『ボクの知らないカノジョ』| 誰かの支えでありたいと願う強い気持ち

脚本 おかざきさとこさん、作画 ひとりぼっちさんの『ボクの知らないカノジョ』は、11月24日の放課後、最近つきあい始めたばかりの慶燐高校の生徒、大和と琴音が、下校時に河原でおだやかな時間を過ごし、翌日また会うことを約束するところから始まります。

ところが、翌日から、琴音と、同級生で優等生の望(のぞむ)のふたりが登校しなくなります。SNSの既読もつきません。

ここから先はネタバレしていますので、ご注意ください。

カノジョの失踪からはじまる、静かな日常の崩壊

そしてクラスには、琴音と望が河原でキスする動画が拡散されます。動揺する大和。そんな中、ふと、琴音とのSNSに既読がつきます。大和は必死で琴音の行方を追います。琴音を見出して守ることに集中するあまり、大和は周囲の微妙な雰囲気には気づきません。

スポーツ特待生で大和の親友の雄太、実は大和に思いを寄せている琴音の親友の美貴、クラスでも目立たないけれど何か大和にいらだっている風の留華、なぜか美貴に意味深につきまとってくる健太郎、慶燐高校の生徒を敵視するホームレス、いつも明るいけれどなにか裏がありそうな担任の樋水先生、常に落ち着いててなぜか大和の周囲に目を向けているらしい涼子先生、大和に冷たい態度をとる大和の母、学校に怒鳴り込んでくる琴音の父。望の父は、誰にでも高圧的な著名な弁護士で、母は精神的に不安定そうです。

大和は、周囲の思惑や、なぜか大和に敵対する雰囲気にとらわれず、まっすぐに琴音のことだけを考えます。そして、徐々に、残酷な真実が判明していきます。

スマホに隠された真実と、それぞれの視点で描かれる人間ドラマ

これ、スマホの小さいサムネイルで表紙をみたとき、三部けいさんの作品かと思ってしまいました。クリックしてみたら、絵柄が全然違ったのですが。多分、三部けいさんの『夢で見たあの子のために』の表紙の印象と似ている、と思ったのでしょうね。私は昔から、「〇〇と△△って似てる」と感じるポイントが人とずれているらしく、もしかしたら他の方には共感されないかもしれません。ご参考までに、三部さんの作品の表紙も載せさせていただきますね。

表紙に惹かれてお試し読みしてみると、初恋の幸せにどっぷりつかった瑞々しいふたりの姿と、その直後の失踪という毒展開にがっつり胸をつかまれてしまい、時間を惜しんで読んでしまいました。

大和が純粋に琴音を思うところは、最初の初恋のラブラブの姿からまったくぶれることなく、好感を持って読み進めることができました。失踪してしまった琴音の人格については、周囲のみんながガンガン、ミスリードしてきます。美貴は大和がいないところで「琴音は悪魔よ!」と吐き捨て、留華は「鈴井くんは何も知らない」と大和を非難します。最初は「お前が知っている琴音が本当の琴音だ」と支えてくれていた雄太も、途中から言動が怪しくなります。でも読み進めると、彼らは「自分が誰かの居場所でいたい。誰かの支えでありたい」という気持ちに動かされていることがよくわかります。「誰かの支えでいたい」と願う彼らのピュアさと、ひとりぼっちさんの優しい絵柄に癒されます。

そして、大人たちはみんなヘンです。子供たちの行動は悪意や傲慢から発生するものではありません。ホームレスの怒りももっともだし、物語のキーになっています。でもなぜか、涼子先生を除く大人の女性たちはみんな内面の不安定さが常に表面に出ていて、キャラが登場するだけで、落ち着かない気持ちになってしまいます。そして、私には大人の女性たちがみんな同じように見えてしまって、ちょっと混乱してしまいました(上述のとおり、私の「似てる」の感覚は変なので、普通は混乱しないかも)。最後には(ネタバレです)大和の家庭の闇も判明します。こんな背景を背負っているのに、子供たちが純粋であることが救いになる作品です。望は大人の悪意に歪められてしまった子供で、人間として弱いのは弱いし、危うい大人になりかかってはいるんですけれど、非難するというよりは悲しく感じます。子供たちの純粋さと、大人たちの歪みが極端に切り離されているようで、世界が二分されているような不思議な感覚に襲われます。

全然関係ないのですが、最近、櫛木理宇さんの依存症シリーズにはまって、一気読みしていました。依存症シリーズは、私にはすごく刺激が強く感じられる作品です。「人間とは、なんらかの力を持つ “男性” (大人) のことである。それ以外のヒトは男性への奉仕者にすぎない。よって、男性には、ヒトを蹂躙することが許される」という信念を持って途方もない犯罪を犯すものたちが、その信念に賛同しない人間から、彼らの犯罪に見合うだけの、えげつない復讐を受けるお話、として感じています。櫛木さんの作品に流れている “男性の理念” とそれに対する “怒り” の感情が、『ボクの知らないカノジョ』にでてくる大人たちにも共通している気がしてしまいました(例外の大人もいますが)。私には、『ボクの~』に描かれている大人たちの身勝手さが、作品の中で意図されていた以上に、ひどいものに感じられてしまったかもしれません。 こんな読み方、作家さんたちにめちゃくちゃ理不尽だと思うのですが、読者っていうのは勝手なものですね。すべての作品は、その作品としてプレーンに読みたいとは思っているのですが、どうしても自分の状況やそのときの感情に左右されてしまうので、難しいところです。

ボクの知らないカノジョ
脚本:おかざきさとこ 作画:ひとりぼっち/初出:GANMA!/Renta! 配信:1巻 2025/3/1・5巻 2026/5/1

コメントを残す