『結婚できないにはワケがある。』は邑咲奇さんの作品です。30までにどうしても結婚したくて、イケメンで仕事も性格も申し分なくて近所に住んでいる後藤課長に「つきあってください!」と言ってみた、まりこのお話です。
なんと後藤課長はあっさり承諾してくれました。
ここから先はネタバレです。ご注意下さい。
後藤課長にはまりこを素敵だと思う理由がありました。後藤課長は重度の人形愛好家で、特に、みちゅこという人形を溺愛しているのです。先日ついうっかりみちゅこをマンションの窓から落としてしまった時、上から落ちてきた縁もゆかりもない人形のほつれをあっさり直してくれたまりこに惚れてしまったのでした。
課長がいつも持ち歩いている謎の鞄の中身は人形だったのか!と腑に落ちるまりこでしたが、人形愛好家ということは気になります。そこから、みちゅことふたり、のドタバタコメディが展開されます。はたしてまりこは30までに結婚できるのか?幸せになれるのか?
この作品は、表紙のみちゅこの絵に惹かれて読みました。というのは私も人形愛好家だからです。うちの子たち(笑)は話しかけて来たりはしないのですが、なりきって話してると思いもしない言葉がでてきたりするのでやっぱり話してるのかも?人形だから写真撮ってもどの写真もみんな一緒、と人には言われますが、やっぱり可愛くて写真撮っちゃうのです。みちゅこの写真を額に入れている課長の気持ちもわかります。
そんなわけで、後藤課長も、みちゅこに対してライバル心をもったり、微妙な気持ちになったりするまりこのことも、とても微笑ましく、面白く読みました。タイトルの結婚できないのは後藤課長?まりこ?わからないけど、課長もまりこもシンプルで素直な性格で好感がもてました。
ただ、読んでいて微妙な気持ちになるところはちょっとだけあって、まりこはもう29歳。30になる前に結婚するには、あまりに時間がないのです。それなのに、30前に結婚することにやたらにこだわっているのです。実際つきあって結婚を決めるまであまり時間をかけない人も多いのかもしれません。そこは気にならないのですが、まりこの目的は「30までに結婚すること」で、本当は別に後藤課長じゃなくても誰でも構わない感じがちょっとします。まりこ本人も自分で気になったりしています。後藤課長も、みちゅこを好きな気持ちにひかない女性だったら誰でもいい気はしないでもないんですが、上から落ちてきただけの人形をそっと繕う女性っていうのは、惚れちゃってもいい気もします。そしてまりこも後藤課長も性格がいいので、「なんで私この人を好きになったんだろう?」なんて考える必要のない、かわいらしいカップルなのでした。
読んで楽しんで誰を批判することもなくて、人形愛好心も満足させられて、頭空っぽに気楽になれる、とっても素敵な作品でした。