「事故物件の、オバケ調査員 心理的瑕疵物件で起きた本当の話」は、原作 児玉和俊さん(株式会社カチモード)、漫画 みつつぐさんの作品です。カチモードは、日本初、オバケの調査をする会社です。
「オバケがいることを証明するために」調査するのではありません。できれば「オバケがでないことを確認するために」調査するのです。
ここから先は完全ネタバレですので、ご注意ください。今回もいろいろ思うところあり、いつも以上に話題がそれちゃってます。

何故オバケがいないことを確認したいのか?それは、児玉さんが不動産コンサルタントだからです。
児玉さんがコンサルするのは、借り手ではなく貸し手です。不幸にして、事件、事故、その他の理由で、賃貸物件で人がその生命の最期を迎えることがあります。さまざまな理由で亡くなってしまう方がいるのはとても残念なことです。多くの人がその死を悼み、亡くなった方の最期が心安らかであったことを願います。でも、自分にはどうしようもない理由で突然「事故物件のオーナー」になってしまって、資産価値が落ちてしまった人も、被害者です。同情されることもなく、賃料を大幅に下げても、精一杯お部屋を良い条件に整えても、借り手がつかない大家さんは、追い詰められて泣き崩れます。
そんな大家さんのために、児玉さんはあらゆる装備を備えて「事故物件ではあっても、心霊物件ではない」ことを実証するために立ち上がります。
当然、児玉さんは心霊を信じてはいません。ところが、調査を続けていると、合理的な説明がつかないことも起こるといいます。
ある部屋では、若い女性が命を落としています。娘と連絡がとれないので部屋を確認してほしいとのご両親からの連絡で大家さんがチェックすると、娘さんは部屋で縊死していました。ご遺体を発見した大家さんも大変なショックを受け、貸し出しを止めていました。それから5年が経ち、告知したうえで貸し出すと、店子は「なにか見られている気がする」と、短期で転出してしまいます。大家さんはたまらず、児玉さんに調査を依頼しました。児玉さんにきこえるのは、体を激しく掻きむしるような音。女性はなくなる前、ストレスからか、ひっきりなしに体をかいていたそうです。
児玉さんが大家さんにヒアリングすると、彼女が亡くなった後、彼女のご両親が一度も部屋に訪れることなく処理されていたことがわかります。児玉さんがご両親に連絡すると最初はオカルト詐欺などを疑って苛立ちを隠さないご両親でしたが、今の状況を説明し、大家さんを助けるため協力してもらいたい旨をなんとか伝えると態度は徐々に軟化し、2人は部屋に来ます。お父さんが「まさかまだここにいるのか?」「ここにいるのか?」と聞くと返事するかのようにまたたく天井灯。「ここにいるなら、一緒に帰らないか?」お父さんがそう問いかけた時には、反応はありませんでした。でも、その後、その部屋では問題は起こっていないそうです。
この作品には、大家さんに寄り添って、「怪奇現象」の解消に努める児玉さんの姿が描かれています。

以前、「事故物件芸人のお部屋以外も行って視るんです」で、松原タニシさんの活動を描いたおがたちえさんの作品の感想を書きました。事故物件での霊障にフォーカスした2つの作品の主旨はかなり違います。
松原タニシさんは、ちょっと前にYoutubeで炎上していました。タニシさんは、北野誠さんの「事故物件に住む奴がいるならテレビに出してやる」との呼びかけに呼応して、事故物件に住み始めた芸人さんです。このトピックによってかなり売れっ子になり、映画化もされたそうです。
その映画で、ある部屋で亡くなった女性が今も現世にまよい、住人を怯えさせている、というニュアンスの描写があったそうなのですが、これに、彼女のご遺族が難色を示したそうです。タニシさんと事務所が、ご遺族の抗議を無視そていたため、ご遺族が苦しみをYoutuberさんに相談しました。このYoutuberさんが取り上げたことで、タニシさんは炎上します。ご遺族の望みはただひとつ、お嬢さんが幽霊となって化けて出ている、という映画の表現について、タニシさんが「すべて事実です」との発言を撤回することです。
