府中三億円事件を計画・実行したのは私です。

『府中三億円事件を計画・実行したのは私です。』は原作 白田さん、漫画 MUSASHIさんの作品です。タイトルのとおり、1968年に起きた三億円事件の犯人である白田さんが、何故事件を起こすに至ったか、その後どうしたかを事件から50年経って告白しています。

当時の白田は大学生2年生。友人もできず、学生運動にも乗れず、毎日を虚しく過ごし、高校時代からの親友、暴走族の省吾とつるんでいます。

ここから先はネタバレなのでご注意下さい。

府中三億円事件を計画・実行したのは私です。 1
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府中三億円事件を計画・実行したのは私です。 1

[原作]白田 [漫画]MUSASHI

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白田と省吾が一緒にいるところに、同級生の京子が話しかけてきます。3人は一緒に過ごすようになり、やがて省吾と京子はつきあい始めます。自身も京子を憎からず思っていた白田は微妙な気持ちになります。時間を持て余すようになった白田は学校に行き、そこで活動家の三神と出会います。三神は女性ながらカリスマがあり、会派を率いています。白田は三神の会に選挙を取り入れて人事を刷新させる提言をし、三神の関心を買います。関心は恋心にスライドし、三神と白田はつきあい始めます。

白田はすぐ活動への関心を失って会派を抜けますが、会にいたときに耳にした、現金輸送車のルートを掴んで現金を強奪するというアイデアから頭が離れなくなります。金を奪って活動家たちに罪をなすりつけようというのです。白田はアイデアを省吾に話します。一度は拒否した省吾ですが、結局白田に同調し、ふたりは計画の詳細を練ります。白バイ隊員の息子である省吾は現金輸送者や警察を欺くアイデアを出し、白田も三神の会派のメンバーが集めた情報をそれとなく三神からひきだします。白田はまた学校にいかなくなり、結局退学してしまいます。

ある日京子が訪ねて来ます。京子も大学をやめるといいます。そして、あっけらかんと白田を好きだと言い出します。心の底でずっと京子を思っていた白田は、京子も三億円も自分のものにすることを決意します。白田は京子に計画を打ち明ける一方で省吾に計画を止めると宣言し、省吾も同意します。

運命の12月10日、白田と京子は計画を実行します。白煙筒に火が点かないハプニングがありましたが、京子から渡されたマッチで火をつけて、白田は犯行を成し遂げます。現金が入っていたジェラルミンケースに白田の父の警察手帳を放り込み、現金を持ってふたりは警視庁管轄外へと逃れます。三神からの手紙を見つけた京子はそれを読み上げます。三神は、白田の気持ちが自分にないことに気づいており、それでも白田との未来を夢見て自分の会派を離脱し、白田とデートした海で、白田が来るまで待っていると告げます。

白田は、計画を成し遂げた今、達成されたことで虚しさを感じる、と京子に言います。すると京子は、次の目的は時効まで逃げること、それを達成したら結婚すること、そうやってどんどん目標をみつけていけばいい、といいます。

省吾は犯人と噂され、服毒自殺します。しかし、白田は省吾が自殺するような男ではないことを知っています。茶碗に毒を入れたのは省吾の父だとも母だとも言われています。白田は、省吾が気づかずに毒を飲むはずはない、省吾は死ぬことで警察の追求から自分と京子を守ったのだと信じています。

白田が告白を決意したのは長年連れ添った京子が事故で死んだからです。息子に真実を告げると息子はこれを世の中に知らせようといいます。それで白田は激白したのでした。

犯罪小説と思いきや、中身は青春ものです。作者である白田さんが本当に犯人なのか、あくまでも小説なのか、というのは、漫画を読んでいる限りではわかりません。犯人しか知らない事実として語られる白煙筒や警察手帳のくだりが真実であるかどうかも知りようがないので判断できません。でも、4人の主要人物の人間関係が生き生きと綴られていて、とてもおもしろく読みました。

