死刑島

『死刑島』は原作 剣名舞さん、作画 日野入緒さんの作品です。死刑島と呼ばれる孤島に集められた男女8人の死刑囚。彼らの記憶は細工されていて、何故自分が死刑囚になったのかは忘れています。

モニターにはハングマンと名乗る仮面の男が映し出され、部屋に置いてある3つの箱(黒の箱に緑の蓋)には食糧が入っているが、そのうち1箱の中のものはすべて毒だといいます。床には赤の四角いマークがあります。

ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。

主人公、みんなには「ドクターキリコ」と名乗った桐谷は、自分の罪を思い出します。ホスピスの職員だった桐谷は、末期症状の患者の「もう楽になりたい」という気持ちに同調して、延命装置をこっそりはずす形で死においやっており、それが同僚にばれた結果死刑囚になったのでした。

そんな中でハングマンが出したクイズを解くと、ドアが開きます。外は島の崖。落ちたら死んでしまうにちがいありません。

他の囚人たちも自分の罪を思い出します。ミネコは年の離れた夫らを遺産目当てに毒殺した罪で死刑になりましたが、本人は無実を訴えています。ミネコの話に触発されて、コウタが自分の罪と事情を打ち明けます。そしてみんなが気づくとコウタの姿は消えています。みんなが寝ている間にドアから外に投げ出されたのでしょうか。

その後、めぐみが罪を告白し、姿を消します。ルイは「この中に処刑を担当するリベンジャーがいる」と言い出します。ルイは自分の罪を告白して自分はリベンジャーではないと言い残して消え、後にはマヤが続きます。

告白した者が処分される流れの中、ハングマンからまた新しいクイズがでます。それに答えると、今度は充填された拳銃が現れます。リアンは銃口をシュウジに向けて告白させます。シュウジから促されたリアンも素直に告白します。リアンはひとりだけ無罪を主張しているミネコがリベンジャーだと銃口を向け、止めに入ったシュウジを誤射し、そのショックで自殺します。

ミネコがリベンジャーだったのかとおののく桐谷にミネコはニッコリ笑って銃を渡し、崖に通じていたはずのドアから足音を響かせて外に出ます。

ハングマンに「君の役目は終わった」と言われた桐谷は自分がリベンジャーだったのかと混乱して自分に銃口を向けますが、自分を撃つことはできません。

しばらく呆然としているとミネコが戻ってきます。ミネコは実はミネコを装った女医。桐谷は「憑依性多重人格」だったと告げます。

桐谷は、ホスピスに勤める前は刑務官として死刑囚に接し、処刑にも参加していました。その中で辛い事情で殺人の罪を犯し、桐谷と接する中で罪を後悔して処刑されていった6人の人格を自分の中に作ってしまっていたのでした。ハングマンも桐谷が作った人格です。女医は、最後に死刑判決を受けた、自分に似たミネコになりすまして、桐谷に自分の中の多重人格をひとりずつ消すように仕向けていたのでした。その証拠に、桐谷はミネコ以外の6人とは直接言葉を交わしてはいなかったのでした。

桐谷が殺した人たちの家族からは桐谷の刑の軽減申請が出されており、ミネコの再審が決まったと女医は桐谷に伝えます。

桐谷は、シュウジの病気の妹を訪ねてシュウジの最後の言葉を伝えます。「生きろ」と。

剣名舞さん…絶対にこの人の作品をよんだことがある。それも何度も。でも誰だっけ?と調べてみたら『ザ・シェフ』の原作者さんでした。

絶海の孤島に隔離された8人のパニックサスペンスかとおもいきや、各自が罪を告白して消えていく、不思議な物語でした。それぞれ死刑の判決を受けているので、犯した罪はしっかりと重いのですが、それに至るまでにはそれなりの辛い事情があって、どの犯人もそれぞれ憎みきれないところがあるのです。そして、死刑囚でいながらも、8人が争いになったり疑心暗鬼の駆け引きをしたりするのではなく、自分がコンテナの中の飲食物を摂ることで、毒が入っているか否かを判断すればいい、と、他の人に協力的、というよりも達観しているメンバーたちなのでした。

毒を接種して死んだと思われる囚人たちも、苦しむシーンはなく、誰かがペットボトルの水を飲むとみんなが意識を失って、ふと気づくと告白をした人がいなくなっているという仕組みで、タイトルがはらんでいる緊張感に反して、暴力もグロもなく淡々と進んでいくお話がとても不思議でした。

銃が現れたところでは、ちょっとだけ生への執着が見えます。告白する=死ぬ、という図式が見えている中で、自分は言いたくないからあなたから告白しなさい、と、リアンがシュウジを促すところです。しかし、争いは起きず、シュウジは抵抗せずにあっさりと自分の罪を告白します。病気の妹の治療費を工面するために無茶をするシュウジ。つらい治療を頑張ってきすぎてもう辛い、安楽死のあるスイスに行きたい、と言う妹。冒頭に明かされている桐谷の罪(ホスピスで終焉を迎える人々の延命処置器具をはずすことによって安楽死をさせる)とかぶっていて、しかも本人が安楽死したいと言っていて、とても切ない気持ちになりました。

そして、シュウジに促されたリアンもあっさりと自分の罪を告白するので、普段、閉ざされた空間での足の引っ張り合い、自分が死なないための駆け引きの漫画を見慣れている目には、とても新鮮でした。

そうして残りが桐谷とミネコになったところで、既に自分への冤罪を告白していたミネコがゆっくりと、あの絶壁の上に開いているはずのドアから、コツコツとヒールの音を響かせて出ていくのは本当に不思議でした。

そして、ハングマンに労われ、自分がリベンジャーだったことを知る桐谷。自分に銃口を向けて、でも撃つことはできません。このあたりは、最初に読んだときよりも、読み終わってストーリーを分かってから読んだときのほうがぞくっとしました。

黒に緑の蓋のクーラーボックスが3つ、床には赤い印、というのは、死刑執行所をイメージしたものだということでした。そこは、なるほど治療のためね、というより、処刑パニックものっぽい雰囲気のほうがつよかったかもしれません。

ミネコの話も、他の6人のエピソードもしっかりしています。そして、桐谷が犯した罪とシュウジが罪を犯した原因がリンクしていて、最後のメッセージが「生きろ」というものであるところも、しっかりお話が練られていると感じました。

原作者さんが、『ザ・シェフ』の剣名さんだとわかって、納得しました。ザ・シェフは、料理を通じて人間のエピソードを描くお話だからです。あれだけの巻数を重ねた剣名さんにとっては、人間のエピソードをギュッと凝縮して2巻でこの作品を描くのも、お手の物だったのではないかと思います。桐谷が直接会話したのがミネコだけ、というのもよくできています。そもそも他の6人は桐谷の頭の中にしかいないのですが、ミネコが桐谷に自分への冤罪を語る部分は、後で見ると、ちゃんと桐谷とミネコ二人だけで成り立っています。ネタがわかって読み返して面白いのは、この作品のいいところです。

日野さんの絵は女の子が好みでした。特にシュウジの妹の顔が好きだったので、彼女が生に前向きに取り組んで終わるラストはよかったです。

タイトルから連想したものとはまったく違うお話でしたが、面白かったです。

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