兄妹 少女探偵と幽霊警官の怪奇事件簿

『兄妹 少女探偵と幽霊警官の怪奇事件簿』は木々津克久さんの作品。高校1年生の赤木蛍の兄、圭一は警察官。ある日突然失踪しました。今は蛍に制服を着たガイコツの姿で寄り添っています。

圭一の姿は蛍にしか見えず、声も蛍にしか聞こえません。

ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。

蛍の家は小さな町工場。父は社長を務め、母は夜の店を切り盛りして家計を支えています。蛍は幼い弟妹と乳飲み子の面倒を見ながら推薦をとって名門ミッションスクールに入学しました。

兄は蛍のクラスメイトの志田ちゃんが血まみれになっている様を幻視します。重度のオタクである志田兄に殺されるのではないかとの危惧を蛍はもちますが、結果的に、兄が幽霊としてどこにでも行ける力、見たものを蛍にシェアする力、蛍のコミュ力で、蛍と兄は、志田ちゃんが自分の兄に対して憎悪を募らせてむしろ殺そうとしていることを感知します。兄は生者には触れることができませんが、膨れ上がってもはや悪霊のようになった志田ちゃんの憎悪の念を拳銃で撃ち飛ばすことはできます。志田ちゃんの憎悪は散り、元の仲の良い兄妹に戻れる兆しがでてきます。

そうやって蛍と圭一の二人は特殊な力を使って様々な怪奇事件を解決します。

物語全体の謎として、圭一が何故幽霊になったのかという問題があります。どうやらそこには、12人委員会と呼ばれる私刑集団がかかわっているようです。かなり以前から法で裁けない凶悪犯が姿を消しているという事件があり、兄の「死」の前の記憶に10人の人間と1匹のケモノが訪ねてきたという記憶を知った蛍は、紆余曲折あって友人となった4人の少女たちと一緒に12人委員会の謎を追います。

圭一は親友から12人委員会に誘われていたこと、正義のためと言いつつ殺人をすることを受け入れられず委員会を告発するとして親友と揉み合いとなって頭をぶつけ、意識を失ったことがわかります。親友はこっそり圭一の看病を続けていたのでした。

蛍の友人の、神と同等の霊力を持つ(本人は自覚なし)少女の働きで12人委員会のボスは浄化されます。圭一の親友は浄化するにはもう殺人の悪に染まりすぎていてもはや人間ではなくケモノの姿となっています。そして、圭一の拳銃に撃たれて滅びます。

圭一は意識をとりもどし、家族のもとに戻ってきます。ガイコツだった頃の記憶はないようです。厳しい経営状態だった父の工場は奇跡的に安定した大きい仕事に恵まれて持ち直します。母も夜の仕事の日数を減らし、蛍にかかっていた家庭の負荷も劇的に減ります。ガイコツだった頃の兄との活動を通して、自分が今まで人に与えるためだけに生きてきて本当の友達と呼べるものがいなかったこと、でも12人委員会を倒すために共に戦った4人は本当の友人といえることを実感する蛍は前に進みます。

兄の幽霊がガイコツだというところがおもしろいと思って読み始めました。特徴のある目の描き方とか好きで、蛍を含めた女の子たちが、感情というよりは理屈に動かされているように見えるのも魅力でハマりました。最初っから気になっていたドクロのヘアアクセサリーも、ただのファッションかと思いきや、意味のあるアイテムでした。

この絵はどこかで見たような気がする、と思ったら、『フランケン・ふらん』の作者さんでした。フランケン・ふらんは以前に1巻だけ読んであまりハマらなかったのですが、兄妹にはまってから読んでみたらやっぱりおもしろいです。これからハマってしまうかも。また、このお話のなかに『名探偵マーニー』のことがチラッと出てきて、そっちにも興味津々です。

蛍の4人の友達である少女探偵の緑川、少女格闘家の黄多川、「神」の桃園、秀才の青葉がそれぞれかわいい。特に桃園の第3の目の力はものすごくて、12人委員会という、普通だったら重たくなるはずのおどろおどろしい私刑集団のお話をスカっと解決するのが驚きでした。突然でてくるわけじゃなくて、桃園のとてつもない力についてはちゃんとそれまでに表現されているので、違和感なく受け入れられるところもよいです。桃園自身が自分の力に無頓着でまったく気づいていないという設定もおもしろかったです。

あとはやっぱり蛍の魅力。蛍はいつもいい子でまっすぐで、思いやりの心がすごいし、問題解決の力も半端ないです。家のこともいろいろやっていて、こんなしっかり者の妹がいたら、家を継いでもおかしくないはずの長男が警官として家を出ていたとしても不思議はないなあ、と思いました。そんな蛍の唯一の弱みは、人に与えるばかりで人に頼るということができないしっかりものであること。そこに本人が気づくところも自然で良かったし、兄貴のことを打ち明けた仲間たちも素晴らしかったです。

圭一がガイコツだった理由はよくわかりませんでしたが(も一回熟読してみよう)、ビジュアルの効果はとってもよかったです。圭一の話し方も幽霊っぽくておもしろかったし、これが普通の幽霊(人間の姿)だったら、こんなにインパクトのある作品になっていなかったと思います。ガイコツだったときの圭一は他に意思疎通をできる相手もいないし、悪意が見えたりすることもあって、蛍ちゃん第一主義になっていて、ややシスコンっぽい感じもありますが(ガイコツの外見が少しその印象を薄めててよかった)、戻って来た圭一は寮に入って恋人との生活をしっかり構築していて、シスコンの印象がないのも、私的にはポイント高いです。

いままで特殊なものが見えて、兄貴から入ってくる情報を使って問題解決をしてきた蛍ですが、怪奇がみえない女子高生として、クセの強い仲間たちとどんな学生時代を楽しんでいくのでしょうか。どんな世界でも、面倒見がよくてコミュ力に溢れた賢い蛍ちゃんとして生きていくんでしょうね。

明るい気持ちになれる作品でした!

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