よふさぎさま

『よふさぎさま』は、オガヅカヅオさんの作品で、『魔法はつづく』に収録されています。夜走る女、知子のお話です。

高校3年生のある夜、走る知子の目の前にワニが現れます。亜矢子にその話をすると、それは夜走る女の前に現れて人生の転機を知らせるよふさぎさまだと亜矢子は言います。

ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。

その後、知子はバイト先で純一くんに声をかけられます。純一くんと知子は付き合い始めます。その後も、よふさぎさまはいろんな形で知子の前に現れ、知子は山あり 谷ありの人生の中、よふさぎさまからの啓示をみて、どんな状況にも心構えができるようになりました。

地面から溢れる水を見た日、帰宅した知子に、純一が来客を告げます。離婚して子供を連れた亜矢子です。亜矢子はよふさぎさまは、自分がとっさについた嘘だったと告白しますが、知子は転機を覚悟します。

それは純一の、亜矢子との浮気で、純一は結局亜矢子を選びます。慰謝料とか請求しないで、という亜矢子に、知子は「よふさぎさまで覚悟してたからいいよ」と答えます。

それから5年。知子は純一から、亜矢子と別れたという手紙を受け取ります。純一は知子と会いたいといいますが、知子はお断りです。走る知子の前にザリガニが現れます。知子は「君はよふさぎさまじゃない」とザリガニに話しかけます。ザリガニはよふさぎさまじゃないから、今の夫が亜矢子とできてるなんて有りえないし、知子がキラリと光る包丁を持って、亜矢子の元に向かってるなんてことも有りえないはずです。

オガヅカヅオさんの作品を初めて読んだのは『ことなかれ』の1巻です。カラーの表紙絵が印象的で、試し読みの絵も内容も好きな感じだと思って読みました。面白いのですが、まだ2巻がでていません。ちょうどお話の展開があったところで終わっているので、期待を込めて2巻を待っています。

仕方ないので、オガヅカヅオさんの他の作品を読んで見ることにしました。そのひとつが、短編集『魔法は続く』です。

どの話も面白くて、好きです。面白いというか、オモシロ怖い感じです。このよふさぎさまで、最初にワニが出てきたのは、近所で飼っていたペットが逃げ出したそうなのですが、原因はどうでもよくて、コイが跳ねていたり、家の上の階が家事になったり、走っている知子の足をとめるものならなんでもよいのです。このあたりはしつこくなく端的に描かれていて、作者さんの巧みさを感じます。

純一と結婚している知子を訪ねて来て、よふさぎさまなんて嘘だったと言われるあたりはショックですが、それすらも問題ではありません。知子が羨ましいと泣き、純一との仲を「わかってると思うけど」と、ずるい感じで告白し、慰謝料とか言うなという、図々しくてあざとい亜矢子には、知子よりも読者のほうが腹をたててしまいます。

そして今。亜矢子はやっぱり最低の女です。知子のものを狙い、知子の幸せを壊すことが、どうやら亜矢子の生き甲斐のようです。それに対しての知子の行動。これから起きる惨状を、涙を流しながら明るい笑顔で走る知子の姿が、想像させます。怖いです。ゾクッとします。読んだ満足度、高いです。

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