Youtuberさんは最初は穏やかにご遺族の気持ちを代弁していましたが、タニシさんが無視を貫く中、徐々に怒りを見せ始めました。「無視する気持ちもわかる。映画として表現した以上、タニシさんおひとりの問題でなくなる可能性があるからでしょ。ご遺族は映画作品そのものを名誉毀損として訴えるつもりはない、と仰ってるんですよ。これ以上無視するなら、僕もアプローチの仕方、変えていきますよ」と、遠まわしになにやらを仄めかし始めました。
そのタイミングで、タニシさんの事務所が謝罪文を出し、Youtuberさんも矛を収めました。もしかしたら関係各所と合意して弁護士が文書をレビューするまで時間がかかっていたのかもしれませんが、印象としてはYoutuberさんが態度を硬くしたために、しぶしぶ謝った形となり、残念な感じでした。
以前は「化け物キューピーちゃんかわいい!」などと喜んでいた私も、このときのタニシさんにはちょっとがっかりしました。
私が「ある種のユーレイ話って、手放しでたのしめない(怖がれない)」と思い始めたのは、八甲田山の行軍について考えていたときです。多くのホラーの語り手が、八甲田山話はヤバい、自分も幽霊にあった、このネタは作品化しないと幽霊に約束した、というハナシがあります。私はオカルトやホラーを否定しないので、確かになにかあったのかもしれません。でも、八甲田山行軍に参加した方々は、全員、お名前がわかっていて、ある程度の行動も調査されていて、全員、命令を受けて極寒の八甲田山の演習に臨んだ帝国軍人です。悲惨な最期を遂げたのが実戦ではなく演習だったのは、戦死に比べてより無念だったかもしれません。子供の頃はこの演習の意味は分かりませんでしたが、悲惨な大規模遭難になっただけに、演習の意義は大きかったことでしょう。
直感的には、ナポレオンもヒトラーも勝てなかったロシアの無敗の天才、冬将軍に、日本が勝ったことにもこの犠牲で得られた教訓が生きたのでは?と思ったのですが、日露戦争は2月から9月に、主に遼東半島で行われたそうなので、日本兵は本格的な冬将軍に挑んだわけではなかったのですね。大和和紀さんの「はいからさんが通る」で、日露戦争に行った伊集院少尉が、シベリアの地で負傷して気を失っているところをラリサさんに助けられた描写があったので、日本兵はがっつりシベリア奥地まで行ってたイメージがありましたが。(しかも、日露戦争から関東大震災まで20年近くあったんですね。日露戦争出兵で離れ離れになった少尉と紅緒が、関東大震災被災をきっかけに結婚するまで、ストーリー的には紆余曲折あったので時間経過には納得はするのですが、キャラたちの容姿とか、少尉と紅緒がすぐに子供に恵まれていたことを考えると、なんか5年以内の出来事な気がしてました(笑)
ハナシをちょっとだけ戻して、八甲田山の怪談は「あることを書こうとすると筆が止まってしまい、心の中で『わかりました、このことは発表しません』と祈ったら手が動くようになった」とか、「トークショウで八甲田山のハナシをしていたら、数人の死者(兵隊さん)が楽屋に来た。恐ろしくてその場にいられなかった」などの、ホラー作家さんたちの記述があります。確か、木原浩勝さんだったと思います。(私は木原さんファンでもあります。)
それがウソだと言うつもりは全然ないのですが、亡くなった兵隊さんたちは「何処かの誰か」ではありません。家族がいて、子孫を調べる気になれば調べられるのではないでしょうか。もし、私が、亡くなった兵隊さんの母、妻、きょうだいだったら、「亡くなったあとも寒い場所を重装備のまま彷徨ってる」「彼らの身の上に起きたことをネタに語ることで金もうけをしている人たちがいる」「故人が、縁もゆかりも無い人に霊障による害を与えている、と喧伝されている」と思うと、どんな気持ちになるだろうか、と考えたとき、怖いとか興味深いとかより、ただただ辛くなってしまいました。
