『死にぞこないの青』は原作 乙一さん、作画 山本小鉄子さんの作品です。マサオはこれといって目立つところがない、と自覚している小学生です。親に心配をかけまいとしている優しい子です。
担任の羽田先生は若くてさわやです。マサオは、先生と親しくできる他の生徒たちを羨ましく思っています。
ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。
しかし、ささいなことで先生に誤解されて以来、マサオは羽田先生は自分にだけ辛く当たっていることに気づきます。思い切って「みんなと同じように扱って欲しい」と訴えると、「みんなのことを怒れというんだな。お前は悪い人間だ」と決めつけられ、「自分は生きている価値がありません」と復唱させられます。
クラスメイトも先生とマサオの間の不穏さを感じて次第にマサオを遠巻きにするようになります。マサオは親に心配をかけまいと耐えます。そんなマサオの目に、皮膚が真っ青で拘束服を着せられ、口を紐で縫い止められた少年が見えるようになります。マサオは幼い頃、病気で生死をさまよったことがあり、そのときは皮膚が青くなったと聞かされているので、その少年が自分なのだと気づきます。マサオは彼を青と呼びます。
クラスメイトにいじめられた日、青の口の紐が解け、青がマサオを動かしてマサオは反撃します。翌日羽田先生はマサオを呼び出し、「うちのクラスにイジメなどないんだ」と、折檻します。
青はマサオに、羽田を殺すべきだと主張します。マサオは情報を集め、羽田の家に忍び込んでタバコを浸した液を麦茶に混入しようとしますが、羽田に捕まってしまいます。暴力をふるう羽田の横で、青は「羽田はお前を怖れてるんだ」といいきかせます。
羽田はマサオをクルマのトランクに入れ、山に行きます。そこでマサオは反撃に出て、2人は崖を転がり落ちます。青は怪我で動けない羽田の頭部を岩で殴って殺すべきだと主張します。
結局マサオは羽田を殺さず、人家に辿り着いて助けを求めます。本当のことは伏せたままですが、羽田は入院し、代わりの先生が赴任します。青は姿を消します。
羽田先生ほど評判の良くない女性の先生は実際、ちょっと抜けています。「周りの人が自分をどう評価してるのか怖くないんですか?」というマサオの問いに、先生は「がんばってる結果がこれなんだからしょうがないでしょ」と明るく笑います。マサオは、もう自分みたいになることはない、とほっとします。
とてもつらい話です。人気の高い先生に嫌われて嫌がらせをされること、クラスにも仲間がいなくなり、友達も自分から離れていく、家族には「心配させたくない」という自分の気持ちから相談することができない。どこにも逃げ場がないということの圧迫感が画面から伝わってきて、マサオと一緒に苦しい中に置かれます。
羽田から受けるイジメのエピソードが胸をえぐります。プリントが1枚足りなかったとき、マサオのプリントを取り上げて「他の人のを写しなさい」と言われるところ。マサオが宿題を忘れたから全員に宿題を出すということ。完璧な答案を提出したら「答えを見てかいた」と決めつけること。読んでいてくやしくてなりません。学校という閉じた世界の中で、評判の良い先生にいじめられることが、どんなに恐ろしいことなのかがよく表現されています。
子どもたちが先生に影響されてマサオを遠巻きにするところも切ないです。確かに、冗談半分に見せつつ人気者の先生が誰かを槍玉に挙げることでクラスをひとつにしている中で、反対の声を上げるのは、小学生には無理だと思います。
青の見た目はショッキングですが、実際に、がんじがらめにされていて手も足も出ないマサオの姿なのだと思います。羽田がマサオを捕らえて殺害の準備をしている間もずっと、羽田はお前を怖れている、とマサオに話しかけていて、青の強さ(=マサオの強さ)には感動します。
マサオと羽田の関係は、『ドクムシ』にでてくるユキトシと教師の関係にちょっとだけ似ています。と言っても、先生が生徒を毛嫌いしていて、先生という権力を使って生徒を追い詰めようとする点が一緒なだけなのですが。ユキトシは教師が息絶えるまでその様子を見守って見殺しにしましたが、マサオは結局は羽田を殺さず、本当のことを語らないことによって、羽田を自分から遠ざけました。
最後の女性の先生がどこか抜けていて気軽な性格だというところで、マサオも、読者である私たちも救われます。読み終わっての読者の願いは、羽田が教師を辞めることです。もう二度と、生徒たちの前に立ってほしくないです。
この単行本にはほかに2作が収録されています。どれも面白く、また、『GOTH』とも違った印象です。乙一さんの作品をもっと読んでみたいです。