『空中飲茶飯店』はかまたきみこさんの作品です。翅膀と呼ばれる羽、飛翔器具をつけた茶運師(サウジ)が高価な茶を命がけで運び、飲茶飯店で「来客」と呼ばれる茶師が、茶葉を引き立てる極上の技術で茶を淹れ、その価値を決定します。
日本人のクロダの甥、まだ若い空也が、茗のいる空中飲茶飯店に飛び込んできたところから物語は始ります。
ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。
茗は実は人質です。石油による大気汚染がひろがり、日本を除くアジアの国々がクリーンな新動力を採用した中、過去に石油で財を成していた西洋の財閥が中国に差し出した幼い人質、それが来客で、茶師としての技術力を教え込んで利用するとともに、人格を奪う教育を施そうと主張したのが、いくつかある飲茶飯店のうちのひとつ、クリーン動力で空中に浮かぶ飯店のオーナーの瑰です。
その教育で育てられて心を失っていた茗ですが、高級茶を狙う暴漢から襲われた時に空也に庇われたことをきっかけに、心が動揺します。茗は空也に茶を持たせ、別の来客、朱のところに送ります。そこで空也は初めて「来客」が実際は人質なことを知ります。
激情に駆られた空也は無計画に茗を空に連れ出し、サウジたちに茗を奪還され、地面に落とされます。瀕死の空也を助けたのは、以前茶会にいて失脚していた吳です。
空也は自殺を図り、茶の選定を遅らせていり棘銀という13歳の少年に会い、彼の寂しい心に寄り添って茶の選定ができるように促します。遅れている選定を助けるため朱を呼び出すことを茶会に認めさせるなど、新しい風を茶会に吹き込みます。パワーバランスはかわり、瑰は失脚して姿を消します。
そんな中、北米と日本が新しい油田を開発し、茶中心の世界がゆらぎます。来客たちを国にもどそうなどの議論も出ます。
瑰と空也は出会い、空中飲茶飯店を墜落させます。その前に、茗や茗の世話人たちは空中飲茶飯店を脱出します。
世界が変わっても、来客たちは国には戻らず、でも人間の心は取り戻して、お互いに協力して茶芸師の道を極めようと毎日を送っています。茗のところには空也が訪ねてきて、茗の茶芸を目当てに集まる客をもてなそう、と明るく笑います。
独特の世界観に、すぐに夢中になって読んでしまいました。羽を装備して命よりも大切な茶葉を運ぶサウジが跋扈し、来客である特別な茶芸師が、茶の性質を読んで茶を淹れる世界は、佐藤史生さんの『夢見る惑星』とか、今市子さんの『岸辺の唄』などのような、異世界、異文化もののような導入です。
それが、完全な架空の世界ではなく、今の世界が化石燃料を使って土壌を汚染させたあとに、汚染を引き起こした国々に反して土地を大切にした、日本以外のアジア圏を支配している中国でのお話、という設定が新鮮で魅力的でした。
お茶の名前が難しいところはちょっとだけ弱点ですが、あえて茶葉のついての解説をいれず、ただ、茶を淹れる茶芸師によってどれだけ茶葉が違ってくるのか、来客たちがどれだけ繊細な技術をもっているのか、という描写をしてくれるのはとてもおもしろかったです。
特に、若くて、基本を知らず、おじさんの事故(実際は瑰による襲撃)によって突然サウジとなり、危険な目にあっても茶葉だけは守るという空也の出現は新鮮だったし、何も知らない20歳の青年だからこそ、ピュアに茗や朱や棘銀に触れて素直に振る舞い、来客たちの心を溶かしていく様が、小気味よいものに思えました。
空也の行動で、来客たちの心が揺すぶられ、変わっていくのもこの作品の魅力でした。
久しぶりに読んだ文化の違う世界でのファンタジー、満足度高かったです。