『名前のない怪物 蜘蛛と少女と猟奇殺人』は、原作 黒木京也さん、漫画は1〜3巻が万丈梓さん、4〜7巻が子月コウさんの作品です。登場人物は同じですが、1部と2部で漫画家さんが変わります。
一緒にいた兄だけが通りすがりの凶悪犯に殺され、「お前が死ねばよかった」と周囲に言われて絶望を抱えて生きていたレイは、大学に入るとともに親元を離れ、友人も恋人もできて穏やかな生活をしています。そんなある日、部屋の中に蜘蛛が巣食うようになります。最初は退治を試みたレイでしたが、やがて諦めて共生します。
ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。
蜘蛛は気づくと美少女に化けます。そしてレイにくっつき、キスし、首筋に噛みついて血を吸うとともに何かをレイの体に注入します。他人が来ると美少女は姿を消しますが、レイが恋人の京子とことに及ぼうとするとレイだけに見える位置に現れ、2人の行為に水をさします。
そんななか、人を殺して内蔵を奪うという猟奇連続殺人事件がおきます。部屋にいる美少女を「怪物」と呼んでいたレイは、怪物の外見が一連の事件の被害者のうちのひとりだと気づきます。そして怪物が事件の犯人で、被害者の内臓を食べているのでは、と怯えます。親友の純也も被害にあい、戦慄するレイ。
紆余曲折あって、犯人は恋人の京子であることが判明します。京子は歪んだ芸術志向の持ち主で、被害者の内臓から搾り取った血と体液で作品を描いていたのでした。レイをも殺そうと刺す京子でしたが、そこに怪物が現れ、蜘蛛に京子を襲わせてレイを助けます。瀕死だったはずのレイは軽傷で発見されます。レイは怪物に歩み寄ることに決めます。
京子は蜘蛛に食い散らかされる中で強い意志を持ってそこから生還し、あやしげな人物、汐里に助けられます。
汐里はレイの前にも姿を表します。アルビノのルイという人物が訪ねて来ても信頼しないように、と言います。しかしルイはレイの前に現れ、しばし生活を共にしたあと、自分を信頼するようにいいます。レイは迷いますが、怪物とともにルイについていくことにします。
ルイによると怪物は蜘蛛にそっくりの地球外生命体に寄生された自分と恋人の娘。蜘蛛の姿から女子高生を食い殺して彼女の姿を纒うことになりました。そして殺された少女が生前密かに想いを寄せていたレイとの子供を作るのが彼女の本能で、レイの体も怪物に注入されたモノにより作り変えられているといいます。京子に刺された後、速やかに回復したのはその効果だったのです。レイは怪物を受け入れ、共に生きていくと決めました。
汐里は怪物を殺して地球外生命体を絶滅させようとしています。血みどろの戦いのあげく、汐里とルイは和解しますが、もう一人地球外生命体に寄生された男桐原と、桐原に殺されたはずの京子が紆余曲折あって合体し、レイ、怪物、ルイ、汐里を殺しつくそうとします。最終的にはレイと怪物が、桐原と京子にトドメをさします。
2ヶ月後。この世でただひとり、レイの味方である叔父の大輔の前に、レイは怪物と共に姿を見せ、最後の挨拶をします。大輔はいつでも来いよ、待ってるからな、と声をかけます。
3巻まで読んでおもしろく、作画がかわるということでビクビクしていましたが、意外にも私にとっては何故か違和感なく続けて読むことができました。
この作品を読もうと思ったのは、表紙の可愛い絵を見たからです。が、かわいい京子という恋人がいながらも延々とつづく美少女と繊細なイケメン、レイのイチャイチャ。トラウマのあるレイのバックグラウンドはちょっと気にはなったものの、正直くじけそうになりました。ところが、気のいい親友、純也が殺されたことでお話への興味がぐっとわいてきました。そこからはノンストップ。3巻の終わりまで読んで1部が終わり、思わせぶりなキャラたちも登場してきました。前述したとおり3巻の終わりで次から作画が変わったものの、気がついたら完了していたので、4巻からラストまでもノンストップで楽しみました。
前半で、ちょっと不思議ちゃんなかわいい京子が本性を現してガラリとかわるところは魅力的でした。純也くんと話をしていて、前半の京子の共犯者藤堂を怪しいと匂わせる京子ちゃんは、普段はそういうことに気づかない私から見ても怪しさ満開だったので、殺人事件の犯人が京子だという予感はあったし、純也に死亡フラグが立ったのはわかったのですが、それでも純也が殺されちゃったのはとてもショックでした。お気に入りのキャラだったからです。それは多分、味方がいないレイにとって、人生がそっくり変わるような大切な友人だということがしっかり描かれていたからだと思います。それだけじゃなくて、万丈さんは魅力的なキャラを描くのが上手だからということもありそうです。というのも、出てきたらすぐ殺されちゃうだけの隣人も喫茶店のウエイトレスも妙に魅力的だったからです。ひょっとしたらアシスタントさんが描いてたりするかもしれませんが…そして、その万丈さんを引き継いで遜色のない子月さんも魅力的な漫画家さんです。
蜘蛛自体はあんまり好きではありませんが、蜘蛛の姿のアップ、特に目はスキです。そんな蜘蛛の絵がたくさんでてくるのも嬉しかったです。怪物の蜘蛛もルイの蜘蛛もよかったのですが、桐原が蜘蛛化したあと人間の上半身が生えてきて、さらに京子も生えてくる描写も面白かったです。万丈さんが描く食事を作るあたりの京子がすごくかわいかったので(作っていたのは人肉料理で猟奇なのですが)、後半心配だったのですが、子月さんの京子もしっかりかわいくてサイコでいかれてて、殺されちゃうのに復活してくるしつこい様もよかったです。現実にこんなサイコな女子に見初められちゃったら地獄ですね。1部が終わったとき、京子ちゃんがここまで活躍するとは思ってなかったので、思う存分堪能させてもらいました。
一方で、桐原の登場はやや唐突に感じました。本来はお互いに博士の研究の被害者でしかない汐里とルイを和解させてその後も脅威に向かわせてお話の決着をつけるには不可欠な存在なのですが、5巻以降はずっとクライマックスに入りっぱなし、怒涛の展開なので、あれよあれよと流される間に、桐原と京子という、誰から見ても同情しようのない悪役が大活躍して大立ち回りしている感じでした。もちろん、戸惑いや違和感があるのではなく、息を呑みながらページをタップする手が止まらない感じで、惹きつけられました。
上述のあらすじには全然いれられなかったのですが、大輔や松井などの登場人物も魅力的だったので、博士の研究や人となり、ルイの恋や、どんないきさつがあって怪物の研究で4人だけが生き残るようになったのか、というあたりも魅力的に違いありません。読んでみたかった気がします。
ただ、このお話の肝は、怪物とレイがイチャイチャすることにあるような気もするので、そこまで深追いしない今の作品の形がベストなのかもしれません。
小説では、侑子という名前も得てよくしゃべるようになった怪物と、地球外生命体の目を宿したレイの今後も描かれているそうなので、また漫画化されたら嬉しいです。
そういえば。永遠幸さんの『地獄少女』もそうなのですが、怪物、というか米原侑子も黒いセーラー服なんですよね。黒のセーラー服は見たことないので、実物で見てみたいです。