絶滅石

『絶滅石』は倉薗紀彦さんの作品です。米国の高校生ミロは、それほど親しくない同級生ケントから夏休みにキャンプに行かないかと誘われます。

ミロは戸惑いますが、好意を持ってくれているらしいケントのフランクな態度にドキドキしながら誘いを受けます。

ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。

当日集まったのは8人。クルマの中で、ロビンという少年がミロにこれから行くところは「昔、大量殺人事件があったところだよね」と言うのでミロは不安になりますが、ケントは明るく、いいところだから気にすることはない、と言います。メンバーの中では地味なミロに、ドリルという少女が話しかけてきて、他の子たちの軽いノリがちょっと気に入らない、と意気投合します。

到着した8人を待っていたのはメイスという少年。別荘の持ち主です。なんとなく深刻な表情をしています。ミロとドリルが散歩して湖のひとりにいると、不気味な老婆に話しかけられます。曰く「命が惜しくば去れ。試されるぞ、絶滅石に」と。ミロたちは不審におもいますがそのまま部屋に戻ります。

飲みながら楽しく談笑していた9人でしたが、ミロは変なクスリを飲まされ意識を失ってロビンにレイプされそうになります。かろうじて逃れると、他の部屋で、それどころではない事態が起きています。仲間の一人が惨殺されているのです。

メイスは、こうなることは分かっていたといいます。父親の日記を読んだところ、世の中では数十人が死んだと言われている以前の大量殺人事件の真相は、324人の死であり、夜が明けなくなったときから人々は化け物に襲われ、父がたった一人行き残ったのだと言います。メイスはその状況に対応すべく大量の武器を用意していたのです。

そこに俳優のジェームスが迷い込んできて、自分のマネージャーが殺された、助けて欲しいと訴えてきます。仲間たちはジェームスを連れて別荘を出ようとしますが、仲間2人が殺され、メイスは化け物に手を切断されます。7人は武器で化け物を退けます。クルマは使い物にならず、傷を負ったメイスを連れてミロたちは町を目指します。

途中で襲ってきた化け物は、ジェームスのマネージャーが化け物になったものだということが、入れ墨からわかります。混乱する7人の前に、顔に入れ墨を施したネイティブアメリカンの男が現れ、ミロたちに着いてくるように言います。着いていくと、トビ族の集団がいます。あの不気味な老婆もおり、夜が明けない日々はこの地に定期的に訪れるといいます。人々は化け物になり、助かるためには、案内されたこの場所に留まるのが唯一の方法です。

しかし、ドリルは、深手を負っているメイスのために、町に抗生物質を取りに行くといいます。ミロとケントが同行し、老婆は一族最強の戦士、エドを一緒に送り出してくれます。

町に着くとエドは首尾よく化け物を仕留めますが、別の化け物にドリルが連れ去られてしまいます。3人は、襲われたところを助けてくれた町の女性と行動を共にしますが、ケントが化け物になってしまってその女性を襲います。ミロはケントであった化け物から女性を救います。逃げた先で襲われそうになった二人を、後を追ってきたロビンが助けます。

エドはケントを見失いますが、クスリ屋を見つけ、ミロたちは抗生物質を手に入れます。ロビンが老婆から聞いてきたところによると、化け物たちは絶滅石のそばに集まりバトルロワイヤルをするといいます。それに見つかる前にドリルを助けようと一人出向いたエドでしたが、次にミロたちの前に姿を現したときにエドは殺されています。町の女性も殺され、ロビンは腕を付け根から失います。ロビンはミロに行けと叫びます。ドリルの遺体を見つけたミロですが、複数の化け物に襲われます。それを守ってくれたのは、化け物と化したロビンでした。

ミロはクスリを持って老婆のところに戻ります。「みんな死にました」と語るミロの体にも異変が現れます。それを見たトビ族たちは「我らは必ず生きる」と言い、ミロの体に武器を振り下ろします。

7年後。深海を調査していたメイスは、海の底に巨大な絶滅石を見つけます。そう。人類すべてが試されるときがきたのです。

なんとなしに読んでみた作品ですが、アメリカのB級ホラーの映画かドラマをみているような気持ちになりました。ここでB級というのはランクが低いという意味ではなく、ジャンルの意味です。海外ドラマでよく見る、決まったクラスルームがなく、それぞれに割り当てられたロッカーがあるアメリカの高校。その前で休み時間に会話する生徒たち。高校生でクルマの運転ができて、高校生だけでサマーキャンプに行かせてもらえる環境。だれかの別荘で、ドラッグをやったり当たりピザを食べながら当たり前のようにお酒を飲む高校生たち。ミロとドリルはマリファナを吸ってるらしい男子たちに眉をひそめますが。

