『シャッフル学園』はホリユウスケさんの作品です。かわいい女の子がヒッチハイクしてトラック運転手にファミレスでご馳走になっているシーンから物語は始まります。
運転手さんの言葉にほとんど反応せず、女の子はひとり語りします。山の中ではカップルと大学生を殺したと言い始めます。そして運転手さんを殺し、ファミレスにいた全員を殺してしまいます。
ここから先はネタバレなのでご注意下さい。
[著]ホリユウスケ
場面は一転。高校2年生の鈴森静馬たちの登校シーンが始まります。特徴のあるクラス22人の面々。みんなに可愛がられている猫の「センター長」。全員揃って授業を受ける中、警察の車両が校庭に集まって来ます。大量殺人犯を捕らえようとしているのです。
警察はマユツバものの新兵器(?)を使って犯人を追い詰めようとします。兵器からでた光線がほぐれて警官たちがあせったその瞬間、殺人鬼は静馬たちの教室に踏み込みます。
その刹那、兵器の効果で全員意識を失うとともに、みんなの人格と体がシャッフルされてしまいます。静馬は株本優(女子)の体に、センター長は人見かなで(女子)の体に、上水流アレンは江口るみの体に、というように、みんなが別のクラスメイトの中に入っているのです。意識を取り戻して散り散りになっていた皆はめちゃくちゃになった校内を徘徊して、出会ったクラスメイトごとにシャッフルしていることをお互い気づき合いますが、それに気づいた皆はとても重大な事にも気づいています。そう、殺人鬼の人格もクラスメイトの誰かの体の中に入っているはずなのです。
実際、殺人鬼は殺人を始めます。まずは誰かの顔の皮を被った殺人鬼が一瞬姿を現します。その後、顔の皮を剥がれた青井雪子の遺体が見つかります。生徒たちは警戒しながらもそれぞれの性格に基づいて様々な動きをします。アレン(江口るみ)はリーダーとして状況を分析して皆を率い、野球部の南風清蔵(外見位高あかり)は冷静に殺人鬼を倒すことを狙い、位高あかり(外見知識絢音)は気絶をくり返します。汝鳥光郎と四竈里奈だけは人格と外見が合致しています。
見えない殺人鬼が殺戮を続ける中、主人公にして語り部である静馬は、生き残るのが2人であることや、それが自分ではないことなどを小出しに教えてくれます。
また、殺人鬼の体は人格がほぼない状態です。その殺人鬼の体を、外見が上水流アリスの江口るみと外見が静馬の株本優が何故か大切に守ります。
実は、殺人鬼は汝鳥の中にいました。汝鳥は、この世界に入ったばかりのとき、飯塚八千穂(男子)の姿をしていました。現実世界で飯塚と小池史訓は根津理沙を巡って三角関係にありました。小池はこの世界では青井雪子の体に入っていました。そのためこれを現実ではなく夢だと思い込み、「お前さえいなければ!俺の夢から出ていけ」と飯塚を殺したのです。すると、飯塚のなかの汝鳥は青井の中に入り込みました。汝鳥の意識は小池の意識を強引に眠らせ、自分が小池の記憶を有していることに気づきます。
汝鳥は、クラスメイトの中で一番優秀な女子生徒の体で生き残り、全員を殺人鬼のせいにして殺し、自分は悲劇のヒロインとして生き残って世に出ようと策略します。自分の体に入った殺人鬼と会って「殺してくれ」という汝鳥を殺人鬼は気に入ります。殺人鬼は青井の体を殺して汝鳥の意識を汝鳥の体に取り込みます。汝鳥と殺人鬼の意識は意気投合し、他人を殺しては意識と記憶を取り込んで彼らの意識を強引に眠らせることを繰り返していたのでした。
汝鳥が目をつけたのは、体育会系で優秀な体を持っていて顔もかわいい株本の体です。株本の体に入っているのは静馬でした。汝鳥に挑発されて汝鳥を殺しそうになる静馬でしたが、外見アリスのるみに声をかけられ、我に返ります。汝鳥の思い通りにはさせない、と自殺した静馬は汝鳥に株本の体を触らせ、汝鳥の中に入ります。
汝鳥の意識の中で汝鳥と殺人鬼のロジックを説明された静馬は、クラスメイトの意識をコンプリートして生き残った美少女になりたいという汝鳥の野望より、まだ意識が誰の中にいるかわからない(=意識は死んでない)かなでちゃんとキスしたいと思う自分の野望のほうが強い、と、汝鳥の意識をねじ伏せます。そこにはだかる殺人鬼の、殺人をしたいという強い意識を、今度はセンター長のさらに強い獣の本能でねじ伏せます。
一方、アレンの体に入っていたアリスは、他を寄せつけず、ずっとひとりで外に出る方法を考えていました。外に繋がっていると思われる空間にものをぶつけて質量のバランスを崩すことでこの世界を崩せると考えたのです。アリスの思い通り、この世界の均衡が崩れるのと、静馬が汝鳥を倒すのはほぼ一緒でした。
そこからは外見センター長の残月千尋が大活躍して、全員の人格を集めて廻ります。残月は猫の目で汝鳥と殺人鬼の会話をきいて全てを把握していたのですが、人間の言葉が話せないことと持ち前の睡魔に負けてそれまで活躍できずにいたのでした。
警察は、校舎の残骸の中に唯一息のある上水流アリスの体を見つけます。同時に、アリスの体にはアレンとの子供が宿っていて、子供も無事であることがわかります。るみ(外見アリス)と株本(外見静馬)が最後の瞬間まで守っていた殺人鬼の人格は、実はアリスの子供だったのでした。沸き立つ警官たちの横を、センター長が駆け抜けて行きます。
9年後。アリスたち双子の面差しを持った少女とセンター長が出会います。少女の人格はかなで。やっと会えたね、と会話するのは、静馬を始め23人格の猫です。センター長の体の中には心理的に牢屋に閉じ込めた殺人鬼と汝鳥、赤ちゃんも含めた全人格が存在しています。かなでは、るみママも元気だよ、と伝えます。
そして、皆に目をつぶっていて、とお願いして、静馬とかなでは念願のキスをするのでした。
この作品は、Renta!を読み始めた初期の頃からリコメンデーションにあがっていたものです。最初の殺人鬼のくだりから学園ものになるところがすごく印象的だし、絵もかわいいし、気になったのですが、作品の紹介に、クラスメイト全員の人格がシャッフルされる、と書いてあったので、「クラスメイトを覚えるのもおぼつかないのにそれがシャッフルされていてお話を理解できるだろうか?感情移入できるだろうか?」ということが不安でした。でも、何度も何度も試し読みを読んで、どうしても読みたくなって読んでしまいました。
結果、すごく面白かったです!
