『怪しい世界の歩き方』は海東鷹也さんの作品です。1990年代に海外を満喫した海東さん。当時の海外旅行の三大トレンド、①粋でおしゃれなエクスペリエンス②探検隊みたいなアドベンチャー体験③貧乏バックパッカーの、すべてを合わせた旅を愉しんだという体験談です。
ところが記憶に残ったエピソードはホットでカオスでデンジャラスなものばかり。
ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。
最初のエピソードでは、英国の裏道で日本人の女の子たちが悪人に襲われるのを目撃したりしてショッキングです。
オランダの飾り窓の路地裏で地元の危ない人たちに追いかけられて逃げ回ったり。フランスのディスコで日本人の女の子に「友達が喧騒のなかに紛れ込んじゃったから助けて!」と言われて助けたら、騒動を鎮めようと用心棒が釘バットを振り回して血の雨が降った中、女の子たちは楽しそうに去っていっていたり。タイでは汚い地元の店に行きたいとタイ人の友達に言ったら、タイに汚い屋台などない、と高級レストランにつれていかれたり。アメリカでは現地の人も強盗かと恐れる凄まじい服装で徘徊していたり。
海外旅行の大変なエピソード満載です。
海東さんが「海外で大切」と強調するのは、お金、言語、笑顔、自分のルーツに合ったスキル(海東さんの場合は日本の武術)。人種差別で見下されても、東洋武術のスキルを見せれば一目おかれるとのことでした。
線の太い大胆な絵柄とコントラストのくっきりした暗めの色使い。女子には難しいタイプの、一匹狼の海外旅行体験がおもしろくて、時々手にとっては読み返しちゃうタイプの作品です。2011年に発行されています。
私は10-20年ほど前、バックパッカーさんのアジア旅行のエッセイも読み漁っていたので、それらと共通するところもあってとても楽しみました。海東さんも含めて私が好きな旅人さんたちは、柔軟で、相手の反応を見ながら身の安全が得られえる方法をいくつか頭の中にすぐに構築できる臨機応変さ、イザとなったら腕力にもある程度自信を持っている逞しさ、本当にやばそうと思ったら冷静に状況を見極めてダッシュする逃げ足の早さ、女性への優しさを持っている男性です。海東さんはご自分をブサイク系に描いていますが、機転で危機を切り抜ける海東さんはだんだんかっこよく見えてきます。
でも、現地人にすら怖がられるほど怪しい姿だったりするので、もし私が海外旅行中に当時の海東さんに出会っていたら、日本人だと気づいたとしても遠巻きにしてしまうに違いありません。
この作品でも、日本人女性の無防備さと危機感のなさは描かれていますが、他のバックパッカーさんによると、一部の日本人女性バックパッカーは、どんな男性にも簡単に無料で体を許すことで有名で、軽蔑されながらも利用されていたそうで、日本人女性としては嫌な気持ちになります。今だと、日本人女性を狙ってSNSとかで一度も会わずに恋愛してお金を騙し取る国際ロマンス詐欺がありますが、日本人女性って他の国の女性よりも恋愛とか肌の触れ合いに弱いところがあるんでしょうか?
いずれにしても、この作品を今読んで感じるのは「古きよき時代」です。いまの時代は「危ないところに行けば危ない、金持ちが集う場は比較的安全」という概念が崩れてしまっています。世界中のどこを歩いていても、いつテロがあるかわかりません。安全そうなアジアのリゾートでも、歴史のあるヨーロッパの街でも、いつテロが発生するかわかりません。ヒッチハイクなんて、する方も拾う方もありえません。
世界がいまより平和だった時代は、好きにいろんなことができたね、というお話でした。