十二人の死にたい子どもたち

『十二人の死にたい子どもたち』は、原作 冲方丁さん、漫画 熊倉隆敏さんの作品です。アメリカの昔のドラマ『十二人の怒れる男』の流れを汲んで、最初はたった一人が他の十一人とちがう意見を持っている状態から、最終的に十二人全員が合意に達するまで議論をするお話です。

子どもたちは安楽死をするために廃病院に集まった見ず知らずの十二人です。集合場所に最後にオーガナイザーのサトシが現れたとき、集まっていた十一人は驚愕しました。既に一人が薬を飲んだ状態でベッドに横たわっていたので、十三人目が現れたと思ったからです。

ここから先はネタバレなのでご注意下さい。

十二人の死にたい子どもたち 原作 冲方丁 漫画 熊倉隆敏 講談社

子どもたちが死にたい理由はまちまちです。病や人為による死が迫っているもの、絶望しているもの、死によって訴えたいことがあるもの、他人にとってどう見えようと、本人にとっては切実な動機があります。

最初に十三人目がいるというハプニングに動揺して、即座の自殺実行に反対するのはひとりです。でも、自死を実行するかどうかの話し合いを続けるうち、それぞれが何故死を望むのかともう一度向き合うことになります。他人の死の決意から自分の動機を見直すものもでてきます。

最後には全員が自死を中止することに落ち着き、みんなその場を去ります。去り際、サトシに「何度やってるの?」と聞くアンリ。サトシは何回も十二人を集め、集団死を選ぶかどうかを彼らに選択させることをしているのです。今回は十三人目がいるというアクシデントがありましたが、毎回なんだかんだで話し合いの結果、自死は中止になるということです。もし死ぬことに決まれば死ぬつもりのサトシ。アンリは次回もまた参加すると告げてその場を去ります。

十三人目がいるという状況自体がミステリーで、病院内にはほかにも不審な状況もあって、子どもたちは現場検証なども行います。それぞれが死にたい理由も行動の理由もミステリーです。作者に挑んでミステリーを解こうとする読み手と、頭空っぽにして次に何が起こるかかたずを飲んで読み進めるタイプの読み手がいると思いますが、私は後者です。なので、読んでいると「うん、そうだと思った」と思うよりは「おおー!そうなのか?」と驚いたり「なるほどそんなことが」と納得したりします。

いやいや納得いくまで考えないとここで死ぬなんてできないという気持ちも、そんなのいいから早くみんなで死のうよという気持ちもわかるし、考えるの楽しいと思うのもわかるし、自分の死は自殺でないと意味がないのだとあせるのもわかるし、なんだか毎回書いている気がしますが、12人のキャラクターが生き生きと動いていてとても惹きつけられます。

とにかく議論で意見を統一していこうという構造がおもしろいです。もちろんオーガナイザーのサトシが明示的に誘導しているからそうなるのですが、子どもたちが素直に受け入れるのがおもしろいです。議論や推理を楽しむ子がいたり、イライラする子がいたりで、とってもイキイキした空気が伝わってきて、議論の落とし所がどこになるのかドキドキして楽しめます。

私にとって一番目立つのはシンジロウ君です。観察して考察して論理的に話して、誰もが納得して話や行動に進めるように誘導する彼は、不治の病に侵されて、多分ここで死ななくても遠からず死んでしまうのだろうと思いますが、ただ絶望するのではなく人を傷つけることなく話す彼がとても魅力的でした。ひとりひとり、どんな風に好きだかを説明するとあまりにも冗長になっちゃうのでしないけれど、それができそうな素敵なキャラクターたちでした。

まずは冲方さんの原作があって、漫画になり映画にもなったようです。映画の特設サイトをみると、キャスティングが漫画とはだいぶイメージが違ってたりもしますが、観ていないのでここでは言及できません。冲方さん、熊倉さんの作品はこれで初めて読んだのですが、他のものも読んでみたくなりました。

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十二人の死にたい子どもたち 1巻

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[著]冲方丁 : 熊倉隆敏

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