『人間工場』は、西屋仁紀さんの作品です。命に関わる倫理を捨てた日本。少子化への対策として、人間を製造することを許可します。「彼女が欲しい」と第一工場を訪れる洋介は、大嶽晃に出会います。まだほんの子供のような晃は、自身が工場長だと名乗ります。
洋介は戸惑いながらも製造を依頼します。職場の同僚の佐伯さんが男性と親しげに歩いているのを見かけたのがショックだったからです。
この先はネタバレしつつ感想を書きます。ご注意下さい。

洋介は、製造物のさつきと共に暮らします。控えめで素直で家庭的で思いやりのあるさつきに洋介は満足します。しかし佐伯さんと一緒にいた男性が、佐伯さんの兄だとわかります。どうやら佐伯さんも自分に興味を持っているらしいとわかった洋介は、さつきのことを「製造物」と佐伯さんに紹介します。すると突然、「命を粗末にするなんてサイテー」と怒鳴って走り去る佐伯さん。動揺した洋介は、心配してくれるさつきを思わず吹き飛ばしてしまいます。周囲にいた見ず知らずの女性たちが驚いて「通報する?」と焦りますが、さつきの胸元のバーコードを見て「なんだ製造物じゃん。人間もどきじゃん」と、態度を変えます。
洋介は彼女らや佐伯さんの反応を見て初めて、製造物と命について意識します。突き飛ばしてしまったさつきのヘアアクセが壊れているのを見て、洋介は謝罪すると同時に、もうひとつ買おうかと提案しますが、さつきは「洋介さんがさっき買ってくれたこのヘアアクセは、これだけ。たとえ壊れても他のはいりません。」と答え、洋介は軽く感動します。
そうこうするうちに2週間が過ぎ、さつきの「お試し期間」が終わります。ルールでは、お試し版は期間が終わるとすべて廃棄され、そのあと契約にすすむと改めて本番製造が行われるのです。もしろん説明書には書いてあるのですが、洋介はまともに読んではいませんでした。
晃が本製造するかと確認すると、洋介はヘアアクセのことを思い出し、「僕にとってさつきはあの子しかいないから」と断ります。さつきを自家の墓にいれてお参りをしていると、偶然佐伯さんに会います。
「こないだは一方的に怒ってごめんなさい」と謝る佐伯さんに、「さつきがしあわせだったか、自信なくて」とこぼすと、佐伯さんは「さつきさんは笑ってたんでしょ、ならしあわせじゃなかったわけないって」と答えてくれます。洋介も笑います。
意味ありげにさつきについての書類を見つめる晃。晃は第一工場を一人でまわしていましたが、新人のヒロが助っ人に入り、晃がヒロを指導することになります。そこに、ココと名乗るドイツ語を母国語とする女性が訪ねてきます。彼女は用心棒として勤めたいと主張します。ココによると、第一工場の工場長は過去に殺されたことがあるというのです。また襲撃者が現れても、武術を極めたココなら晃を守れる、というのです。
とまどうヒロでしたが、晃は「殺された工場長はオレっすよ」と言います。ヒロも、工場内での行きさつにより、オリジナルではなく製造物になったのですが、晃も製造物だったのです。クローン製造物には、契約により、オリジナルのいつからいつまでの記憶をひきつぐのか決まっていますが、晃には死のときの記憶がありません。それどころか、晃が殺されたことは極秘情報で、ココがそれを知っていることにも、晃は違和感を覚えます。