読んでまず感じるのは、三神さんが気の毒だということです。会長に祀り上げられるほどの頭脳明晰、弁論闊達な女性であり、美女でもあり、おそらく信奉者も多いことと思われるのに、自分の恋愛には不器用で、それでいながら積極的。自分を愛してくれない男に惚れてしまい、自分のスペックの高さ故に男の自尊心をくすぐり、でも最終的には想いをこめた手紙を、逃げた男の逃避行の最中に男の恋人に読み上げられてしまう…不憫でなりません。人間の感情とは複雑なもの。白田の三神への想いは、三神の立場を利用しようというもので、そこから離れることはありませんでしたが、それでもすべてが嘘だったわけではなく、三神をかわいいと思う気持ちもなかったわけではありません。まあ、自分が三神だったらたまったものではないですね。冬の海で、現れるはずのない白田をいつまでも待つ三神のことを思うと悲しくなりました。しかも白田は「ひどいことをした」というよりは、歳をとって、昔を懐かしむ程度の思いで三神のことを振り返り、自分の自尊心を満足させてくれる女性だった、それなりに好ましくも思っていた、彼女を喜ばせることを言うこともできたのに何故いってあげられなかったのだろう、と振り返るだけ。

裏切られて去られるのは省吾も同じです。省吾は京子にプロポーズし、待って欲しいという京子の言葉を、肯定の意味に捉えています。そして、白田からのこの犯罪をやめようという言葉を真に受けて、京子のためにカタギになると決意しているところに、自分が白田と協力して調達した道具を使って、計画した筋に沿って、自分が演じるはずだった役割を誰かが演じて犯罪が起こる。誰かというのはほかならぬ京子。これはショックでしょう。白田が省吾と距離を感じる原因のひとつに、省吾が米兵相手に売春をしているとの噂を、三神がもたらしたことにあるのですが、白田の省吾に対する想いはいつもどこか楽観的です。省吾が売春していたというのはデマだったとわかっても、白田が動揺する描写はありません。そんなはずないとわかっていたかのようです。ひどくキズついたはずの省吾のことを思いながらも、何故か白田は、省吾が絶望したとは考えず「省吾は自分と京子を守るために、敢えて毒をあおった」と信じているのです。白田と京子が省吾にした仕打ちを考え、省吾に疑いがかかる証拠を敢えて遺しておきながら何故そこまで楽観的なのだろう?と、戸惑わざるをえないのでした。

三神と省吾への思いはもっと複雑なもので、そのことが作品中に描かれているのかもしれませんが、私には、率直に、自分の思いに正直に従って、やりたいことを成し遂げ(といっても犯罪ですが)、好きな女も手に入れた男のカラリとした気持ちに思え、そこがこの作品の魅力的なところとして感じられます。とにかく罪悪感がない、というのが、白田の心情の特徴で、読んでいてそのことが伝わってくるのがおもしろく感じます。白田は罪悪感はないのだ、という点が一貫しているのが魅力です。

ちょっと違和感があったのは京子です。本当はバイク乗りになりたかったところ。省吾とつきあいながらも屈託なく白田を好きだと言うところ。なんとなく学校をやめるところ。ゴールがなくなったのなら新しいゴールをどんどん作っていけばいいと言うところ。私の中で京子のイメージは奔放です。一途に白田と添い遂げるよりは、新しい恋を見つけてどこかに行ってしまいそうです。白田と京子を結びつけたのは三億円事件の成功体験だったのか、それとも意外と深い愛がふたりの間にあったのか、もうちょっと京子のことを知りたいところです。

MUSASHIさんの絵は表情が読み取りにくい絵です。生き生きとしてはいるのですが、見る人がどうとでも表情を読み取れる絵です。なので、読者は表情でキャラクターの思いを推し量るのではなく、あくまでも登場人物のセリフと行動で気持ちを想像することになります。私には、そのことがまた、作品にいい味を与えているように思えました。

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