なれの果ての僕ら

『なれの果ての僕ら』は内海八重さんの作品です。クラスメートが殺し合いをするいわゆるデスゲームに分類されるのかな?

主人公のネズ君は高校生。小学校の同級生の桐嶋未来とつきあっています。ふたりとも夢崎みきおが主催する、学校で行う2泊3日の同窓会に招かれています。

ここから先はネタバレなのでご注意下さい。

なれの果ての僕ら 内海八重 講談社

内海八重さんの別の作品『骨が腐るまで』を読みました。表紙の絵と「骨は腐らないじゃん」と興味を惹かれて読んだのですが、その話はまた別の機会に。Renta!では『骨が腐るまで』の最終巻の最後に『なれの果ての僕ら』のサンプルページが結構な分量で掲載されていて、そこで絵とストーリーが気に入って読み始めました。Renta!ではそんな感じで別の作品の導入部を宣伝として同時収録していることがあって、特に違う作家さんの作品だとめちゃくちゃ違和感あるのですが、『なれの果ての僕ら』の場合はおもしろい作品にあわせてくれてラッキー、と思いました。

冒頭で、みきおが同窓生を監禁したこと、3日に亘って殺人が繰り返されたこと、首謀者のみきおも2日目に死亡したこと、にもかかわらず事件が収束しなかったことが紹介されます。そのうえで物語が始まります。

明るい雰囲気ではじまる同窓会。先生も参加し、全員が揃ったとおもいきや、ひとりが参加していないことに皆が気づくと、みきおが「そこにいるよ」と、バラバラになった谷口の遺体が入ったダンボール箱を指さします。そこからは同窓会はパニックに。みきおに導かれてゲームが行われ、同級生たちの命が奪われます。この一連のゲームを実験と称するみきお。極限状態の中で様々な行動をとる少年少女たち。その中でネズだけは一貫して、みきおに踊らされるな、仲間を信じろと訴え続けます。

それでも疑心暗鬼になった同窓生たちは問題をおこし、人が死に、最初に述べられていたとおりみきおも命を落とします。するとみきおの母がオンラインで現れ、巧みに生徒たちを誘導して実験をひきつぎます。それまでずっとみきおの挑発に乗るなと訴えていたネズは、未来の死をきっかけに復讐の鬼と化します。

最終的にみきおの母と先生が撃たれたところで機動隊が突入して事件は収束します。事件はマスメディアとネットを賑わせ、まことしやかなつくり話が横行します。悪者にされた先生の親友は子どもたちを丁寧に取材し、事件の真実と称する本を上梓します。

2年後。残った同窓生たちはいまはもう取り壊された校舎跡に集まり、亡くなっていった仲間たちを偲びます。

何より魅力だったのは、クラスメイトたちのキャラクターがしっかりと描き分けられていて、誰が誰だかすぐ覚えられたこと。冒頭すぐに亡くなったタカポンのことも忘れられません。そして、イントロにでてくる「友達って素敵だね」というみきおの笑顔にはぐっと惹き込まれました。

このセリフは深い意味を持っていました。みきおは、殺人も平然と犯しているサイコパスな母親に歪んだ価値観を植え付けられ、それを楽しむと同時に憎んでもいました。今回の犯罪は、人の善性を試すため、と言いつつ、実際は自分が小学生の頃同級生に意図的に植え付けた感情がどのように推移したかを見極め、そして親友と位置づけたネズが極限状態でその呪縛から醒めて自分を殺すのかという実験でした。みきおはネズが自分を殺すと信じていました。そこで死ぬこともみきおの希望でもあったのです。

ところがネズはみきおを殺さなかった。みきおはそのことに驚くと同時に、それを嬉しく感じている自分にも驚きます。このあとみきおはどうするつもりだったのでしょうか。銃をクラスメイトに渡し、ダークサイドに落ちた長谷部が全員の殺傷権をにぎることになったでしょうか。それともネズや早乙女や強くて行動力もある女子たちが事態を鎮静化して警察を呼び寄せていたでしょうか。みきおには少年法の範囲での厳罰が下されるでしょうけれど、母の呪縛からは抜け出せて違う人生を送れたかもしれないと思うと、みきおを殺した未来が正しかったのかどうかわかりません。

