ジュカイ―承認欲求の森―

『ジュカイー承認欲求の森ー』は、作 梶原如来さん、画 吉宗さんの作品です。ジュカイ、という響きと表紙から、オカルトとかデスゲームかと思いきや、サブタイトルは承認欲求。「?」と思ったのが、読んだきっかけです。

承認欲求ものというと、だいたい女性向けのマンガで、SNSに自分が投稿した内容に踊らされて、どんどんヤバい状況に自分を追い込んでしまうハナシが頭にうかびます。そのテのマンガは軽妙でおもしろくて、私もいろんな作品を読んでいます。が、じっくり読んで感想を述べるというよりは、軽さを楽しんで、ちょっとだけ我が身を振り返させられるような作品なので、このブログではあんまりとりあげていません。

ホラーなのに承認欲求って、ちょっとおかしみをそそります。この表紙に出てくる化け物が承認欲求が強くて、SNSにうつりたがるお話?と思いつつ読み始めましたが、もちろんちがいました。

ここから先はネタバレがありますので、ご注意ください。

承認欲求が強いのは、人間の登場人物たちです。有名配信者23名が、別の有名配信者、バズルタナカに指名されて、富士の樹海に集合します。数年前から都市伝説のように語られている、樹海に潜む狂信集団について詳しい情報をつかんだというのです。目も鼻もない巨大な化け物が森の中を徘徊するあやしい動画が送られてきました。配信者たちは承認欲求をくすぐられ、まんまと呼び出されます。

主人公の越路はフリーライターでブロガーです。彼は恋人を殺されています。別れ話を切り出してきた彼女の部屋に、「もう一度会う」ために、越路はわざとスマホを忘れます。その晩、彼女はレイプされ、その一部始終が越路のアカウントで配信されます。その結果、彼女は自殺してしまいます。越路はもちろん無実ですが、有名配信者に目をつけられ、あの配信は越路によるリベンジポルノだと喧伝され、多くの人が証拠もなしにそれを信じています。越路は激しく傷つき怒っています。でも、越路は仕返しをしないことを選んでいます。憤怒と悲嘆をかかえつつ、「怨念を超えろ」を掲げて、正義を訴えるブロガーとして活動しています。越路がここに来た理由は、決して自分がバズりいたいからではなく、このような情報に踊らされてまでバズりたい配信者たちを取材したいとの気持ちでした。

集められた配信者たちの中には、越路を追い詰めてきた辛木もいます。その他、迷惑系、心霊系、NGO代表者、サバゲ―実況者などさまざまですが、最も目立つのは、世界的に有名な配信者のピート。彼が日常的に使用している言語が何かについては表現されていませんが、すくなくとも紙面上では日本語が非常に堪能で、ネイティブレベルです。ピートは過去にこの樹海で自殺した人の遺体に無礼なふるまいをした経緯を配信し、謝罪した過去があります。その過去の罪滅ぼしとして狂信者たちと対決し、それを配信することでさらなるインプレッション稼ぎに務めようとしています。ピートは財力にものを言わせて食料・水・発電機などを持ち込んでいます。自然とピートがリーダーポジションにつきます。

しかし、彼らはその場で、彼らをここに呼んだバズルタナカと思われる人物が、首吊り自殺をしている姿をみつけます。しかし、遺体の状況をみると、みんながタナカからのメールを受け取ったときにはすでに亡くなっていたと考えられます。これを、タナカが正体を暴こうとしていたカルトのしわざと考え、すぐに逃げて通報しようと主張する者たちに、ピートは、「カルトを見つけて退治して、それを配信するんだ!」と言い張って、撤退を許しません。

そしてその晩。ふとした気配に目を覚ました越路があたりを確認すると、あの化け物が歩いている姿を目にします。化け物が去った後に、それがいた場所に近寄ると、配信者のひとりが惨殺されている姿を発見します。ここから、配信者たちは次々と命を落とすことになるのでした。

