私が読んだ『小悪魔教師♡サイコ』は、漫画 合田蛍冬さん、原作 三石メガネさんの作品です。「私が読んだ」と、含みがあるのは、この作品が刊行されたあとに、別の漫画家さんでまったく同じストーリーが、タテコミ、フルカラーで発行され始めたからです。
今回の感想では、そのことに触れさせていただきます。
主人公は、見た目清楚系の若い先生。舐めてかかった生徒たちが性的な質問をしてからかっても、恥ずかしがりもせず、怒りもせず、逆セクハラを咎めるでもなく、冷静に切り返します。男子たちは沸き立ち、一軍女子はいらっとします。
ところが、この先生、先生のテクニックとして問題児たちをあしらっているのでは決してなく、本気のサイコパスなのでした。そのサイコパスさを最大限に発揮して、クラスの問題児たちに対処します。

私の気持ちを言うと、Renta!でタテコミ版を見つけたとき「なんで?」と思いました。私は合田先生のファンの立場からこの作品に入ったので、正直、いい気持ちはしませんでした。合田先生版をないがしろにされた気持ちになったからです。ファンですらこの気持ちなので、合田先生も嬉しくなかったことと思い「せっかくおもしろい作品を生き生きと描写した合田先生がお気の毒」と、微妙な気持ちになってしまいました。「こんなに、そのまんま流用の作品つくるなら、合田先生のマンガを企画者がタテコミにすればよかったのに」と思いました。
作品の性質上、1シリーズ完結にできるので、せめて合田先生作品とタテコミ作品で、違うエピソードを描いていただけばよかったのでは、と、今でも思います。タテコミの先生に反感があるのではまったくなく、企画した出版社さんと原作の三石先生の、漫画家の先生方に対するリスペクトが欠落している、と思ってしまいました。
そのため、合田先生が連載をやめられたことも、裁判で争ったことも納得です。今後の原作ものの制作の際には作画の先生に「あなたの作品を連載中に、あなたの構成を参考として同じ作品を別の作家に描かせて発表することはしません」と、書面で契約しないとダメですね(涙)。作品が面白く、人気作品になるだろうと思っていたので残念でした。
と思っていたら、『小悪魔JKサイコ』という作品も出ているようなので、さらに驚きました。冒頭の無料部分をチェックすると、教師版の冒頭で「えっ、こんなかわいい先生が、赴任初日でこんなこと言っちゃう!?」と、ツカミになっていたセリフがそのまま使われていました。読んだ方の感想では「おもしろい。でも、内容は教師版と同じなので損した気分」ということだったので、その後の展開も一緒なのかもしれません。この作品も、同じとはいえ、クチコミは比較的高評価のようです。同じストーリーで、3種類のマンガに展開して、稼げるだけ稼ごうってことか、、、私としては、もはや、主人公より、三石先生がサイコパスなんじゃないか、とw 正直、同じ作品の売上げを、裁判で合田先生にご負担をかけるのも話題性のひとつとし、複数の漫画さんを「うまく利用して」伸ばす手法はあんまり気持ちよくはないです。
企画は、三石先生発信ではなくて出版社というか、運営者主体だと思いたいです。最初から、面で見せるマンガとタテコミの両方で同じストーリーを違うマンガ家さんが連載する、原作の先生は必ず同じタイミングで2人のマンガ家の先生に原作を渡す、編集者も含め2つのプロジェクトの両方に関わるのは原作の先生だけにする、原作の先生と2人のマンガ家の先生は交流を避ける、という取り決めで企画を始めてくれれば、合田先生も読者も「合田先生作画作品の再構成!?」と思わずに済んだのに。
合田先生のサイコかわいいビジュアルと主人公の性格のサイコっぷりがすごく好きで、合田先生版が読めなくなったのがとても残念だったので、今回はこのような感想ではじめさせていただきました。

さてさて、この作品自体への感想です。
合田さんの作品を初めて読んだのは『ドクムシ』です。このときも、かわいらしい絵にえげつない内容のギャップがすごかったのですが、今回もギャップがすごい!
