『後ハッピーマニア』は安野モヨコさんの作品です。ハッピーマニアの続編で、高橋と結婚して月日が経ち、45歳になったカヨが、高橋から離婚を切り出されるところから物語は始まります。まだ連載中です。
理由は、高橋に好きな人ができたから。カヨが浮気したときも家出したときも別れなかったのにいまさら?とカヨはのけぞります。
ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。
振り返ってみると、カヨは新婚でコンビニに行くと言ってふらっと大阪にいた親友のフクちゃんのうちに家出して不倫をしかけちゃうような妻でした。
今回もフクちゃんに頼りますが、フクちゃんの夫もかわいいぽっちゃり系美魔女の家に入り浸り中。息子までもが美魔女に取り込まれています。フクちゃんは化粧品のメーカーを経営していますが、不倫相手はフクちゃんの製品をパクった製品を次々に出して、夫、子供、仕事のすべてを乗っ取ろうとしています。
高橋は相手とは深い関係になっておらず、むしろ彼女は高橋が結婚していることを知ると家庭を壊したくないと言って身を引こうとします。どうやらストーカーに付け狙われていて、ストーカーが近づくと体が震えて動けなくなります。ストーカーに出会った彼女を救うため、高橋は暴力を受けて入院します。
カヨは謝罪する彼女に高橋の身の回りの世話を任せ、姑はカヨの浮気による離婚にもちこもうと暗躍し、高橋の彼女は高橋が退院すると行方をくらまします。
安野モヨコさんは好きな作家さんですが、ハッピーマニアは読んだことがありませんでした。にもかかわらず、後ハッピーマニア、試し読みしたら面白くて、読むのをやめることができませんでした。
「好きな人ができたから別れて欲しい。君が嫌いになったわけじゃないんだけど」と、パートナーに言われる辛さは、何歳になっても同じ。がらっぱち、というかガサツな性格のカヨだし、正直、結婚後に他の男にうつつを抜かしていた時期もありますが(多分しょっちゅう)、そんなカヨでも、いざ高橋に別れを切り出されてみると辛い気持ちが、寄せては返す波のように襲って来るのでした。
そのあたりのカヨの心の描写が巧みで、しかもたまたま巡りあう、いい男のママの昔の男たちが、45歳のカヨを見て「遠目にはいけてると思ったけど至近距離だとムリ」と思う率直な残酷さがカラリと描かれていて、夢中になって読んでしまいます。
フクちゃんは、自分も若いパーソナルトレーナーと、お金で割り切った深い関係を結んだりしていますが、夫に離婚されるのだけはいやで、決着をつけろというカヨの言葉を拒否します。
そんな大人たちの恋愛がおしゃれだけど生々しく描かれていて、漫画としてとってもおもしろい作品です。さすが安野さん!と思います。
が、私としては2巻まででお腹いっぱい。今日はなぜこんなおもしろい、控えめにいって素晴らしい作品なのに、2巻でギブアップしちゃったかの感想を書かせていただきます。
むかし、ハッピーマニアかだめんず・うぉ~か~のどちらかがドラマ化されたとき、藤原紀香さんと稲森いずみさんだったかが、笑っていいともに出演していたことがあったのですが、他のお笑い系の芸能人たちと人種が違うと思われる美しさでした。顔ちっちゃいし、すらっとしててスタイルよくて、それはそれは神々しいまでのお姿で、女優さんはやっぱり違うなあ、と思ったものでした。私とかは、お笑い芸人さんたちよりさらに見栄え悪いしオーラもないですからね。最初から住んでる世界が違うとしか思えません。
カヨとふくちゃんは、もともと藤原さんや稲森さんみたいな美しい人たちで、いま中年になっているのだと思います。きっと美しいのでしょう。
でもね、安野さん、描写が巧みすぎて、カヨとフクちゃんが中年以外の何者にもみえないんですよ。カヨちゃんて、なんかずっと目の下にクマがあったりして、鶏ガラみたいなんですよ。一方で、フクちゃんの夫の不倫相手はぽっちゃりした、男にとって都合の良い中年女であるというのが生々しいのです。
別れは中年になってもきついもの。大人だからといって理性的に振る舞えるわけではない。でも大人だから、その場かぎりの欲望と恋愛感情の区別もわかってしまう。別れを切り出してきた夫は、自分への愛がなくなったわけじゃないけど他の人に恋愛してしまい、それが成就しようがしまいが、恋愛感情のなくなった妻とは一緒にいられないという男であることを、かつて彼と恋愛で結ばれたことのある女である自分は誰よりもわかっている、彼が戻ってくることは絶対にない、よくわかっている。そういう気持ちが、もう包み隠すことなく、説明するわけでもなく、作品からきっちり伝わってきます。
なので、高橋との別れをカヨが受け入れたくないのに受け入れるところまでは切なく読めたんですよ。
でもこの先を想像すると…考えられる展開は、高橋の前から姿を消した彼女を追う高橋、カヨの新しい幸せと高橋の応援、フクちゃんの家庭と仕事の修復または崩壊、てなところでしょうか。
これ以上、中年のガサツ女のクマの入った苦悩顔をみるのはキツイのです。45歳の女性が新たな恋に狂う姿を見せられるのも厳しい。40男に恋されたストーカーつきいい娘ちゃんの苦悩を、元妻目線で読むのもキツイ。あくまでも私にとっては、ですよ。一般的には中年女性が共感できるお話だと思います。
というわけで、安野さんの描くストーリーと絵の描写が巧みすぎてリアリティがあるが故に、私にはちょっと重たすぎるお話になってしまったのでした。
どうやら私、ラブストーリーなら、恋に恋できる男女や、来たるべき結婚生活に夢を持てる世代のひとの話が好きみたいです。あと、孤独老人同士で、相手と自分の介護だけを考えればいい環境でそのための資金はお互い十分あって、終活のひとつとして他人との愛情というものについてじっくり考える、というのはありかもしれません。
これはあくまでも私の受け止め方の問題です。後ハッピーマニアはさすが安野さん、というおもしろい作品なので、中年のリアルな恋愛話が楽しめる方は是非読んでください。ハッピーマニアを全然読んでなくても十分楽しめるとか、安野さん、すごいです。