17歳の塔

『17歳の塔』は藤沢もやしさんの作品です。17歳、女子高2年生のクラスの中での人間関係を描いています。クラスには明確なカーストピラミッドがありますが、状況は流動的で、誰も、トップにいるからといって安心できません。

リアは自分はかわいいから大丈夫、と安心し、金魚のフンのようにまとわりついてくる小田嶋を適当にあしらっています。

ここから先はネタバレなのでご注意下さい。

17歳の塔 プチキス 1巻
17歳の塔 プチキス 1巻

17歳の塔 プチキス 1巻

[著]藤沢もやし

Renta!

しかし小田嶋がリアを利用してクラスや校内でのカーストを上げて活発に動き始めるとリアは小田嶋がうっとおしくなって無視し始めます。小田嶋はイケメンのタウン誌編集者の彼氏のクルマで登校することで一気に自分のカーストを上げます。快く思わないリアが小田嶋に苦言を伝えると、小田嶋はリアがタウン誌に読モとして応募していたことなどでリアを侮辱し、ふたりは取っ組み合いの喧嘩になります。それで小田嶋はカーストのトップに上り詰め、リアは最下層に転落します。

そんな小田嶋が彼氏と言っていた相手は同級生の桃ちゃんと近づきたくて小田嶋に親切にしていただけでした。クラスは学園祭の催し物で、桃ちゃんをヒロインにして芝居をしようとします。小田嶋が会長を務める生徒会でも、後輩たちは桃先輩がいると思ったのにブスの小田嶋先輩になってやる気がしないと陰口をたたいています。

小田嶋は自分がトップにいたいので、桃ちゃんがクラスの担任の戸塚先生とデートしている写真を撮って構内にばらまき、桃ちゃんを謹慎に追い込みます。小田嶋は皆が作ったセットも捨てようとします。しかし、その時についうっかり皆に「下のくせに」と口走ったことで信頼を失っていきます。

どうしても芝居をしたいヒーロー役のまっちゃんは自宅謹慎中の桃ちゃんと話し、リアに桃ちゃんの代役を頼みます。桃ちゃんがこっそり生徒会に提出してくれた書類のおかげで演劇はできることになり、それなりの成功をおさめます。

クラスでハブられていたときに、カースト底辺の漫画好きの茜ちゃんたちがたむろしていた部屋に入り浸っていたリアは、クラスの皆と話せるようになってからも茜ちゃんたちと漫画を読みます。

小田嶋は皆の信頼を失った後、学校に来なくなります。進路相談で放課後に登校したところをリアが捕まえます。小田嶋に落とされたとき、リアが学校に来続けたのは、小田嶋に負けたくなかった一心だった、小田嶋もこんなことで逃げるな、とリアは叫びます。

そんな日々も、終わりに近づいたことをみんな気づき始めます。このクラス内でのピラミッドはこのクラスでのみ通用するもの。3年生になればまたピラミッドの作り直しです。小田嶋と話していたリアは、いずれいい思い出になるだろうと言いますが、小田嶋はいまの嫌な気持ちは嫌なまま覚えていたい、いい思い出なんかにしたくない、と答えます。

最後のエピソードは野田と桃ちゃん。野田は桃ちゃんに近づきます。戸塚先生に憧れていた野田は、先生が桃ちゃんしか見ていないのに気づき、先生の視界に入るために桃ちゃんと一緒にいることにしたのでした。それでも先生は桃ちゃんしか見ません。桃ちゃんと離れることにした野田に、桃ちゃんはまったく感情的になりませんが、ただ「戸塚先生はわたせないの」とだけ言います。野田は、久しぶりに友人ののりちゃんとお弁当を外で食べます。ふと上を向いたときに見えたいつもと逆のアングルの戸塚先生はただのおじさんでした。

この作品を読んだきっかけは表紙とタイトルです。机と一緒に落ちていく女子高生の姿とタイトルから、これはカーストの話だな、と思いました。

私の学生時代は、カーストとかピラミッドという表現はありませんでした。中高一貫の女子校だった私の回りでは、3学年下にいじめがあったとかなかったとかいう噂がひとつ、2学年下にマジのカップルがいて校舎内でキスしていたという噂があった程度で、平和なものでした。もちろん、親しくなる人たち、絶対交流のない人たちなどはいましたが、ランクづけはなかったと思います。もしくは、あったとしても私が鈍くて気づいていませんでした。

Renta!でデスゲームものなどをよんでいるうちに、いまの中高のクラスにはカーストがあるのが当たり前のように思えてきて、カーストそのものを扱った漫画も読んでみたいと思って、この作品を読みました。

