『奇妙な晩餐会』は藤井みつるさんの作品です。原作脚本は安江渡さんです。遠くから仕入れたという9つのお話が、晩餐会のご馳走で、着飾った賓客らに出されます。短いプロローグとエピローグに挟まれて、趣向の違うお話が提供されます。
最初のお話はJIBAKU霊。男が追い詰められるシーンから始まります。
ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。
男は女にしがみつかれ、熱さを感じて苦しみます。
モロが電話にも出ないことをハジメは気にしていますが、主人公は取り越し苦労だと笑います。ただ、去り際のハジメの背中に長い黒髪の着物の女がついているように見えるのが気になります。
その後ハジメとも連絡がとれなくなり、心配している主人公に、息子や嫁が「うちには透明人間がいる」と訴えます。主人公にも数人の人影が見えるような気がしてきます。
そういえば、モロとハジメと家族3人で行った旅行で、浮遊霊が集まるという廃寺に不気味な笑顔を浮かべる女を見た…そう思い返したとき、主人公は妻の苦悶の声を聞いて我に返ります。妻は何者かにクビを締め上げられ、熱いと苦しんでいます。何があったかと息子が近寄って来るのを見て、主人公は妻に詫びながらも息を連れて逃げようとします。しかし息子も血まみれになり、次の瞬間、自分も血を流しています。
主人公は思い出します。あの旅行のとき、スピードを出しすぎたモロがハンドル操作を誤ったことを。じゃあ、今ここにいる自分はいったい…?
不動産屋の男は浄霊師に礼を言って見送ります。「一家全員事故死している家でしょ?」最初は気にしなかったけれど、内覧に来た客が何かいると言うものだから、と言い訳するのに対して浄霊師は「自分が死んだと気づかない浮遊霊は、思いを残した場所で地縛霊になる」と説明します。寺での浄霊をすり抜けてしまうものもいるので、現場での浄霊もするのです。そんな浮遊霊には、浄霊師のほうが霊に見えているようですが。
晩餐会の賓客らしき表紙の男女に惹かれて読みました。賓客をもてなす給仕長の顔もシブくてなかなか好みです。
最初の話は、この世のものならざる何者かに襲われるというショッキングなシーンから始まります。とは言っても、おそらく少女向けホラーである作品なので、グロかったり怖すぎたりはしません。なんだろう、という適度に関心をひかれました。そのあとの、主人公や家族たちの姿に派手さはないのですが、丁寧な絵で落ち着いて読ませてくれます。
主人公たち家族やモロやハジメは死んでいて、主人公たち家族が「透明人間がときどきいる」と思っていたのは、実は生きた人間たちだった、最初にモロを追い詰めていたのも、ハジメに憑いていたのも浄霊師で、熱い熱いと苦しむのは、実は浄霊されているところだった、というオチです。
旅行で行った廃寺は浄霊師のお寺で、そこに潜んで凄みのある笑いを浮かべていたのも浄霊師だった。本来全員そこで浄霊されるはずが、5人ともすり抜けたので浄霊士が後を追って、順々に浄霊していたわけです。
なるほどー。割とありがちなお話かもしれませんが、まんまと騙されました。廃寺のボロボロの隙間から浄霊師が見えて笑っていたのも怖かったし、息子が血だらけになっているところでは絶望を覚えましたが、まさか主人公が浮遊霊だとは思いませんでした。霊媒師ものでは霊たちに有無を言わさず浄霊してしまうシーンがよくでてきますが、確かに自分が死んだことに気づいていない霊から見たら「よくわからないうちに締め上げられて苦しんで消滅させられちゃった」的な感じかもしれません。
最後にでてきた浄霊師の顔がユニセックスで印象的で気に入りました。最初の話だったけど、気に入って先に進む前に何度か読み返しちゃいました。
2話は、漫画家さんが変わった?と思うほどタッチが違うように私には思えます。江戸時代の殿様に仕える台所奉行のお話です。どんな料理でも最後にかければたちどころに料理が最高のものになる美味之素がでてきます。
ここぞというところで厨房に粗相があって美味之素も台無しになって切腹を覚悟した隆康殿。でも妻の妙が厨房に訪ねてきたことでピンチを切り抜けます。
妙は富山の出身。薬売りが「来週、茶屋で」と言っていたと隆康に伝えます。明るくて屈託のない妙が魅力なお話です。これも読み終わるとすぐ読み返したくなります。
どのお話も、重たすぎず怖すぎず、だけど不思議なお話でした。エピローグまで読んで満足。こんな晩餐会なら、何度でも開催して欲しいものです。