未来はちょっと不思議です。数いる男子のなかでネズを選んだ人を見る目を持った女子ですが、かなり早い時点からみきおの殺害を決意しています。極限状態になったからとはいえ、首謀者を殺すのが最善だという思考はちょっとタガが外れている気がします。実際に殺したのは、しょーやんの一件もあって、大好きなネズも追い詰められてかなり深刻な状態になってからなのですが、未来が殺人を決意したのは2人死んで、みきおが本気であることがわかってからすぐだった。未来って本当はどんな子だったのでしょう。みきおは未来には特に影響を及ぼした意図はなかったようなので、未来の意思と行動は未来本来のものだった気がします。小学生にして悪徳教員を告発した強さと、みきおを殺そうと決意した強さは同じもの?いやいや、やっぱり窮地を脱することと人を殺すことの間には大きな隔たりがある。『骨が腐るまで』でも思ったけど、内海さんの少女観には興味をひかれます。

少女たちは皆魅力的でした。みきおに「からっぽ」「一番キライ」と言われた小山内も好きです。だって、みんながいいっていってるからいいんだー、という感覚は私にもあるし。自分がなくてヒトのものさしで自分を計って優越感に浸って他人を見下してしまうこともないとはいえません。

男子は難しい子が結構多いです。長谷部のことは、やっぱりあとでワイドショーとかを見てイヤなヤツだと思ってしまうと思います。でも、月岡と一緒に石井を痛めつけてしまった自責の念と葉月にふられたショックでいっぱいなところで王様という権限を与えられて狂っていき、行動すればするほどひどいほうに流れていったのはわからないでもありません。人は弱いものだから、自分がそうならないなんて、誰が言えるでしょう。

及川は、みきおに意味もなく植え付けられた劣等感から、最後まで抜け出せませんでした。小学校時代のみきおの実験の最大の犠牲者といえるかもしれません。今回の実験の犠牲者は全員ですが…ラストにみんなで会うときも呼ばれていなかったような。あ、山口もいなかったっけ。

桜庭先生もかわいそうだった。教師だからと求められることは多く、事件の場でもただ一人の大人として存在しながらできることはなく、みきおからはさげすまれて。過去のこともさらっと語っていたけれど、生徒の親に責められたのも、流産したのも、そのことを当の本人のネズに言えなかったのも本当にかわいそう。ネズだけは許せないという気持ちもわかるけど、悲しいさいごでした。

ネズが復讐する、と豹変したのは驚いたけど、その矛先がクラスメイトではなかったことは、やっぱりな、という感じでした。サイコパスの母親が見抜けなかったのは、自分を過信していて、特等席で人殺しを見られるという期待に目が眩んでいたからでしょうか。こんな母親を持ってしまったみきおがかわいそうでした。

このお話は最初から、いつ何人が殺されていつ収束するということが提示されていて、なにがどう進んでその展開になるのか、ドキドキしながら読み進める物語でした。2年後に水野が事件からの決別のためにみんなを呼んで、いまでもでたらめな情報を流されながらも、最後はネズの「自分たちから変わっていこう」で締められるのがとってもふさわしかったです。

最後まで読めて嬉しかったけど、楽しみにしていた漫画がまたひとつ終わってしまいました。内海さんの次作にも期待です!

そういえば、冒頭で早乙女のことを「あだ名がエノキでよく女子に間違えられてた(早乙女がこの風貌)?」というコマが妙に好きだったんですが、それもしっかり伏線になってたのが嬉しかったです。

にほんブログ村 漫画ブログ 漫画感想へ
にほんブログ村

PVアクセスランキング にほんブログ村


漫画・コミックランキング


レビューランキング

なれの果ての僕ら 1巻

なれの果ての僕ら 1巻

なれの果ての僕ら 1巻

[著]内海八重

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です