してしまうのですが、桔梗は「どうしてこんなひどいことを?」と不思議がります。切り口から腸がどさっと落ちます。実際、ひとの腹を切ったらどうなるのか、想像もできません。ほんとうに立った状態で腸がはみ出てきたりするのかはわかりませんが、ここまで読んだところで思ったのは「作者さん、楽しんで描いてるんだろうなあ」でした。リョナという言葉を、このときは知らなかったのですが、知らなくてもそれらしいエッセンスを作品から感じました(リョナとは、暴力に耐えかねて浮かべる苦痛の表情を、性的な趣向も含めて楽しむことをいうらしいです)。
そこから先は、男性のことは生きながら体を切り刻み、たまたま日本語を解するエサとして見て、できるだけ死なないように解体するという非道を平気で繰り返す恭子たちが、仲間を殺されたとたん、こんなひどいことをするなんて許せない、と主張するのを見てドン引きです。さすがに公平くんに助かって欲しい気満々になります。
なので、助かって駐在さんに行ったときはほっとしました。きっと誰にも信じてもらえなくて、友達二人を殺害した疑いとかかけられちゃうんだろうな、と思ったのですが。次に画面いっぱいに広がるのは、恭子の顔。かわいいけど怖かったです。いままでに培ったのであろう「ギリギリまで殺さずに解体する」技術を駆使される公平。あんたなんか食べてあげない、なんの意味もなく死ね、という恭子。絶望のラストです。公平くんがすごく好きだったわけじゃないんだけど、殺されそうになるまでは何も悪いこともしてないし、禁忌にふれたわけでもなく、ただ自分が助かるために人食い女たちを殺した公平が、こんな目にあってしまうラストに、ずどーん、と沈みました。
最後には駐在も村人も鬼巫女さまたちの味方であったとわかります。そういえば、謎の村には若い女性しかいなかったので、鬼巫女さまもある程度の年齢になったら引退して、この村に住むのかな、男性たちは無辜なのかな?それとも男性もグルなのかな?といろいろかんがえちゃいました。
リョナ漫画ではないのかもしれないけど、新しいジャンルの漫画に出会った気がして、何度も読んでしまいました。
読み終わっても気になっているのは「毒抜きって何をすることなのかな」です。