『十字架のろくにん』は、中武士竜さんの作品です。漆間俊と、至極京に率いられた4人。多分、この6人が、十字架のろくにんなのでしょう。
美しい顔立ちの至極ですが、図体がでかい乱暴者の久我、冷酷な右代、ナルシストの千光、ビビリの円を連れて、徹底的に漆間をイジメます。イジメるというか、すでに犯罪の域に達しています。

ただのイジメでは満足できない至極は、漆間の両親のクルマの事故に導いて死なせます。弟は意識不明の重体です。
漆間は復讐を決意します。戦争時に特殊部隊にいた祖父から、拷問に関するあらゆる技術を受け継ぎ、4年後に再び至極たちの前に現れた漆間は、5人に体を押さえつけて殴られて泣いていた漆間とは、もう別人です。
1人ずつ。漆間は復讐を始めます。
ここから先は、ネタバレありで感想を述べていますので、ご注意下さい。

表紙の絵は迫力ありますが、基本的にはかわいらしい絵です。でも、内容や描写は凄惨です。
漆間は、じいちゃんの丁寧な指導を受け、それを実行する力を身に着けました。じいちゃんと相談しながら、ひとりひとり、相手に合わせたラストを用意します。
拷問と惨殺以外にはうぶな少年で、漆間に惹かれてしまう同級生もでてきます。
復讐を続ける中で、そういった大切な人たちも巻き込んでしまいます。至極の仲間たちは、高校生とはとても思えない悪人で、彼らが犯している犯罪も桁違いです。キレイな顔で、とんでもない至極が、何故他人に残酷な仕打ちをするようになったのか、何故漆間に狙いを定めて執拗に傷みつけるのかは、最後まで読めば、至極自身の言葉で語られています。それが説得力が非常に高いとするか、「それだけ?」と捉えるかは読む人次第ですが、その理由を頭に置いて、過去に(至極がしたことではなく)漆間が復讐のためにしたことを考えると、改めておぞけがたちます。漆間は精一杯の復讐をしてきたし、それは画面から目をそらどたくなるほど凄惨なんですが、その苦しみを至極の上に起きたこととして考えると「それでも至極だったら平然としてたんだろうな」というのが怖いんです。
そして、その理由に裏付けされた圧倒的な「選民観」が、至極の自信をつくりあげ、それを敏感に感じた彼の4人の仲間たちは、仲間ではなく手下の位置づけに、自ら下ったのでしょうか。私は、スクールカーストという言葉のカケラもない時代に学生時代を送ったし、同じ学年ではイジメもなかったのですが、もしかしたら「自分が鈍くてイジメられてても全然気づかないので諦めたのかも」と思うことはあります。自分がそんな感じなので、強迫されるわけでもないのに、自ら「手下」になる、というシチュエーションがちょっと、あんまりよくわかりません。
至極の手下の4人には、それぞれ特徴があって、読者が混乱することはありません。4人以外にも強大な敵が出てきます。味方(?)も個性豊かで、誰かが死んでしまうと、大きな喪失感があります。キャラクターの描き方が上手なのですよね。ビジュアル的にも重複することないし。
ここで重大なネタバレしちゃいますが、漆間のじいちゃんは先に死んじゃうかもしれないけど、弟は最後まで生き残って、なんなら漆間が死んじゃって(復讐のために罪を重ねてるし)、弟は意識回復して、漆間の意思を継いで、幸せになるために生きていくのかな、と思ってました。だから、じいちゃんと弟が死んじゃってすごく悲しかったです。
最初はわりとトントン拍子に復讐が進みますが、残りは至極一人となり(この発言もネタバレですね)、「ついにクライマックスか」とツバを飲み込むと、至極の新たな子分らが現れます。少年漫画の場合、「せっかく人気あるから」と、話をひきのばすことがあるので、もしやこれでなかだるみ!?と危惧しましたが、この作品にそんな心配は無用。最後まで息をつくことなく、読ませてもらいました。
単純に言うと、凄惨なヒトゴロシの物語です。私はグロいのも決して嫌いではありませんが、グロいことをあえて愉しむわけではありません。特にレイプものは大嫌い。美少女を対象としたリョナはキライですが。
この作品も、復讐する爽快感だけではなく、目を覆いたくなるような悲惨な展開があります。先に挙げた、じいちゃんと弟もひどい目にあいますが、漆間に好意を持つ同級生たちも、男女に関わらず、残酷な運命をたどります。
それでも、嫌悪感より漆間の復讐を見届けたいと熱望する気持ちで、表紙をめくると、あっという間に奥付を見る、そんな風に、毎巻、惹きつけられて読んでしまいました。絵柄がかわいらしいのもひとつの要因だと思います。あとは、寄り道をあまりせずに展開されるストーリーと、キャラクターの魅力だと思います。大切なひとを次々と、理不尽に失っていく主人公を、情緒的に過ぎず、弱すぎも、無双でもなく(まあ、フィジカルもメンタルも相当つよいでしが)生きていく漆間の姿に、夢中になって読んでしまいました。