僕だけがいない街

『僕だけがいない街』は三部けいさんの作品です。売れない漫画家の悟には特殊能力があります。子供に危害が及びと思われるシチュエーションにあうと、時間が巻き戻る『リバイバル』が発生し、悟はその間に子供を被害から救うための動きをとることができるのです。

悟はこの能力があることに気づいて以来、ずっと子供を助けるために動いています。

ここから先は、ほぼ完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。

その能力を発揮した結果怪我をした悟のもとに、北海道から母が上京してきてしばらく一緒に暮らすことになりますが、母は刺殺され、悟は犯人として追われることになったのでした。

悟が強くリバイバルを望むと、なんと1988年、悟が小学生だった時代にまで時間が戻ってしまいます。母が殺されえるきっかけとなった出来事はこの時代にあったのだ、と悟は必死で頭を働かせます。そして、3月2日に命を落とし、未解決事件になった同級生の加代の死が原因ではないかとの見解に達します。

悟は、いつもひとりぼっちだった加代の生活を変えて命を救うため、遮二無二邁進します。突然の悟の変化に友人たちはとまどいつつも悟に協力し、加代は死ぬはずだった3/2は乗り越えますが、結局3/3に殺されてしまいます。

悟は現代に戻ります。母が殺され、自分が容疑者として追われている状況は変わりません。バイト先の後輩、アイリは悟を信じて助けてくれます。しかし、結局そこで悟は逮捕されてしまいます。

そこでまたリバイバルが起こり、悟は再び1988年に戻ります。悟は周囲の協力体制を広げ、加代を助けるだけでなく、加代の後にころされるはずだった少女も助けます。また、ターゲットになりそうな孤立した少女の身辺にも気を配ります。しかし、真犯人に目をつけられ、殺されそうになります。

今回はリバイバルは起きず、悟はからくも助け出され、植物人間のようになって意識がもどらずにそのまま現代に戻ります。母は献身的に悟に尽くし、悟はついに意識を取り戻します。リバイバルが発生する前の全ての記憶を失っている悟の記憶が戻るのを、周囲は辛抱強く待ちます。

記憶が戻ったとき、真犯人は悟と同じ病院にいた少女の命を狙っていることを明示し、阻止しようとする悟との駆け引きをゲームのように楽しみます。悟と親友のケンヤ、そして母との連携もあり、悟は真犯人の犯罪を阻止します。

それまでに犯した犯罪によって真犯人は逮捕され、悟はアイリとの再会を果たします。過去が変わったことによって、アイリにとってはこれが初対面です。悟の心は踊ります。

タイトルは見たことがあると思ったのですが、アニメ化もされた超有名作品でした。でも何の情報も持っていなかったので、何の先入観もなく読むことができました。

冒頭で、漫画雑誌の編集者に悟が侮辱されているシーンがあり、その後悟がピザ会社の社員に誘われても、悟は何の躊躇もなく漫画家にこだわっていたので、漫画家であることに意味のある作品かと思ってしまいましたが、すぐ「リバイバル」がでてきて、今までに読んだことのない展開に一発でやられてしまいました。

絵もすごく特徴があって、目が魅力的です。悟の母は、とてもその年齢には見えない若々しい女性、という設定ですが、外見だけでなくとても魅力的な女性です。最初の時代で刺されてしまったことがショックでなりませんでした。

そして子供時代に戻ると、子どもたちの外見も性格も、お母さんに負けず劣らず魅力でした。このお話はこの絵でなければいけない!と思ってしまいました。アニメ化はどうだったんでしょうか。機会があったら、見てみようと思います。

29歳の記憶と頭脳で子供として加代を救うために奔走する悟の姿は、もちろん読者にとってもカッコイイのですが、お話の中で一緒にいるお母さんや友人たちにも今までと違って見えます。大人の頭になったとはいえ、達観しているのではなく、加代を救うために必死で行動する悟には余裕などありません。ケンヤは親友だけに切実にそれを感じ、悟のまっすぐな気持ちによって周囲の子どもたちが動き出す様子は感動的でした。さらに、何か違うと思いながらも、悟に対して絶大な信頼を持ち、悟や、一緒にいるケンヤをはじめとする男友達のことも加代のことも優しくつつむお母さんの姿に感動して、それだけでちょっと泣いちゃいました。うちの両親は、悟のお母さんほど強い信頼を私に寄せているほどでもないただの普通の親ですが、悟の母の深い愛情を見ていると、自分の両親の自分への愛情も身につまされて、感謝の気持ちでいっぱいになってしまいます。

加代の運命は過酷で、最初のリバイバルでは加代は救われませんでした。とっても辛かったのですが、がっかりする間もなく、現在に戻っての悟の過酷な環境と、アイリの強さに引っ張られて読み進めてしまいます。

3度目の1988年でもやっぱりお母さんの強さ、それも、危うくても信じてくれる気持ちにやられてしまって、なんでもないところでボロボロ泣いてしまいました。頭は大人だけど、未来をしっているということだけが武器の悟は、思いがけない人物に翻弄され、殺されかけます。というか、死んだと思ったので、胸が凍る思いでした。真犯人は途中から「この人しかいない」状態にはなりますが、この物語は犯人をつきとめることが読者にとってのメインではなく、人の心と心の結びつきと、信念を持ってそのために生きることの強さを描いている物語だと思うので、真犯人が思ったとおりの人でも、つまらなさはありませんでした。

ベッドに縛り付けられた状態になって意識がない悟に、もうリバイバルは起きません。悟はそのまま大人になり、ある日目を覚まします。記憶を失っているので、犯人がのうのうと暮らしていることを知っている読者は、この先の展開にハラハラします。加代が新しい家庭を築いているのは胸熱です。加代以外の元被害者も生きていて嬉しいのですが、真犯人がまた罪を犯しているかと思うと気が気じゃないし、悟をまた狙うに違いないので、怒りや恐怖がとまりません。真犯人はサイコパスと思われるし、悟にねじ曲がった執着心を持っているし、経験を重ねているので、怖くてなりません。

そして、女の子の命をかけて、真犯人との駆け引きがまた始まります。真犯人は楽しんでいます。最後までハラハラドキドキです。手に汗を握ります。

全てが終わってみると、過去の悟の人生は夢だったのか?という疑問もでてきます。そうでばればリバイバルの能力も夢だったと説明がつきます。でもディテールを考えると、やっぱり夢だったとは思えません。子供の体に大人の思考と情報を武器に、狡猾な大人に立ち向かって勝った記録だと思うし、リバイバルの能力は、加代をはじめとする子どもたちを救うために悟に与えられたものだったのだろうと思います。こういった部分でいろいろ考察、というよりも妄想できるところも、この作品の素敵なところだと思います。

サスペンスはもちろんなのですが、信頼と愛情が見事に描かれた作品で、月並みですが、感動してしまいました。

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