そう感じたときから、事実をほのめかす怪談が、苦手になってしまいました。たとえば「八幡の藪知らず」を「日本人てバカ」と軽蔑して森に入っていった外国人の少年が奇怪な死を遂げた、とか、古のムカシの武士のモノノフが、帰還を約束した日に弟に会うため、幽霊となって帰ってきた雨月物語、とかはいいんです。明治以降、八幡の藪に入って行方不明になったひとはいない、と知ってるし、この武士の子孫を特定することもできないので、安心して怪談を楽しめます(八幡の話は、怪談というより、怪談を使った因果応報ものですが)。でも、あるトンネルがホラースポットになってる、はいいとしても、「そこで不良たちにひどい殺され方をした男性の怨念が」という話になってその事件自体は実話だったりすると、「怖い」以前に「ひどい」「亡くなった方に無礼すぎ」とか思うようになってしまいました。
これって私の中で全然論理的じゃなくて、たとえば、戦国時代に騙されて殺された花魁たちの霊が悪さをするという花魁淵については「事実なら花魁たちが気の毒」と思うのですが、将門塚の話になると「将門も悔しかっただろうな」とは思いつつ、気の毒というよりは、怖いという気持ちが勝ってしまいます。
タニシさんについては、漫画しか触れていないのですが、きっと怪談ライブとか行ったら楽しめる上手い芸人さんなんだろうなあ、と思っていました。タニシさんは「これは実体験です」をウリにしていたようです。題材的に、事故物件の原因となった個人を特定することが比較的容易にできそうなので、ご遺族が「やめて欲しい」と仰るのなら、エンターテイナーであるタニシさんは、やっぱりすぐに反応して欲しかったです。「でも本当に娘の幽霊なら、幽霊でもいいから娘に会いたい」というご遺族の気持ちが切ないです。映画になっていたので、タニシさんのお気持ちひとつでは動けなかったために、反応が遅くなったのだとは思いますが。
さてと、やっとですが、お話を本題に戻します。
児玉さんが事故物件に取り組む姿勢は、エンタメではありません。事故物件だから、と大家さんが泣きをみなくてもいいようにしよう、というのが目的です。幽霊の存在を否定しているわけではなく、「確かにここで亡くなった方はいます。でも、時間をかけて最善を尽くして調べた限りでは、恐ろしいことは起きませんでした。」と、入居検討者に伝えるための調査です。音、湿度、気温、電磁波その他もろもろ客観的な数値を収集します。「なにかに見られている気がする」と店子さんが言う場合は、亡くなった方の、借りて以降の状況、亡くなった状況、場合によっては前述の娘さんのように「亡くなった後のご家族の対応の履歴」などもヒアリングして、さまざまな考察を重ねるそうです。
その結果として、「やっぱり何かある」=「オバケがいる」と判断した場合は、オーナーさんの希望に応じて対処するそうで、カチモードが借り上げて調査を続けたりもするそうです。オーナーさんは助かりますよね。
ただ、具体的にどんな指標で「これはオバケ」「これはノン・オバケ」と判断するかはよくわかりませんでした。たとえば、児玉さんが「調査してみよう!」と思うきっかけは、英国の有名な幽霊城で大規模調査が行われて「謎の冷気が感じられたが、湿度、風のとおりの変化がなかった」と報告されたという話題に触れたときだったそうなのですが、「冷気を感じた」は「実際に気温が下がった」のかどうかは、この漫画からはわかりません。これはとっても興味津々で、「ゾッとして身震いする」ことは私もあるのですが、気温が下がってるからそう感じるのか、違うのか、知りたいです(笑)。
