I.C.U.

『I.C.U.』はタイム涼介さんの作品です。霊を祓える男性と霊が見えてしまう少女と科学者がチームを組んで除霊を行うお話です。

科学者シン(多分物理の人)は左遷をきっかけに仕事を辞めて、昔の友達、ニンのところに転がり込みます。

ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。

除霊師としてマスメディアで人気を誇っていたニンですが、偽物(霊が見えない)とか女性にわいせつな行為をしたとか告発され、さらに恋人兼マネージャーに金銭を持ち逃げされたばかりで、とてもシンを支えられる状態ではありません。それでも、2人で除霊の仕事を始めようとします。

そこに来たのはアミノ。シンはアシスタント志望かと勘違いしますが、17歳の彼女は霊を祓って貰いに来た客でした。親には精神病扱いされているアミノは、霊にみつかりたくないと、声を出すことを拒否している家出少女です。ニンはアミノに憑いた霊を祓い、ここから3人が生活と仕事を共にすることになります。ニンは霊をみることは一切できませんが、祓う力は確かです。すぐ霊に魅入られるアミノは、ニンが一度着た服を着て、ニンの霊力に守られています。

依頼があると、アミノが見てニンが祓います。シンはマネージャーとして振る舞います。

一番印象に残った事例をひとつ紹介します。ニンたちが依頼人を助けられなかった事件です。中年男、大谷は、電車の中で見かけた女性の虜になってしまい後を追いますがいつも見失ってしまいます。大谷は自分の性的衝動は単なる気持ちの変化ではなく霊が関わっていると考え、ニンに助けを求めます。

ニンとシンが見張る中、大谷は素早く姿をくらまし女性に痴漢行為を働きます。ニンとシンは鉄道警察のフリをして被害者と大谷を連れ出します。大谷が見ていたのは妖艶な女でしたが実際の被害者は意図的に地味にしている女性、川津でした。アミノの霊視によると霊がついていたのは大谷ではなく川津。川津についた霊と大谷の波長が合ってしまっていたのでした。その後大谷は、川津から抜け出た霊に国道に誘い出され、車に轢かれて命を落とします。

川津は大谷が死んだことを知り、自らニンを訪ねてきます。自分のストーカーが死んだのはこれでもう3回目なので、怖くなってしまったのです。ニンは川津と寝ることで、川津の奥深くに入り込んだ霊を引き出そうとしますが、川津は行為の後、今までにない開放感を覚えます。ニンは、霊が川津から抜け出してシンに取り憑いたことを悟ります。取り憑かれたシンはアミノを襲いますが、間一髪、ニンが霊を祓います。

後日、ニンは大谷の家を訪れ、除霊の前金として受け取っていた50万円をそっくり香典として大谷の家族に渡します。固辞する家族に「世話になったから」と受け取らせます。それは、助けを求められたのに助けられなかったことへのニンなりのケジメでした。

そんなふうに除霊をしていたニンたちですが、ある案件でニンの師匠筋のテッセンと仕事をすることになります。嫌がるニンでしたが、話をすると、以前は霊を見れず、除霊だけをしていたテッセンが、死病を患い始めてからは見えるようになり、弟子と組んで除霊はするものの、その度に自身が弱っていくということがわかります。ニンは自分の将来を考え始めます。

アミノは両親に見つかり強引に引き取られますが、霊に取り憑かれ、自分だけでなく両親も霊にやられます。迎えにきて除霊をしたニンがアミノを連れて行こうとするのを、もう両親も止めません。

一方、シンは以前から、夢でキセノという男と繋がっていました。キセノはニンに助けて欲しいといいます。シンはキセノから記憶をコピーされます。幼少期からキセノは霊をみていましたが、物理学者の父にそのことを忌み嫌われます。他人が自分にして欲しいことがわかるキセノは、母の願いどおり、霊なんて見えていない、と言って育ちます。しかし、母が死ぬと父は母の霊をみるようになり、だんだんと父母は一体化していきます。

父は病院にいます。母は父の体の奥深くまで入り込んでいるので、祓うと父は死ぬ、それはやむを得ないが、もう人ならざるものになってしまった母のパワーで他の患者さんまでも道連れになってしまう。ということで、キセノはニンに口づけしてパワーを受け取り、その力で母と父だけをこの世から去らせます。それと同時にキセノも宇宙へと旅立ちます。

シンはキセノの意識を引き継いで、すこし人生が豊かになりました。アミノは18歳になりました。ニンのところには順調に依頼が入ります。

どう考えても私好みの設定のお話ですが、最初に読んだときは何故かハマりませんでした。多分、ニンがお祓いをしているシーンが、何をしているのかよくわからないところと、キセノが何を言ってるかよくわからないことが気になったのだと思います。2度目に読んだときは何故かそれがあまり気にならず、サクサク読んでいたらやっぱりおもしろかったです。

