学級魔女裁判

『学級魔女裁判』は、宙埜つきさんの作品です。記憶を失っている来栖唯は、聖白百合学院に1日遅れて入学します。ワクワクして教室に入る唯ですが、クラスメイトたちに冷たい目を向けられ、たじろぎます。

とまどう唯でしたが、教師の言葉に驚きます。「魔女である者も人間である者も、それぞれの信念をもって乗り越え、無事に卒業できることを願っています。」思わず唯は「魔女ってなんですか?」と尋ねます。

ここから先はネタバレしていますので、ご注意下さい。

先生は記憶がない唯を退学させると言いますが、校長がそれを止め、唯は訳がわからないまま学校生活を始めます。

にこやかに近づいてくるクラスメイトが教えてくれます。このクラスは、国内で7年に一度行われる儀式を行うために編成されたもの。今年は人間の少女が23人、魔女が5人いて、少女たちの役割は魔女を見つけること。卒業すると魔女は「聖人」になると言います。そこで発生する、生徒の、屋上からの転落事件。そこで「死体が確認された。魔女裁判を開廷する」という主旨の校内放送が入ります。

記憶喪失の唯にとっては訳がわからないまま裁判が進行しますが、ここではネタバレします。

魔女は抑えがたい殺人衝動を抱えています。在学中、魔女は最低1人の人間を殺す必要があります。人間は殺されるのを回避し、「人間が死体を発見すると」魔女裁判が開催されます。陪審員も生徒たちがつとめ、裁判の結果、1名を「魔女」として断罪します。処刑された少女が魔女であれば心臓だけが残ります。人間であれば消失してしまいます。

そうして魔女が1名だけになると、その魔女は聖人へと昇格し、殺人衝動も消え、高い魔術を駆使して日本を護ることになります。

クラスメイト全員が疑わしい中、生徒たちの間には奇妙な力学が生じ、あるときは協力し、あるときは敵対して、魔女探しが始まります。

ちょうど読み始めたときに、完結巻である9巻が刊行され、スッキリ読み切ることができました。

唯の記憶喪失には意味があり、彼女が主人公ポジションであることには間違いありませんが、ずっと唯が主人公でいつづけるわけではありません。したがって、読者もクラスメイトたちのように「唯も魔女かも?」と疑いながらお話を読み進めることができます。

最初の魔女裁判のところで「ああ、久しぶりのデスゲームかあ」と思ったのですが、この作品の主眼は、デスゲームで最後の一人になることではありません。自分が魔女だと明かして場を制御してほかの魔女を始末しようとする魔女や、人間と硬い友情で結ばれる魔女、パワーバランスをはかりつつ、生き残ろうとする人間に見える少女は本当は魔女かもしれず、読者は、彼女たちの非常に複雑な動きを追うことになります。私はいつも通り推理せず、ただただ「へ?」「ひゃーー」「あわわ」と楽しむ読み方をしました。

この物語の主眼がなにかは、中盤以降に明示的に示されます。28人の少女たちと担任の先生だけではなく、学外から闖入してくる人々の思惑も関わってきます。私は素直にメインテーマに感動して、そのテーマに沿って行動を起こす少女たちの心情に寄り添って読み進めました。ヴィランポジションの魔女の能力には、少女たちと同じように怯え、絶望します。「こんなことできるやつにどうやって勝つのよ、、、」と、読者も絶望しますが、少女たちは諦めません。

少女たちは、それぞれの人生を背負っています。20年に満たない人生の中で、それぞれの葛藤があります。この学院に来てから、同級生が命を落とすのを見ています。他でもない、自分が断罪して、死に追いやったこともあります。誰も殺したくないと必死で殺人願望を抑えている魔女も、そうしている理由があります。そんな少女たちの思いを支える大人たちもいます。その思いが、途方もない相手に相対する勇気と気概を与えてくれるのです。

と、いうわけで。単純なデスゲームではないはっきりしたメッセージがあり、それが、青春群像物語であるこの作品に輝きを与えています。

Renta!で他の方の感想を読むと「もっと少女たちの過去やそれに基づく思考に踏み込んで欲しかった。」とあり、確かにそうかもしれません。でもその方が「そうすると20巻ぐらいになっちゃいそう」ともコメントしていて、私も、まさにその通り!と納得しました。

デスゲームでたくさんのクラスメイトが、整理されて頭にはいる作品としてホリユウスケさんの『シャッフル学園』があります。この作品は、「クラスに殺人鬼が入ってきたときに、クラスメイト全員と殺人鬼とイヌの人格が、ほかの人の体に入ってしまう」という複雑な設定で、読む前は「ただでさえ20人以上いるのに、人格と身体がシャッフルされてたら覚えられない」と怖気てしまうにも関わらず、読み始めると、全員の「みかけの人格」と「本当の人格」があっさり頭に入ってくるという、不思議な作品でした。

この作品では、28人の少女たちは特徴的な外見と、それぞれの性格がきちんと描かれていますし、最初のほうに処刑されちゃう女の子たちも、ちゃんと印象に残っています。でもやっぱり、28人全員を覚えておくのはちょっとタイヘンで「ええと、この子は誰だったっけ」というのが、若干でてきちゃうときもありました。でも、最初から違和感のある「なんで仮面つけてるの!?」という、ほぼ喋らない生徒にもちゃんと納得のいく役割が与えられていて、全体としてとっても魅力的な作品でした。

みんなが頑張って大団円を迎えたはずなのに、恐怖をそそるラストも、スキです。いや、しっかり感情移入して読んでいたので、一瞬「えええええ。やめてえええ」と思ってしまったのですが、作品としてはこのラストはありだな、ニヤリ、という感じです。感情移入の対象が個人ではなく、チームとして解決をはかった少女たちみんな、というのも、新鮮な体験でした。

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