読み始めてすぐ、面白くて止まらなくなりました。自分はかわいいから安泰、と思っているリアに対して、最初は金魚のフンだったのに、リアと一緒にいるというだけでカーストの階段を上り、リアにはぶられて墜ちたと思いきや、イケメンの社会人彼氏がいるというだけでいきなりトップに返り咲いた、リアに感情移入して読んでいるとかわいくない、というよりも小憎たらしい小田嶋が、一気にリアに畳み掛けてリアを貶めるところではゾクゾクしました。いつもいつもピラミッドの中での自分の位置を確認して、いい子のフリしてスキあらば他の人の足を引っ張ることで上に行こうとしている、世知辛いけど逞しくもある小田嶋の態度にびっくりしました。

自分がかわいいことの次には、イケメンの彼氏がいるということがステイタスになって、カーストを逆転させることができるというのも、ものすごくおもしろかったです。というのも、私は中高時代、本当にまったく男子と接することがなく、予備校でのよその男子生徒との付き合いを楽しそうに話していたクラスメイトに真剣に「男子といるのって楽しいの?」と聞いてしまった唐変木だからです。小田嶋が彼氏と言っていたのはウソだったのですが、その人を彼氏だといえばカーストが上がることを小田嶋が知っていて、最大限利用したということに、最初は彼氏だと信じて、後に彼氏ではないことがわかって、2回感心してしまいました。

そんな小田嶋でしたが、生徒会長にもなって、カーストのトップに立ってからの態度は押しつけがましくてびっくりしました。特に学園祭で芝居の邪魔をするために喫茶店推しをしたときには、自分が生徒会でいそがしくて皆のために準備してあげられないから、準備が大変な劇は止めようと言うところでは「そんな言い方したら皆に嫌われちゃう」と心配になりました。私は政治力はないし空気も読めませんが、女の子ばかりの集団の中でそんな物言いをしたら嫌われちゃうことぐらいわかります。今の学生さんたちにとって、カーストってそれほどにも強くて、一度トップに立ってしまうと、よっぽどのことがないと権力をふりかざせるんでしょうか?そうだとしたらそんなコミュニティはいやだな。今の学生さんは本当に大変そうです。小田嶋が演劇をやめさせるためだけに、桃ちゃんと戸塚先生の写真をばらまくのもエグいです。

小田嶋は結局、みんなを見下しているという決定的な言葉を言ってしまい、トップから転落します。イケメン社会人が彼氏ではないこともバレて、学校に来られなくなります。自業自得だし弱いとは思うけど、かわいそうです。生徒会の後輩からも「ブスだし」と言われていて、理不尽なことこの上ないです。生徒会、頑張ってたのに。

一方で、リアは居場所がないときにカースト低めの茜ちゃんに声をかけてもらって、ありがたいはずなのに、結構尊大に振る舞っています。かわいいとかブスだとかって、そんなにも大切なことなんでしょうか。これが本当だとしたら、ごく若いうちに整形してでもかわいくなりたい若い人たちの気持ちもわかります。中高時代って、あとから考えると人生のたった6年間だけど、高校を卒業する時点では人生の3分の1にもあたるので、ここで快適に生活できるか否かは本当に重要なことです。

この作品は1巻40ページ前後で10巻まであるのですが、9巻までは上記のあらすじに書いた子たちを含め、主にカーストピラミッドを軸に話が展開されます。9巻の終わりでは、これからは18歳の塔のお話になりそうです。が、10巻だけは恋の話です。桃ちゃんは途中で謹慎になるし、戸塚先生が無傷ということはないと思うので、時間は遡ったものと思われます。

学校一かわいくて、タウン誌の編集にも目をつけられる桃ちゃんと、普通の高2の野田が学校の先生に恋をするのも、私には謎の世界です。多分、私の学校に男性の先生がほとんどいなかったのが原因だと思います。いたのは数人の既婚の先生方と、いかにも浮いていて、実際女性先生方にいじめられていたらしき若い先生。若い先生は3年ぐらいで辞めてしまいました。見るからに居心地悪そうで、気の毒だとは思いましたが、既婚の先生を含め、若い男性の先生に私たちがあこがれることは皆無でした(大好きな先生はいましたが、たまたま男性だっただけ)。

大人の目で見ると、「逆側から見た戸塚先生はなんてことのない普通のおじさんでした」という言葉は、この作品の中で一番しっくりきました。

カーストの上にいたい、いきたい、と、もがく、リアや小田嶋のような少女たちの物語を読みたくて読んだ作品で、そのもがく姿も興味深く読みましたが、ヅカファンのまっちゃんや、漫画好きの茜ちゃんたち、野田やのりちゃんの友情や、一人だけ異次元で先生に恋している桃ちゃんもとても魅力的でした。

にほんブログ村 漫画ブログ 漫画感想へ
にほんブログ村

PVアクセスランキング にほんブログ村


漫画・コミックランキング


レビューランキング

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です