ナリスマシアイ

『ナリスマシアイ』は瞳ちごさんの作品です。主人公の奏衣は漫画の編集者。会社のそばにある友人小崎のコーヒーショップに、後輩のあずみとともに入り浸っています。

奏衣には秘密があります。大切に持っている通信機能のないスマホが秘密の鍵です。

ここから先はネタバレなのでご注意下さい。

ナリスマシアイ 第1巻
ナリスマシアイ 第1巻

ナリスマシアイ 第1巻

[画]瞳ちご

Renta!

奏衣はネットアイドルをしているのでした。正確にはフォロワー3万超えの少女AMUのナリスマシです。もともとAMUのファンだった奏衣でしたが、ひょんなことからAMUと会った日AMUは交通事故で亡くなり、今際の際にSNSを消さないで、親に見せないで、と言い残します。

奏衣はしばらくはただスマホを持っていただけでしたが、誘惑に負けてAMUになりすまして発信を始めたのでした。

イイナ、と思っていたフォロワー、タズヌが漫画の原作を持ち込んできます。恋愛がわからないけれど恋愛を書きたいというタズヌに、奏衣は経験を積むことだとアドバイスします。

奏衣がAMUとしてタズヌにリプすると、いきがかりで二人は会うことになります。フォロワーは実はAMUの義弟でした。ナリスマシがわかっても怒らないタズヌに奏衣は混乱しますが、タズヌはAMUを愛していて、AMUが帰ってきたようで嬉しいのでした。

あずみはふとしたことから、奏衣がAMUだと気づきます。好きな小崎が奏衣に一途なこと、奏衣が小崎に気がないといいながらも無自覚に自分の邪魔をすることにいらついたあずみは奏衣がナリスマシをしていることをネットに流します。

奏衣はバッシングをうけ、会社や小崎の店も迷惑を被ります。そのことをきっかけにかえって親しくなったタズヌと奏衣はデートをしますが、お互い気が合わないことに気づき、二人は疎遠になります。小崎はバッシングされている奏衣を助け、あずみの意図に反して二人の距離はさらに近づきます。

腹を立てたあずみは合成のベッドイン写真を流しますが、思ったほど奏衣はへこみません。あずみはさらに奏衣のプライバシーをネットに晒そうとして会社の人事書類を盗撮しようとして編集長に見つかり、逆ギレして会社を辞めます。

あずみは奏衣と直接対決します。ここに至ってようやく奏衣は、小崎を深く必要としている自分に気づきます。あずみは去り、奏衣は小崎の淹れたおいしいコーヒーを飲みながら自分の気持ちを小崎に伝えます。

この漫画に惹かれたのは、表紙の女の子が可愛かったからです。ナリスマシしているネットアイドルはもちろんのこと、主人公の奏衣もかわいくて、試し読みしてみたらなにやら秘密がありということで興味をそそられました。

最初、単にコスプレしてネットアイドルをしている話かと思ったのですが、そうじゃなくて大学生らしき女の子になりすましていて、しかもその子は死んじゃっているという設定にかなり驚きました。同じスマホケースで2機種持っていて、片方は通信機能なし(持ち主が亡くなって親が解約したのでしょう)。同じ、しかも特徴的なスマホケースというのでちょっと混乱しました。この辺、自分がスマホとかSNSとかについてゆけてない感じで、ちょっと歳を感じちゃいましたが、そんな私も今では通信機能なしのAndoroidノートパッドを持ってたりするので…技術が展開されるのは早いです。

義理のお姉ちゃんのナリスマシに、ナリスマシでもいいから会いたいというタズヌくんの気持ちは正直に言うといまいちわかりませんでした。AMUちゃんのスマホのパスワードはまさかの誕生日だったので、亡くなった時にご家族の手元に戻っていたら中を見ることができて、親御さんも少しは嬉しかったのではないかと。まあ、最終的には奏衣がタズヌに渡したし、AMUも親に見られたくないとか言っていたのでいいのですが、でも、私は、人は亡くなってしまったら、御本人の遺志よりも残された人の気持ちのケアのほうが大切、と思うタイプなのでちょっとひっかかりました。

あずみはネットリテラシーありそうだったし、AMUの行動範囲が自分とかなりかぶっていることにもすぐ気づいたので、奏衣をネットに晒すことが、会社や小崎に迷惑をかけることに事前に気づかなかったも意外でした。小崎への恋心から奏衣を貶めるためにネットを使うくだりはちょっと納得いかなかったです。

でも、そんなことはささいなこと。私はこの作品を分冊で読んで、1話は27ページくらいしかないので、どんどん進むお話とかわいい主人公に夢中になって、毎回配信を心待ちにしていました。

タズヌと奏衣がいい感じになってデートして、お互いにタイプじゃなかったと気づくあたりはすごく現実っぽくてよかったです。特にタズヌはAMUちゃんを好きで、ナリスマシで興味を持っただけの奏衣がネットでバッシングされていてリアルでも被害をうけて気の毒に思って気持ちがスライドしただけだったのが明らかだったので、ねえちゃんの代わりにはならなかった、という結論は説得力ありました。が、イケメンのタズヌだけど、ねえちゃんには弟としてしか見られてないのにベッタリ惚れちゃってどうしようもないところこそが、ねえちゃんに避けられてた理由だよ、奏衣とのことであんた成長できた?大丈夫?と、心配になるセリフでもありました。逆に、誰もねえちゃんの代わりにはならないんだから、と吹っ切れた、と見ることもできるので微妙です。その辺は読み手側に判断を任せてくれるいい結論だったと思います。

あずみが、奏衣に対して、ナリスマシなんかをしていたのに小崎に呆れられないだけでなく職場の人間関係にもヒビすら入らないことに嫉妬して暴走していくのはわかるような気がしました。ネットに自分に近しい人を晒すという一線を越えたところはやっぱりあんまりわからなかったけれど、一線を越えた後で暴走しちゃうのはわかる気がします。ただ、仕事をあっさり辞めちゃうのは残念でした。実は私、いろんな会社で何度もリストラされてるんです。年齢も高いので再就職はすごく大変です。契約社員とか派遣社員とかも経験したし、サラリーマンの線路から一度はずれちゃうと、戻るのがどんなに大変かは、身に染みているんです。漫画の編集者って、辞めてもすぐ別の出版社で就職できるものなんでしょうか。一応、懲戒解雇ではなく自主退職で若いから何とでもなるものなんでしょうか。そのあと小崎と一緒にいたい一心でカフェのバイトの金魚のフンをしてたので、仕事にはこだわらない人なんでしょうか。あずみも編集者としてタズヌの作品をモノにしようと頑張ったりしていたので、仕事への執着のなさはなんだかとっても…なんだろう、変だけど、傷つきました。

恋愛ものはホラーやサスペンス以上に多く描かれている分野です。漫画だけでなく、映画、ドラマ、小説でも、どんなシチュエーションで誰と誰が出会ってどういう結末になるのか、作者さんにはいつも新鮮な切り口が求められて、お話を作るのは本当に大変だと思います。

そんななかでこのお話は、ナリスマシと晒しを入り口に、近くにずっといていつも落ち着いてくつろげる空間を作ってくれる人が一番大切な人だよね、という王道のおはなしを楽しくワクワクドキドキさせて読ませてくれる、安心できる作品でした。

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