以前、数人で飲んだとき、Aさんが、「人をヤケドさせるなんて簡単ですよ」といいながらもBさんの手に軽く触れました。Bさんは、そのときは何ともなかったのですが、翌朝になるとそこに水ぶくれができていて、数日痛かったそうです。「ひどい目にあわされた」と笑っていましたが、ヤケド後ができたのは事実だそうです。Aさんの息子さんは「昔、オヤジの運転で家族で近所をドライブしてたら、急に目の前が開けて、見たこともない夜景が広がってた。オヤジがこれはマズイ、とバックして角を曲がったらもとの場所に戻ってた。オヤジといるとそういう不思議なことが時々ある」と言います。私は、不思議なことってやっぱりあるんだなー、と思いました。多分、頭のいい人は「このような手段を使えば、『軽く触っただけでヤケドした』と感じさせることはできる」と論破できるのだと思います。が、そういうことじゃないんですよね。まやかしかもしれないけど、本当かもしれない。Aさんがその気になれば奇跡を起こす教祖様になれるかもしれません。でも、少なくとも私は、AさんがBさんをヤケドさせられるからといってAさんを信仰したりはしませんが。
なんか寒気がする。なんか見られてる気がする。何かが見える気がする。あるはずのない◯◯をハッキリと見た。そんなとき、「幽霊がでた」とか、「気のせいだ」とか、「何か見たのかもしれないけど、見たものが幽霊だって、どうして断定できるの?」とか、他人はいろいろ言えます。でも、引っ越した家で、初日から何か見られてる気がして落ち着かなくて、しかもなんとなく怖い気持ちになってしまったら、それが霊障であろうと気のせいであろうと、とにかくそこにはもう住めない、と思ってしまいます。
でも「そこで不幸ないきさつがあった」ことを何も知らなければ、何も感じないけれど、「ここで刺殺された人がいて、そのときは部屋は血の海、部屋の前から大通りにむかって、返り血を浴びた犯人から垂れた血が点々としていた」なんて聞いちゃったら、ちょっとした何かがあっただけで、ムリな気がします。児玉さんは言及していませんが、児玉さんが助けるのは、おそらく正直にビジネスをしている大家さんだと思われます。ということは、告知はちゃんと行い、住む人は「安ければそれでいい。心霊現象なんて気のせい」「自分は見たことないから多分だいじょうぶ」あるいは、タニシさんみたいに「確実に『出て』、ネタに使える心霊物件に住みたい」とか、「お祓いの修行中だからできるだけシツコイ霊を調伏してみたい」なんて猛者の方々なことでしょう。
それでも短期に人がどんどん入れ替わるというのだから、私としても、「怖い」という思いを否定する気にはなりません。ちなみに私が否定するのは、見えないものでお金を取ろうという動きがあるときです。この場合、「逆も真なり」は成立せず、たとえ「ただで祓ってあげる」と言われても信頼できません。私に見えないのをいいことに、逆に何かをくっつけてくるかもしれませんからね。
上の段落でお分かりかとは思いますが、私は心霊とか物の怪を否定しないのですが、自分がそれで困ったことがないので、こちらが話題をふったわけでもないのに「見えると主張する人」や、逆に「明かりのない暗闇がこわいとか、バカ」と断言する人を冷笑してしまう傾向があります。
そういう私にとって「決して頭から肯定もしないけど、否定もしない。自分が行う調査によるお墨付きで、安心してそこに住める人もいる。だから大家さん、僕を利用してください。もし『何かいる』と判断されてしまった場合は、僕の会社で借上げることも含めて、大家さんと相談して前向きに解決します」という、児玉さんのスタンスは、とても好ましく思えます。
裏では実は、なんかメリットあるのかな?決して「児玉さんは清廉なひと。疑うなんて」と言うつもりはありません。ただ、「もうどうしろっていうのよ。私だって被害者よ(涙」と泣く大家さんにとっては、すごく支えになるだろうなー、と思います。
もう!いつにも増して自分語りしちゃいました。ごめんなさい。漫画的感想を言うとしたら、みつつぐさんの絵がキュートですごく好きです。