『ある日、ブスになった。 転落した元美人は手に負えない』は和田海里さんの作品です。生まれながらの美人で何もしなくても肌もきれいなみちるは性格はいいのですが、美人ならではの天然です。
美人ばかりが揃う合コンに悪気なくブサイクな友人、文香を誘ったりして周囲の失笑を買っています。
ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。
幼なじみの平凡な彼氏もいるみちるですが、女友だちとの海外旅行でナンパされた現地男性とふたりきりで適当に楽しみ、怪しげなドラッグにも手を出します。
帰国してしばらくすると、おそらくあのドラッグの副作用でみちるの顔はパンパンに膨れ上がります。すると周囲の態度はあからさまに変わります。美女グループやいつもの仲間の男子には冷たくされ、いつもいい席に通してくれてサービスしてくれる店でも冷たくあしらわれます。彼氏の態度は一見変わりませんが、急に捨てられる不安を表し始めるみちるの態度に優越感を感じます。
文香は美人たちに相手にされなくなったみちるを自分の友人たちに紹介します。彼女たちはずっと美人グループの悪口だけを言っているのでみちるは違和感を覚えます。唯一態度を変えないのは美人系友人の日奈だけですが、周囲が「あの美女、引き立て役のブスを連れ歩いてる」との陰口を聞いたみちるはプライドが傷つきます。
みちるはコンシーラーやファウンデーションを厚塗りして少し気を良くしますが、かえって厚塗りピザ面と笑いものにされます。みちるは整形をかんがえるほどおもいつめますが、彼氏は今の状態のほうが心地よく、反論します。しかし、時間がたったことで、みちるの顔は元通りになっていきます。彼氏は治ってきたと思わずに「整形なんかしなくていいって」と言ってみちるの怒りを買います。
みちるは文香にもかみつきます。あんたたちなんてひがんで美人の悪口いってるだけじゃない、私とは格が違うのよ、と罵ります。顔が治ってくると、日奈の彼氏を寝取り、自分が本気を出せば日奈なんて問題じゃない、と言い放ちます。
みちるはモデルとして活躍しはじめますが、ピザ面の写真が投稿され、炎上して仕事を失います。みちるが回復する過程でヘイトを撒き散らした結果として、彼氏も文香も日奈も、みちるが美貌を失っていた頃の写真をSNSにアップします。
因果応報ものですが、もともとのみちるは天然で、文香を「言われてみれば私が飼っていたパグにそっくり!だから私、文香を好きなんだ!」と喜ぶような子で、とらえようによっては素直な子です。ごく普通の男子にすぎない彼氏のことも、幼なじみだという理由で慕っているいい子です。
残念だったのは、彼氏がいないところでは現地のイケメンとハメを外してキスしたり、そのイケメンが「日本人はやめといたほうがいいよ」と示唆するドラッグを積極的に接種するノータリン女であったところです。それは天然の域を超えていました。
また、彼氏が、醜くなる自分の彼女を楽しむような男だったことも、ブサイク系の文香も性格が悪くて、みちるがブサイクになったとたんマウントしてくるような友人で、いままでなんで友達としてつきあってきたのかわからないところも残念でした。
一度ブサイクになってみちるの性格がゆがんじゃったのは極端ではありますが、彼氏や文香の意地悪な仕打ちを考え、また、美人仲間や男子たちの手のひら返しを思うと、やむを得なかったかなあ、とも思います。
でも、唯一、いつも態度を変えず、海外旅行での軽はずみな行動をちゃんとたしなめてくれた日奈の彼氏を寝取ったりするのは、ストーリー上は謎でしかなかったです。
この作品では、美人じゃない女の子たちは寄り集まって人の悪口を言う子たちしかいなくて、普通の子がいない!男子も美女礼賛するひとたちばかり。でもこのお話はわざとシンプルに描いて、みちるちゃんが没落していくだけのものなので、それでいいのかな、と思います。
暗澹たる気持ちになるのは、美女であることがそれほどまでに価値があるという大学生活です。私は大学は男子が少なく、私自身は男子とほぼ接点がありませんでした。数少ない男子も、美女にあこがれはしても、それだけでチヤホヤするようなことはありませんでした。
私が社会人になってから、美女の先輩や後輩への態度と、それ以外の私たちへの態度が違う男性たちがいて、初めてむっとしました。私が属していた社会では、性格のよい美女は男女問わず誰からも人気があり、性格の悪い美女のことは男性によっては敬遠する様を見てきたので、顔だけで「人生イージーモード」になる人たちはあまり見たことはありません。
でもきっと、あるんでしょうね。顔の美醜だけが明暗を分ける社会も。モデルの世界では、美しくて当たり前でしょう。世の中では、美しさだけではなく、若さも求められています。白人系の顔立ちは、ティーンのころが最高に日本人好みで、それをすぎると白人や混血のひとのエキゾチックな美しさよりも、東洋人で若く見えることが重要、という側面がありそうな気がします。モデルの世界ってきびしそうだなあ。
そんな中で、一時的に顔が腫れ上がっちゃっただけのみちるの写真が出回って、みちるが仕事を失うのはかわいそうです。たとえみちるが、性格悪い子になっちゃった背景があったとしても、本来美人なのに、あの写真を出されて「みちるは整形」っていわれるのは気の毒…
なんか、どっちつかずの感想になってしまいましたが、美人だからといって幸せになれないし、美人はやっかまれてあることないこと言われるし、美人の彼女をもつ彼氏は彼女を支配したがるし、ブサイクの友達は性格いいかと思いきや、性格もしっかりブサイクだし、どうにもやるせのない作品でした。
でも下世話心は満足できちゃって、結局しっかり楽しみました。