今回もサスペンスものなので、あらすじはここまでにして、感想を書いていきます。感想のなかでネタバレしちゃうことも多いと思います。この作品に興味を持っていただいたら、是非、作品を読んで下さいませ。で、読み終わった後で、私の感想も読んで「理解が浅い!」と嗤ったり「私も思った!」と感じていただけたら、それが一番嬉しいです。
この作品、まずは1巻だけ発行されてたときに読んで、そのあとしばらく漫画から離れてました。またRenta!に戻ってきたときに、読みかけだった作品を全部は覚えてなくて、明確に「まあ続きは読まなくてもいいかな」と思ったもの以外については「新刊がでてたら買う」という方針にしていました。だから、その月はとんでもなくたくさんの金額をマンガにつぎ込んじゃってました。
この作品の1巻に対する感想は「なかなか面白い。印象としては泉道亜紀さんの『人間回収車』に近い。製造物を依頼する人々にはなんとも言えない『軽さ』がある。佐伯さんが急に怒って、後になって『あんなに怒ってごめん』といってくるのも、なんか軽い。洋介はほぼ何も考えずにさつきのお試し版を製造したけど、そして佐伯さんの『笑ってたならしあわせだったんじゃん?』に『ありがとう、佐伯さん』と満面の笑みで返すけど、でも確実に洋介の中で変わってるものはある、と思わせてくれるものが、何かある」でした。そして、この工場は結構な人数の製造物があって、場所も結構広いし、少年とヒロくんだけで管理するのは大変すぎて現実味が少ない、と思ってしまいました。(批判じゃなくて、純粋に感想として。)
ところが、最近になって完結した内容をまとめ読みしてみると、この国の国民が「軽い」気持ちで製造物をつくったり廃棄したりするように、政府が意図していたことがわかるし、第一工場が、大嶽晃によって管理され運用されるようにテイラードで設計、建築されたものであることもわかってくるのです。
でてくるキャラたちは、オジサンオバサンを含め、どこか厨二病っぽいキャラですが、それがすっごく好きです。私が一番好きなのは梓。インターセックスで、歯がギザギザで表現されます。全然関係ないんですが、ちょっとエッジのかかった性格も共通点になって、大好きな、あららぎ菜名さんの『抑死者』のキャラを思い出します。ほんっと、関係ないんですけどね。私の場合、こういうデフォルメ表現ってマンガやアニメでは、キャラを判別するのにすごく役立つので好きです。前にテレビでやってた三国志のアニメで、全員がイケメン系で、人を覚えられなかったことがあって。

敵役のキャラとか、大臣の天ノ屋含め、キャラが明るい感じがします。現・晃は、オリジナルが殺害されたところまでの記憶がありません。しかも、役に立たない(言うこと聞かない)と判断されればあっさり廃棄されてまた工場長になるという、砂を噛むような生き死にを繰り返されているという絶望的な人生を歩んでいます。ヒロは、そんな工場長に寄り添いたいと願っているキャラで、しかも途中で製造物になってしまって、何よりも大切に思っている家族の元に戻れません。最初は敵対して現れる梓も、インターセックスという、自分にはどうしようもできない身体で生まれたことにより、屈折せざるを得ない人生を送ってきました。でも、晃もヒロも梓も、私には全然重たかったり苦しかったりしないキャラなのです。誰だって複雑な性格を持っていると思いますが、私にはこの作品のキャラたちは根っこが明るくて、わざとらしくなく前向きにいろんなことに挑戦していく人たちに見えて、そこが大好きです。
むしろ、工場長は、オリジナルのほうが「お前、いったい何があった?」です。パパは晃と敵対する立場で現れるのですが、このパパからオリジナルの晃が育つとは、あんまり思えなくて、そこは私には違和感でした。もっと読み込んでみたら印象変わるかも。
ココちゃんは明るいキャラで、友達を守るために必死で取り組んで武術を身に着けた少女で、その武術はストーリーの中でめちゃくちゃ役に立たします。
西屋さんはこのお話を高校生のときに構想していたそうです。うんうん、高校生っぽう感じはする。でも、チープだとか厨二病だとかご都合主義展開があるとかでは全然なくて、いろんな要素をちゃんと練って構成して、生き生きとした人物たちを生み出していると思うのです。第二工場、第三工場の工場長たちのキャラもめちゃくちゃステキ!萌え萌えなのです。それが「読者を萌えさせてやろう」感なんてまったくなくて、きっと作者さんが一番このキャラたちのファンで、心底楽しんで生み出したんだろうなー、読者が知らないエピソードとかもめっちゃありそう!感が、めちゃくちゃいいのです。
ラストの晃のひとことも、お話のまとめ方としては、先人が作り上げたいろんなパターンの中のひとつかもしれないけど、この世界が本当に完成されているおかげで、「工場長だったらこのシーンで絶対にこう言うよね!」という説得力があります。
もう、ホントに楽しかった!作品として発表してくれたことに感謝です!