表紙も血みどろですが、中にもかなりグロ要素が出てきます。試し読みの範囲で既に殺戮があるので、その時点でダメな方は読めないと思いますが、それ以上のグロ表現は多分ないと思うので、試し読みが大丈夫な方は最後まで読めると思います。
心配していた、登場人物が覚えられないのでは、シャッフルされてしまったら混乱してしまうのでは、というのは杞憂でした。みんな元の特徴がはっきりしているし、人格に基づいた行動をちゃんととるので、シャッフルされた後でもちゃんと元の性格を把握してお話についていくことができました。学校を舞台にしたデスゲームは結構読みましたが、私にとってはその中でも特に描き分けがされていて、性格もはっきりしていて感情移入のしやすい作品でした。
主人公の静馬は、よんでいるともう株本の姿のほうがしっくりくる感じで、センター長(外見かなで)との、センター長が猫であるがゆえのイチャイチャシーンもよかったです。女の子の大きい胸と、大きくはなくてもヌードの姿は不必要に強調されているというか、多いような気は、やっぱりちょっとしちゃいます。少年向けの漫画だから仕方ないのでしょうか?でも、男子って、クラスメイトの裸って妄想することはあっても、実際に見たら引いちゃうところもあるんじゃないかな?おっぱい丸出し(その後ニップレス状態)で動き回るのは気になりました。実際、中身が男子で急に胸ができたら、胸って結構揺れるし、邪魔なんじゃないかなー、という気もします。
入れ替わってかっこよかったのは、江口るみの体に入った上水流アレンです。るみは図書委員でどちらかというと地味系の見栄えです。その地味っ子が頭脳明晰なリーダーになり、頭をかち割られても最後まで冷静に語るところもカッコよかったです。もうひとりはやっぱり、位高あかりの中に入った南風清蔵ですね。あかりはデブで縮こまっているのですが、南風清蔵が入ったとたん自信に満ち溢れて振る舞う姿は輝いていました。
女子では、知識絢音に入った位高あかり。美女の顔と体に謙虚で控えめな性格。一方、その位高が「キレイ」と褒められるのを見て「キレイなのは私(の体)」と憤る、小池史訓の体に入った知識絢音も、女王様な性格と憤りと、史訓の見た目とのギャップがとても面白かったです。
静馬が汝鳥の精神世界に入って、絵柄がギャクマンガに変わるのも新鮮で面白かったし、そのときの絵柄も気に入りました。Renta!で紹介されている他の作品は、この、ギャグタッチで描かれた作品のようです。特に殺人鬼のギャグキャラがとっても好きです。
そして「1人だけ生き残る美少女になってチヤホヤされるためにその子以外を殺したい」という汝鳥のとんでもない野望と、それを面白いと思って、汝鳥の意識の中で、汝鳥の体の操縦を汝鳥に任せることを許容する殺人鬼もおもしろかったのですが、かなでちゃんとキスしたいという自分の野望のほうがの絶対汝鳥の野望よりも大きいと信じて疑わない静馬もすごく面白かったです。言葉はちょっと違う気もするけど、そこにはある種の感動を感じました。
さらに、静馬の野望にひけをとらない、殺人鬼の「殺したい」という思いよりも、段違いに大きいセンター長の動物の本能!センター長がここに巻き込まれたのは、ストーリー上、静馬(外見株本)にこの世界で生き抜く決意をさせるきっかけでもあり、センター長の体に入った残月が最終的に全員の意識を回収して回るためでもあったのですが、ともかく、未曾有の殺人鬼すらをも圧倒する獣の本能が必要だったからだということがわかり、このシーンには拍手喝采してしまいました。
アリスのお腹の中に入ったかなでちゃんは、どうだったのでしょう。かなでちゃんもアリスの妊娠は知らなかっただろうし、胎児になるなんて、それこそパニックだったのではないでしょうか。自分が胎児だとわかるのかどうかもわからないし、産んでもらって、アリス(人格るみ)にいつ説明自分がかなでだと伝えられたのか、何が起こったのかはどうやって説明されたのか。興味深いです。
状況を考えると悩みはいっぱいでてきますが、センター長である静馬とキスしたのでハッピー。みんな死んじゃったけど、誰も死んでいない、ハッピーエンドなデスゲームで、読んでほんとによかったな、と満足しました。