ニンは、最初から仲間として信頼していれば、とってもはっきりしていて実力のある頼もしい除霊師ですが、同じ設定で主人公と敵対する人として描かれたら、心底うさんくさい人物です。だって、お祓いをするのに、霊は見えないし、見えないのに祓えるって本人が断言するんです。絵ではニンが腕を振ると引き裂かれ霧散する霊が描かれていますが、霊の見えない者からすると、ただ勢いよく腕を振り回している荒くれ者に見えてしまいます。しかも自分も見えてないで祓ってるって…シュール。どんな仕組みで祓えるのかわかりませんが、その設定がおもしろかったです。

アミノの存在は、ニンやシンにとっても仕事をするために都合よいのですが、読者にとっても、いかにニンが頼れる存在かを伝えてもらうことができて、不可欠な存在でした。本来だったら思春期の女の子がおじさんが着た服をそのまま身に着けるなんて気持ち悪い以外の何ものでもないはずなのに、ガタイのよいニンの服を着て落ち着いたり、怖いときにはニンの服の中に全身を入れようとするアミノの姿は、健気で、守ってあげたい心を刺激されちゃうとともに、ニンの霊力の強さが感じられてとっても好印象でした。

政治力がなくて学者の世界から締め出されてしまったシンが、ニンとアミノの間に入り、折に触れて夢でキセノと交流するのもおもしろかったです。シンがいなかったら、ニンとアミノのコンビで仕事をしていたはずですが?もしそうだったらどんな話になっていたか、と、ちょっと興味があります。でも、3人のチームだからこそ、3人が全員魅力的なお話になっているのだろうな、タイムさん上手いな、と思いました。

画面は、なんとなく全体に暗くて重い感じです。そう思って見返すと、何故そう感じたかがよくわからないのですが、多分、霊に取り憑かれた人の形相が怖いのと、霊と一番近くにいて怯えているアミノが基本的に言葉を発しないのがそんな印象を作っているのではないかと思います。でも、最終話は、除霊のシーンすら明るく光に溢れて見えます。アミノが親にも理解してもらえた経験とキセノの事件で変わり、18歳の誕生日も迎えて少し大人になったことが大きいのかもしれません。若い子が元気になると、やっぱり画面が華やかになります。

逞しくて頼もしいニンが怯える将来を、テッセンの姿を通して、ニンと読者に見せてくれたのも表現の妙だと思います。今はいいけど、いずれ老いて、少なくとも肉体的に衰えるのは人間として避けられないことです。今まで見えなかった霊が見えるようになる、見えるようになると祓うのにもパワーをすいとられるようになる、そうすると肉体的にだけでなく精神的にも弱ってしまう。霊が見えるかどうかはともかく、弱くなっていくことは人間として誰もが受け入れなければいけないことです。ニンは「早くこの稼業から足を洗う」という将来計画をたてたようですが、老いて衰えたときに、テッセンのように去勢をはって若い女性たち(たまたま女性だっただけで、しかも2人合わせてもニンほどの力はないそうですが)の力を借りながら、自分の細っていく力をさらに削りながら生きて行かなければならないのか、それとも寄り添ってくれてお互いを補い合いながら衰えていく自分を支えられ、相手を支えて生きるパートナーを見つけていくのか、どう生きるかということは重要だと、改めて思わされました。

とは言っても、たとえばアミノが大人になってニンを恋愛関係になりとかは想像しづらく、アミノは同世代のパートナーと出会って欲しいし、ニンには霊のことなんてなにも感じない強い女性と結婚して欲しいし、シンは…シンはどんな人生を送るのでしょうね?シンは政治力がなく野心がある学者でしたが、キセノと、ガチガチの物理学者だったキセノの父の、何かを継いでいくのでしょうか?シンとニンの会話を聞いていると、シンはニンをサポートしていくと決めたように見えますが、いまニンとアミノと一緒にいるのは仮りそめの姿なのかもしれません。そうではなくて、老いたニンに寄り添って支える強力なパートナーになるのかもしれません。

ここで紹介させていただいた大谷のケースは、ニンが、不退転の決意で自分を頼ってきた男性を救えなかった、特に悲しいエピソードでしたが、このような重たい人間と霊のお話、わかり合えないアミノとその両親のような重い話の最終話が、何故か光に溢れた明るいお話だったことが、とってもステキで感動しました。

主人公が3人で各巻の表紙もそれぞれの顔なので、3巻の表紙も紹介しちゃいます。

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