タイトルは小悪魔♡とありますが、サイコ先生(正しくは小春先生です)の度合いは、全然小悪魔ではありません。悪魔と言ってよい、いや、悪魔のレベルのことをするのです。先生のこともバカにしてかかって、同級生のアザミへのレイプを主導する彩羽と、その彼氏である竜斗や取り巻きたち。私が学生の頃は、それはイジメとは言わず、性暴力という犯罪でしたが。漫画の場合、そこで必ずセットになってくるのは、その一部始終をスマホで撮って、脅迫することです。昔は、イジメの相手が自殺してしまうとみんな「そんなつもりじゃなかった」と泣きながら反省するイメージでしたが、いまの漫画は「こんなことで自殺する弱い奴が悪い」とせせら笑い、さらに深刻な犯罪に手を染める大人になっていきます。そして、親たちもそれを推奨します。
以上は漫画でよくみるフィクションですけどね。それが現実に起こったということで、北の方で起きた事件がYoutuberさんたちのお気に入りのネタになっています。以下はYoutubeからの情報ですが、いまでもイジメ加害者たちや、金と権力で情報を握りつぶそうとする親たちや、「いや、アタシデートで帰るから」と知らん顔した教師や、加害者親たちに焚きつけられて「自殺に追い込んだのは自殺者の親。イジメはなかった。逆恨み」と言った校長とかの、近況が報告されます。特に、加害者親たちや先生たちのムーブが、フィクションを超えていて、言葉を失います。「アタシのデートのほうが重要なの」という先生は、本心はどうあれ、アサハカだったなあ、と感じます。
小春先生はそんな態度はとりません。イジメられ、性的被害と動画撮影をされているアザミは、迷いに迷ったうえで、小春に促されて自分の辛い状況を打ち明けると、小春はニッコリ笑って「教師として守る」と言い切ります。感極まるアザミですが、小春はなんだか、ドライです。その笑顔がただの笑顔ではない描写は、さすが合田さん!このお話、合田さんの絵の個性にピッタリだ!と盛り上がります。
小春先生にはノウハウとテクニックがあり、彩羽をおもいがけないやり方で排除します。彩羽を排除したのは小春だと、直感的に確信した竜斗には、小学生の頃に階段から落ちて以来植物人間状態で病院にいる兄がいるのですが、その兄が「あいつ怖い」と言っていた同級生が、小春先生だったことを知ります。
実は、小春は子供の頃からサイコパス。先生が死ぬところを見たいと、先生の頭を大きなスコップ(関西的にはシャベル?)で殴ります。血だらけになった先生は、「あなたはとても強いものを持っている。その強さは、正義のためにだけ使いなさい」と優しく諭します。小春ちゃんは「あたし、先生みたいになります!」と、キラッキラの目をし、心に誓います。このエピソードから、残忍な拷問や殺害をするためのスキルも、自分が犯人にならないための工作も大得意で、いつも嬉々としている小春先生が、どのように形成されたかよくわかります。うーん。好きなタイプの構成!漫画の合田さんだけでなく、原作の三石さんも、お話づくりが巧みだなあ、と、すごく惹きつけられます。
竜斗は小春先生の排除を狙いますが、小春先生に上手くはめられ、仲間を殺され、警察に拘束されます。小春先生は学校を去ります。アザミは号泣。彩羽とつるんでいた女子生徒たちも人がかわっていて「先生、ありがとう」と泣きます。「教師ってサイコー」と、サイコパスな笑みを浮かべる小春先生。でも、次の高校では、生徒はさらに荒れていて、先生たちのクセもさらに複雑化します。
と、お話が進んで、合田さんにも三石さんにも小春にも、がっちり心を掴まれたところで、冒頭に述べた制作トラブルにより、合田版作品は終わってしまったのでした。
タテコミ作品って、昔いくつか読んだのですが、私にとっては読みやすくはなく、原則として見開きの紙面全体を使って視覚に訴えてくる点も含めて漫画だと思ってしまっています。なので、タテコミで違う絵でこの話を追う気にまではなれず、タテコミは読んでいません。
ホントに、合田さんのキャラと画面構成でこの作品を読み続けたかった。好きな、おもしろい作品だったので、すごく残念。昔、「原作者の扱いがひどかった。梶原一騎先生がいかつくなっていったのも当然だと思う」というコメントを見たことがあります。原作者が搾取された時代が、いまはムカシになったのはいいのですが、このやり方だと、原作者さんはウハウハだけど、先行して作品の人気を確立させた漫画家さんがお気の毒です。出版社は、これからは、こんなやり方、絶対に止めてほしいです。Renta!でも、合田作品は掲載終了となるようです。購入した作品は、掲載終了になっても継続して読めるのはRenta!のよいところ。
ワクワクで始まったのに、悲しい気持ちで終わった作品でした。