ロビンとハーマンがミロをレイプしようとしたので、全員がそういう悪いヤツらなのかと思いましたが、ケントはそうではなく、純粋にミロに好意があってこのキャンプに誘ったし、ロビンたちの邪なたくらみには関与していなかったのでほっとしました。

ストーリー展開は早く、キャンプに誘われるところから、集まって、くつろいで、ミロとドリルが意気投合して、不気味な老婆が不気味な警告をして、みんながくつろいで、レイプされそうになって、なのにそんな重大な事件がウヤムヤになるような猟奇殺人事件が起きて、という流れが、とてもスムーズで息をつかせない感じで進んで行くので、そのスピードで、アメリカ映画を見ているような、アメコミをみているような錯覚に陥りました。アメコミっぽい絵柄やオノマトペが使われているわけじゃないのに、日本人の漫画を読んでいるのではなく、アメリカで作られた作品の翻訳ものをみているような感覚になりました。そんなふうに感じたのは初めてだったので、とても新鮮でした。

ここから化け物(というか、クリーチャー、という感じです)が出現して、話がどんどん進んでいくのですが、ジェームスが突然でてきて、マネージャーのチャックがクリーチャーになったということがわかる(=クリーチャーはもともとは人間だとわかる)くだりもスムーズでした。というか、ジェームスのこのお話のなかでの役割というか存在理由は、その説明をするってところだけなんですが、サッサと殺されるリットとか、ジェームスとか、そんな風にキャラクターのストーリー上の役割がはっきりしているところも、アメリカB級映画っぽくて面白かったです。

不気味な老婆は、トビ族の指導者的役割のようでしたが、トビ族の登場から「ここでじっとしてクリーチャーたちをやり過ごすことだけが生き延びる方法」という説明と、「そういうわけにはいかないの。だって仲間を助けるためにどうしても町に行かなきゃいけないのよ」という流れも、説得力があってよかったです。ここで仲間を助けるという熱い思いを持てるのは、ドリルが真面目ないい子だからです。会って間もないメイスだけど、やっぱり仲間なんだから助けなきゃ、と言い出すのがミロだったりすると、ミロばっかりいい子になっちゃって読んでる方も微妙なテンションになりそうなところですが、ドリルが言い出してくれるところ、ケントとミロが賛同するところ、とってもスムーズです。映画やドラマで、主人公がわざわざ危険な目に会いに行く動きをしないと、お話がすすまないことがありますが、この作品では、そこが必然であって、主人公たちが愚かだからではないことがわかりやすく、無理なく表現されていて、読んでいて爽快でした。

町に着いてクリーチャーに襲われた後のドリルとミロが、小さくてかわいいクリーチャーに油断して結局ドリルが襲われちゃうところとか、ミロに好意を持っていていいヤツのはずのケントが町の女性の色香に負けてクリーチャーになっちゃうところとか、トビ族一の戦士であるエドが「あ、帰ってきた」と思ったら実はもう体を無残に割かれたところだったとか、予想通りの展開であるにも関わらず、私はいちいち「!!」と反応してしまいました。やっぱりテンポがよいのだと思います。

最初、レイプをしようとしてきたロビンが、結局助けに来てくれたとか、クリーチャーになっちゃったくせにミロを助けてくれるとかも、とってもしっくりくる展開でした。一瞬、ミロに惚れていたケントが助けに来てくれたのかと思っちゃったけど。でも、それがロビンだったことで、お話の印象は全然変わってきます。お酒にクスリを入れて女のコをレイプしようとする卑怯なダメ人間ロビンが、クリーチャーになったのに人間の女のコを守るというのはなかなかよかったです。

そして、なんとか生きてトビ族の元に戻ったミロの体が変質して、トビ族が「我らは必ず生きる」と強く言い、生き残るための行動をとるのも好みでした。

ラストもB級映画らしいラスト。これ、全人類が試練にあってバトルロワイヤルして、生き残るのはトビ族みたいに生き残るための知恵をもっていて生き残るためならなんでもするひとたちと、あとは最後の一人になった人だけなんでしょうね。その最後の一人になるための途方もないプロセスを考えるとドキドキします。

そんなわけで、「稀に見る良作」とかいう種類ではないけれど、王道のB級アメリカンホラーなこの作品。私にとってとっても満足度高い作品でした。

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