天使だったらよかった

『天使だったらよかった』は中河友里さんの作品です。夏瑚(カコ)と憂奈(ウイナ)と泰星は幼馴染。でも最近3人の関係に変化が訪れました。ウイナと泰星が付き合い始めたのです。

泰星をずっと好きだったカコはじっと耐えます。

ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。

そこに謎の男性が現れて、カコに、奪っちゃおうよ?といいます。男は絢斗。1学年先輩です。

実は、泰星は最近まで事故で入院してずっと意識が戻らないでいました。カコは毎日お見舞いし、手を握って自分の恋心も含めていろんなことを話しかけていました。しかし、ウイカが一度だけ見舞った日に泰星は目を覚まし、ずっと手を握っていてくれたのは君か、とウイカに尋ねます。カコの気持ちも知っていたウイカは「うん、私だよ」と嘘をついて泰星と付き合います。

先輩は入院していて、カコの様子をずっと見ていました。ある日ガーベラをひとつ落としたカコに話しかけると、カコは気持ちを話し、「希望」という花言葉を持つその花を先輩に差し出します。

実は先輩の父は先輩の母を殺しています。先輩は愛情あふれる叔母と暮らしてはいますが、それでも同級生から「人殺しの子供」とそしられ、孤独を感じていました。差し出されたガーベラに先輩は希望を見出し、カコを天使として見て深く愛するようになっていたのでした。

ウイカが泰星と付き合ったのは泰星を好きだからではなく、カコを独り占めしたいから。泰星に夢中になるカコを許せず、泰星への愛を諦めさせ、カコの気持ちを自分に向かせるのがウイカの目的です。

ウイカは目的を果たすためいろんなことをします。まずは、泰星を奪われたカコが嫉妬して自分を襲ったと狂言してクラスの皆にカコをいじめさせます。先輩とカコがつきあっているふりを始めてその嫌疑が晴れ、周囲がカコへの態度を変えると、泰星の生きがいである部活を無理矢理やめさせ、泰星に部活をさせたかったら先輩を捨てろとカコに迫ったりします。いつの間にか本当に先輩を愛するようになっていたカコは苦悩します。

最後には自殺することでカコの気をひこうとするウイカでしたが、先輩に助けられます。カコはウイカと決別します。ウイカが嘘をついていたことを知った泰星はそれでもウイカに寄り添います。

先輩とカコは愛を深めます。

あらすじは大胆にまとめてしまいましたが、ウイカの本心や先輩のバックグラウンドなどはストーリー上、徐々に明かされていくサスペンスタッチの物語です。普段あんまり読まない少女漫画の高校生の恋愛ものを読んだ理由は、サスペンス要素があるからでした。

先輩は「奪っちゃおうよ」というショッキングなセリフと一緒に物語のなかに入ってきますが、完全にミステリアスな人物ではなく、カコと以前に会話を交わしている人物らしいこと、その会話は敵対的なものではなく好意的なものだったと推測できる形で先輩は話をするので、先輩に対して「この人怖い」というようなネガティブな印象を持つことはありませんでした。

一方で、カコはこの先輩のことばをキッパリと断ります。カコが、自分は自分をちゃんと律するタイプの少女で、イジメをうけてもいたずらに心折れることなく、その後「誤解から悪い態度をとってごめん」と言ってくれる級友のいいところをしっかり見て、ちゃんと友達として好きになれるいい子なので、とっても好感がもてるのです。

泰星が、ガーベラの花言葉と、いつもカコが花の世話をしている様子から、自分の手を握ってくれていたのはカコだった、そのことを理由に付き合うのだったら、ウイカではなく、カコと付き合うべきだった、と気づき、悩みます。泰星がついそのことをカコに言ってしまうと、カコはだからっていまから私とつきあうなんてあり得ないよね、という態度を取ります。その態度は嫌味ではないし、カコちゃんがとてもしっかりした子で、幼馴染3人の中で恋心をスワップしても幸せにはなれないことをよく理解していて、凛々しいものでした。

この物語は、父が殺人者で母が被害者という十字架を背負ったどこまでも優しくてカコの幸せだけを願っている純粋な先輩と、失恋と親友からの歪んだ愛情を向けられて追い詰められていくカコが、お互いの優しさを持ち寄る、ハッピーなお話だったと思います。先輩の包み込むような優しさと、カコの凛々しさに感動する作品で、一気に読んでしまいました。

ウイカのカコへの執着の異常さもよく描かれていて胸をえぐられました。その愛は、カコの幸せを願うものではなく、ただカコを独占して愛し合いたいだけでもなく、カコが辛い思いをして、たとえ不幸になろうとも、自分の気持ちをを犠牲にしてウイカに尽くすのを見たい、という、歪みきったものでした。最後には、自分が最悪死ねばカコは一生罪悪感からウイカを忘れられず、幸せになることはない、もし自分が大怪我ですめばたとえば半身不随になる自分に、罪悪感からカコは尽くさざるを得なくなるだろう、どちらにころんでもカコを苦しめつつカコの気持ちを自分に縛りられるという考えです。

これほどの気持ちが、カコからの決別の言葉と泰星からの愛でかわるものなのか、私にははなはだ疑問ですが、お話の収束としてはよかったと思います。

数十年前は切ないラブストーリーも好きだった私なので、数十年前そういう作品からは離れ気味だったとはいえ、少女の恋愛を久しぶりに読んで、先輩にだんだん惹かれていくカコの気持ちや、先輩がカコを天使だと想う気持ちは、とても気持ちよく読めました。

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