キネマキア

『キネマキア』はオオヒラ航多さんの作品です。キング・オブ・フィルムを目指す黒澤竜胆の手元に送られてきたのはオノオトコのマスターディスク。この映画はホラー映画の御大ロバート・スカイが予告した3分しか公開されていません。

そのディスクから現れたオノオトコは、自分のことを忌涅魔(キネマ)と呼びます。

ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。

オノオトコの力と記憶は封印されていて、同じスカイが撮った映画から現れた忌涅魔を倒してその魂を食べれば解除されていきます。

忌涅魔はフィルムに映らないので、オノオトコをフィルムに収めるにはオノオトコの記憶を取り戻すしかありません。竜胆は喜々としてオノオトコと合体する憑変(クランクイン)を繰り返して忌涅魔と戦います。

その中で竜胆は、自分の映画の絶対的ヒロイン、スタント、カメラマンを見つけていきます。しかし、この状況を作ったのは、死んだと思われていたスカイ本人。スカイはオノオトコを竜胆に送りつけたときからずっとキネマギアカメラで竜胆とオノオトコを撮っていたのでした。

竜胆はかつてスカイの元で映画を学ぼうとしたことがあります。ですが、スカイは竜胆を単なる映画ヲタクと評して破門していました。竜胆はそんなスカイに「オノオトコを撮るならアンタより僕のほうがいいものが撮れる。あんたは単なる天才で自分のことを愛してるにすぎないが、僕は映画を愛してるからだ」と叫んでスカイを圧倒します。

「好き」は「才能」に勝る。竜胆はオノオトコの映画を撮ります。

まず忌涅魔の設定がおもしろいです。忌涅魔はホラー映画の化け物たちがマスターディスクのそばにあるときだけ具現化します。オノオトコのマスターは竜胆が持っていますが、忌涅魔によっては、持っている風船の中にあったり、身体の中に隠し持っていたり、いろいろです。忌涅魔自体も魅力的で惹きつけられますが、この物語の魅力はなんといっても主役の竜胆です。

竜胆は、ホラー映画のことなら何でもござれ。映画のそれぞれに映画協会が付与する登録番号すら覚えている変態です。ホラー映画の殺人鬼たちが登場すると、たとえそれが言葉の通じない恐竜だったとしてもどの映画のどのシーンだったのかを思い出して小躍りして歓びます。身体のどこかを攻撃されて瀕死の傷を負ってもまるで気にしません。重要な鍵を自分の手首に埋め込まれたら、躊躇することなく手首をかき切って鍵を取り出します。

竜胆は大学の同級生、北野を自分の映画のヒロインに選び、選んだヒロインはどんなことがあっても守り抜きます。北野は次第にそんな竜胆に惚れていき、竜胆も「僕は北野のすべてを撮る。だから北野より先に死ぬことはない」などと、とりようによってはこの上なくクサイ殺し文句を言ったりするのですが、全然恋愛感を感じさせない、ただただひたすら映画を愛しているのです。

スカイ監督に対しても、その姿勢は変わりません。竜胆はスカイの映画を好きだしその才能に惚れてもいますが、そのこととスカイに対する気持ちはまったく別で、スカイ自身には全然執着していのです。スカイの撮った映画からでてきた忌涅魔を倒せばオノオトコの封印が解けて忌涅魔の撮り方がわかる、そのためにマスターディスクを破壊する必要があると知れば、平気でマスターを叩き壊します。大好きなスカイの映画を大切にすることより、自分がオノオトコの映画を撮るほうが重要だからです。スカイが死んだと聞いたときはショックでしたが、死んだと思っていたスカイが現れたり、自分を殺そうとしてきても意に介しません。ただただ(素晴らしい)ホラー映画を撮ること、それだけが竜胆のスコープに入っているのです。サイコパスともいえる竜胆のその姿が痛快で、読んでいてとっても楽しい漫画です。

脇を固めるキャラクターたちも魅力です。忌涅魔たちも魅力なのですが、三池刑事やその夫であるパパ人形(ブレンダ)がかっこよくて夢中になりました。パパ人形は、パパが生前娘に買ってやったドール型のリュックなのですが、忌涅魔との戦いの中で覚醒させられます。忌涅魔の味方になって三池刑事の娘を襲うかと思いきや、パパの意識が宿って娘を守るときの表情のかっこいいこと。オオヒラさんの描く人間はちょっと硬めな表情が魅力だと感じるのですが、忌涅魔たちやパパ人形を始めとする人形たちの表情はすごく生き生きとしています。ジャック人形なんて、本当にキャラ人形としているのではないかと思ってしまいました。

私はホラー映画に詳しくないので知っていればさらに面白いのかもしれません。でももし私がホラー映画マニアだったら「竜胆くん(正しくはオオヒラさん)、この映画を扱うんだったらポイントはそこじゃなくてここだろう」とか思ってしまったかもしれません。そのくらい、この漫画は竜胆の「映画がすき」「ぜったいおもしろい映画を撮るぞ」というパッションに牽引されている作品でした。竜胆はヲタクだけど、ちゃんと観客にどう届けるか、という視点がありそうなところも魅力です。ヲタクだからといってマニアックにはしりすぎないで、ちゃんと定番の力を理解しているのです。

オノオトコのビジュアルも、憑変したときの竜胆+オノオトコのビジュアルもよかったです。あらすじにも感想にもまったく書いてないけど、見どころはいっぱいあって、すごく楽しんで読める作品です。

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