ピートは日本の樹海で死者を冒とくした経歴の持ち主ではありますが、ピートとその取り巻きが全員日本語を流暢にはなしているところには、ちょっと違和感はあります。ピートが外国人である必然はあったのか。その後の展開を考えると、ピートのチーム全員が日本語ペラペラです。たしかにいまは日本語を非常に流暢に操る配信者さんは多いですし、教科書日本語じゃなくて一般的な話し言葉を使うひともとっても多いです。これは、外国人がネイティブの日本語に触れる機会がおおくなったためだと思います。

関係ないけど、昔、関西弁ネイティブレベルのイーディス・ハンソンさんが「テレビの視聴者さんのなかには、全部台本を覚えてるんでしょ、すごいですね、と言ってくる方がいて、私の日本語スキルを認めようとしない。業腹である」的なことをおっしゃっていました。「外国人がそんなに流暢なはずがない」という偏見’があったのですね。ちなみに、イーディスさんを最近テレビでは見かけていない気がしますが、しっかりご活躍なさっているようです。

この、ピートたちが日本語が流暢っていうのは、伏瀬ってほどではないし、説明もされてはいませんが、この物語が成立するためには重要だったかもしれない、と思います。お話的に、ではなくて現実として成立するために、です。まあ、目無しの化け物がでてくる創作で「現実に成立する」ってのもナンセンスではありますが。ただ、そういうディテールのロジックがお話に(読者が意識せずに)臨場感を持たせることもありますよね。

化け物とかカルトとかは、ストーリー上、もちろん主人公なのですが、このお話の主人公はちゃんと「承認欲求」です。

越路は「リベンジポルノで恋人をレイプして配信したヒトデナシ」扱いされて苦しみましたが、越路を告発した辛木は、義憤からその行動に走ったわけではありません。過激な配信をすればバズるし、ネット上で誰かをリンチにかける先導者(扇動者)になることが楽しいからです。証拠も状況証拠も何もなくても、決めつけて配信して、皆がそれについてくれば「オレの動画をみて皆が納得したことが、越路が犯人である証拠だ」と、なんの後ろめたさもなく言い切れるのです。今回集められた配信者のなかには、越路を追い詰めてきた本人もいて、ことあるごとに越路を煽ってきます。

越路を含め、みんな「何故自分が呼ばれたのか」は疑問におもっていますが、帰ろうとしないのは主に「カルトの闇を暴いてバズってやる」と思ってるからです。越路は「そのさもしい根性を『報道』する」ために同行しています。メンバーは多いものの、役割分担もビジュアルもはっきりしていて、ちゃんと覚えることができます。

女性たちは添え物的な気がします。ちゃんとここにいる確固たる動機がある、ストーリー展開のキーとなる女性もいるのですが、当然それは読者が思うこと。配信者たちを牛耳るピートも、男性配信者たちには「化け物を発見してカルトを追い詰めるための役割」を割り当てますが、女性配信者たちには「男性配信者たちの性欲を解消するためのはけ口」の役割を振り当てたりして、散々な扱いをします。私が受けた印象は「実況系配信者として強烈な承認欲求を持つ人は、男性のほうが多い傾向がある」という環境が反映されているのかな、という気持ちでした。たしかに、女性配信者で強烈な「承認欲求」を持っている人は、撮った映像より、美容系とか整形系とか、「ステキなアタシ」マインドの人が多いような気もします。まあそれは、私が、実況系や迷惑系や騒動系の配信をあんまり観てないだけかもしれませんが。

途中から物語に参加する自衛隊員とかお巡りさんとかのキャラの役割のしっかりしていておもしろかったです。

化け物とかカルトとかデスゲームとかネットリンチとか、最終的に「承認欲求」にちゃんと結びついていて、ラストシーンの越路の心境の描写にはゾクっときました。

正直に言うと、デスゲームもオカルトも好きだし、グロは好きじゃないって思いながらも実際私はグロを結構好んで読んでるし、「感想を突き詰めるほど頭を使って読むよりは、アタマをカラッポにして愉しむ系のマンガ」と思って読み始めたのですが、アタマカラッポでは決してなく、じっくり読み込める作品でした。

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