『投票げえむ あなたに黒き一票を』は、原作 ごぉさん、構成 CHIHIROさん、作画 たつひこさんの作品です。高校2年生になった鷹山修介は、仲の良いの若葉、和人と同じクラスになります。和人はそこでクラスの親睦を深めるための投票ゲームを始めます。
クラスの女子5人の名をあげてお気に入りの人に投票するのがこのゲームのルールです。
ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。
和人は選ばれた5人だけで順位を決めて最下位を落としていくことによって「全員の中の最下位」をつくらないことで誰も傷つかないゲームにしようと思っていたのですが、初回の投票で最下位になった女子生徒は学校を休み、友人は激怒します。そこにまたメールが届きますが、それは和人が出したものではありませんでした。そのメールには5人の女子ではなく、和人を含む5人の男子で人気投票するように指示が書いてありました。
翌日、和人への投票数はゼロ。もう1名同票最下位がいます。そこに担任が現れ、昨日最下位だった女子生徒が死んだと告げます。先生は話を聞きたいと言って和人を呼び出します。クラスはショックを受け和人を責めますが、その和人も構内で落下事故で亡くなります。さらに、和人同様最下位だった生徒も死にます。そこに届く女子5人を対象にした投票ゲームのメール。
翌朝は、投票を棄権した男子たちが死にます。すっかりパニックになるクラスですが、投票は続きます。修介は和人のPCを調べ、投票ゲームのシステムを削除します。翌日はメールはきませんでしたが、その翌日、メールはまた届きます。教室には投票箱が設置され、2年になって以来不登校だった転校生、山村麻里那が登校し、たじろぐクラスメイトに「始めましょう、この投票げえむを」と語りかけます。
それからも投票を促すメールは続きます。投票箱が壊されると、投票方法は制服のリボンを渡すこと、セックスすること、目玉をくり抜くこと、とエスカレートします。
同時にこの現象を調査する大人が現れ、投票げえむが18年前と1年前に行われていたことを調べ上げます。18年前の生き残りは山村麻里那。今の修介と麻里那は生き残った山村麻里那が産んだ双子でした。そして1年前の管理人は母親のほうの山村麻里那で、生き残りは彼女の職場でバイトしていた若葉でした。彼らは、人間は脳のシナプスのようなもので、要らない細胞を自分で切り捨てていくものだと考察します。
今回のげえむの管理人は若葉。和人の企画を乗っ取ってクラスを恐怖で支配した挙げ句に好きな修介と二人で生き残ろうと画策していたのでした。最後に残ったのは若葉と修介と麻里那。投票方法は、クラスメイトのクビを切り取ること。血だらけの風呂敷包みを持って歩み寄る修介を見た若葉は微笑み「私を選ぶか山村さんを選ぶか迷うのは楽しかったでしょ」「また新しいげえむを二人ではじめましょう」と明るく話しかけます。そこに麻里那が現れ、修介に選ばれなかったと知った若葉は自分のクビは誰にもとらせまいと、割れたガラスの上に自分でクビを打ちつけて切って死にます。
麻里那は修介に自分のクビを差し出して死ぬつもりでしたが、先日のセックスによって自分が修介の子を身籠っていることに気づき、修介のクビをとって自分が子供と一緒に生き延びることを選びます。
10カ月後、麻里那は生まれてきた子供に囁きます。はじめましょう、新しい投票げえむを、と。
この作品は、デスゲームにはまっていたときに手当たり次第読んだもののうちのひとつです。まずは若葉の可愛らしい姿に惹きつけられました。
デスゲームなので、結構グロい表現は多いです。冒頭では、18年前の麻里那と修介が最後の瞬間を迎えるシーンが繰り広げられ、精神的な苦痛に歪んでいる麻里那の顔も印象的です。
でも、この作品の、私にとって一番の魅力は、主人公の修介です。修介は若葉のことを、転校生だった自分を「あ、チャック全開」という言葉で一瞬にして馴染ませてくれた友人だと感じてはいますが、恋愛感情は持っていないようです。一方で、若葉は、最初のあけすけな指摘も含めて、修介に好意をもっていることがはっきりしています。和人の前で、修介が投票するのは私、と念押ししたりします。でも、そういう修介は特にイケメンだったり垢抜けていたり秀でているところがあったりするわけではなく、普通の男子なのです。少なくとも、私にはそう見えます。普通の、特殊能力があるわけではない男子が、異常な状況の中で、精一杯悩んで翻弄され、決断していくところが、なんだかしっくりきてよいのです。
実際には、修介は18年前の投票げえむの生き残り、山村麻里那の双子の子供のかたわれなので、運命に導かれてこのげえむに参加しているし、投票げえむの管理人である若葉に愛されているので、クラスメイトの中で、誰よりも特別な存在なのですが、ルックスからはそうは見えない。清潔感はあるけれど、いまひとつぱっとしない、普通のモブ男子に見えるのです。そこが何より、私の好みでした。
お話としては、デスゲームってたいていいつもそうなのですけれど、ちょっと仕組みがよくわからないところがあります。人を滅亡させるロジックが人間の遺伝子に組み込まれているっぽいという解釈がでてくるところは『王様ゲーム』と同じなのですが、はっきり違うのは人間の管理人がいて、エントリーする人と投票方法を指定しているところです。毛利さんや生徒たちが管理人をしていた『生贄投票』と同じはずです。でも、若葉はサーバーへのアクセス権を持っていたとしても高度なIT技術で和人のシステムを乗っ取っていた雰囲気はなく、修介がシステムファイルを消した後もシステムが動作していて、都合よく投票機能だけが無効になっています。メールを送る機能は若葉のスマホで管理できるので、逆に言うと若葉の手元にスマホがなかったときはメールが配信されず、投票げえむが終わったかのような印象を修介に与えています。説明されればされるほどこういうのはわけがわからなくなりますが、そこにこだわるのは野暮というものでしょう。こういう作品では、よくわからないところはスルーして描かれる人間模様を楽しむのがよいと思います。
という意味では、最初から和人に苛立ってきいきい言っていた伊達留美子はうっとおしいキャラでした。修介に惚れてくるのもうっとおしかったし。でも、修介、若葉、麻里那の他に誰が一番印象に残っているかといえば留美子でした。