オバイケ未来案内所

『オバイケ未来案内所』は高瀬飛鳥さんの作品です。依頼者を、望む未来へと導く占い師、尾羽毛一生(オバイケ カズミ)と、アシスタントのなつめ、燻里、慎のお話です。

一生にわかるのは未来です。枝分かれしたものを含めて、全部が見えるのです。なので、一生は、「依頼者が本当に望むことは何か」を聞き出し、それをかなえる未来へと、依頼者を導きます。

ここから先はネタバレしていますので、ご注意ください。

依頼者がオバイケ未来案内所に来て、一生が願いを聞き出し、それを聞いた依頼者がどのような顛末を迎えるのかを、原則として1話完結で紹介するフォーマットです。が、案内所にいる4人の関係を含めて、一生たちの状況にも変化が起きるお話でもあります。

ここで2話だけほぼ完全ネタバレしちゃいます。1話では、女子高生が「先生が好き。家庭は壊すつもりはないけど相思相愛になりたい」と希望します。一生は非常に具体的なアドバイスをし、先生との間はいい感じになります。そこからの展開のなさにじれる女子高生に、一生は「キミの希望通りになっているじゃないか」と指摘します。家庭を壊さず相思相愛になった以上、先生も、一線を超えることはありません。そこで一生は改めて尋ねます。「本当の願いは何か。」女子高生は答えます。「先生を手に入れたい。」そこで一生はそのためのアドバイスします。女子高生は先生を強迫して深い仲になり、まんまと妊娠し、先生がすべてを失って絶望する中、大きいお腹を抱えて先生と一緒に汚部屋で暮らす彼女は幸せを誇っています。

なつめは「何故あんなことを!?」と憤りますが、一生は「本人が幸せと言っているから幸せなのだ」と答えます。一生は「キミは私に善人でいてほしいのだね」と、なつみの願いを定義しますが、一生は一種のソシオパスで、善悪の観点ではなく、純粋に「依頼者の本心からの願い」を正しく聞き取り、それをかなえることに意義を見出しているのでした。

2話では、依頼者は一生の指示を守ることに失敗します。依頼者は社長夫人になることを願い、一生は、社長の母親である専務からのすべての願いを叶えるように指示します。しかし専務の依頼は、明らかに仕事を超えた、典型的な家族運営企業の家族の私用を言いつけるもの。依頼者はパワハラだとキレてしまいます。社長は、専務のパワハラも問題だが、社長からの「業務外の指示は断れ」という指示を守らなかったことも問題視します。このことで、社長は彼女への信頼を失い、依頼者は一生にクレームを伝えに来ます。

一生には、依頼者がキレる未来も、クレームに来る未来もみえていました。でも、そうではない未来も見えていたから、社長と結婚するためのアドバイスを与えていたのに、と、あっけらかんと言い放ちます。

依頼者の立場や性別や願いは多種多様です。なつめは多くの場合、ことの顛末に違和感をもちます。燻里は一生のすべてを肯定します。慎は一生をペテン師、なつめを偽善者と決めつけた上ですべてを楽しんでいるといいます。

特殊な能力を持った主人公が依頼者の願いを叶え、それが決して幸せには繋がらない、というフォーマットの作品はたくさんあります。姫神ヒロさんの『幸福屋』、稲垣みさおさんの『猟奇伝説アルカード』は感想を書きましたが、他にも秋乃茉莉さんの『Petshop of Horrors』、曽祢まさこさんの『呪いのシリーズ』、小野双葉さんの『邪悪のJack』、永遠幸さんの『地獄少女』、秋本葉子さんの『悪魔アプリ』など、ぱっと思い出せるだけでも好きな作品がたくさんあって、人気のあるフォーマットなんだなあ、と思うとともに、同じフォーマットでもいろんなバリエーションがあって、それぞれがおもしろいことに、改めて感心します。

オバイケの最大の魅力は、当然ですが、一生です。切りそろえた、ウェーブのかかった髪がかわいくて、人形のようなビジュアルです。このビジュだと髪が長いパターンも自然なのでは、と思っていると、過去シーンで、長い髪の姿もしっかり見せてくれます。いつもあっけらかんとしていて、誰にでも硬い口調で話しかける一生は、社会的な善悪の概念にとらわれない「本当の願い」を聞き出し、それを批判せずに受け入れて叶えることにこだわっています。なつめの願いが、一生が「全知全能」になって、依頼者の願いを聞き入れるだけではなく、依頼者を含めたすべての人が幸福になる未来を作り出すことであると、一生はわかっていますが、一生はその期待には応えません。一生は一見、サイコパスのように見えます。でも、いらだち傷つき、みんなにかんしゃくをぶつけたなつめを、その心情は理解しないながらも、気遣って寄り添い、フォローしようとする優しさも見せます。

一生がサイコパスのような感情になった原因は、のちにわかります。それを読んで「じゃあソシオパスっていうのかな」ともおもいますが、一生がソシオパスでもなく、なつたちを愛おしく思っていることは、ストーリーの中でしっかり読者に伝えられます。読み進めてきた中で、読者がキャラたちに抱いた愛情に、しっかり応えてくれるストーリーになっているのです。一生の思いは大げさではなく、でも工夫されたビジュアルで表現され、読者にも衝撃をもたらします。

特殊能力を持つだけに、10歳まで生き延びるのも難しいとされる尾羽毛家で、成人し、「どこまでも期待してしまう」なつめ、「盲信する」燻里、「予知能力なんて存在しない、からくりを勉強したい」とうそぶく慎、という仲間に出会い、未来をすべて見通せることに絶望しないで生きていく一生に、感動ししまいました。

読後感が「スッキリ」の、小気味よい作品です。

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