『赤異本と黒異本』

『赤異本と黒異本』は、原作 外薗昌也さん、漫画 鯛夢さん✕呪みちるさんの作品です。ここでは鯛夢さんが漫画を描かれた『僕の家』についての感想を書きます。漫画家である「僕」は、売れなかった頃に遭遇した出来事について記します。

当時僕は一人暮らしをして漫画制作に勤しんでいましたが、実家に帰ってみると家族は引っ越しをしています。

ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。

地図に従って行くとそこはとんでもない豪邸でした。2階建てなのですが、何故か2階への階段は狭く、シャッターがおりるようになっています。

父母は何故か僕や妹を2階に行かせようとします。兄妹は異様な物音を聞きます。父に相談すると何故かかたくなな態度で二人を怒鳴りつけ、母は怒られて泣く二人をせせら笑います。妹は嫌がって進学を機会に家を出ていきます。

僕は精神的に追い詰められ、2階に閉じこもって漫画を描きます。ある夜ふと上を見るとドーナツのような影が見え、ヒトがこちらを見下ろしているのが見えます。と思うと上から何か落ちてきます。

この家は高利貸しの老婆が建て、直後に入院して家に帰りたいと言いながら亡くなったとの噂がたっています。僕は老婆と髪の長い中年女性を見ていました。実は父母もこの世のものではない声を聞いていたのでした。が、父は意地になって、絶対にこの家を手放さない、とつぶやきます。

ある日僕は 2階に井戸のようなものをみつけます。下を覗き込んでも底がみえません。試しにゼリーの入った袋を落としてみたところで、あのドーナツから除いていた人影は自分だったのだと気づきます。

そのうち父は家を手放します。大人になって結婚した僕は仕事も順調です。あの家を嫌がって家族と距離を置いていた妹も、いまではくったくなく夫と一緒に父母の家に遊びに来ています。

実家を車で訪れようとした僕はどこをどう走ったか、気づくとあの家の前にいます。妻は寝ているのかぴくりともしません。その晩実家に泊まった僕は妻の声で目覚めたと思いますが妻はよく眠っています。ふと上を見ると憤怒の表情の老婆がそこにいます。しばらくすると老婆は消えますが、妻が目を見開き「カクナ」と言います。その声は妻のものではなく、老婆の声でした。

自宅に戻った僕はデジカメの写真を見ながら、この話を描くべきか諦めるべきかを考え、心を決めてニヤリと笑います。

怖がりと言いながらも、外薗さんの怖い作品は、ついつい読んでしまいます。『鬼畜島』のようなスプラッタものはあまり得意ではありませんが、『○異本』のシリーズは読んでいて、一部Renta!では取り扱いがなくなったものは読みたかった!と、タイムリーに出会えなかったことを悔いています。

そして、大好きな鯛夢さんの作品ということで、この本は大喜びで読みました。ちなみに、同じ本に収められている呪みちるさんの作品も好きです。

『僕の家』は、漫画家さんのお話で、しかもラストで「老婆」から「カクナ」と言われているのに描いているあたりが実話っぽい雰囲気も残していて、ゾクゾクします。結構長いお話なのに、ほぼほぼ僕しか出ていないことに、改めてよみかえすとビックリします。両親と妹と、老婆と髪の長い女性の霊しか出てこないのです。(最後にちょっと妻もでてきますが)

将来に不安を持ちながら、ただひたすらに漫画を描き、両親以外の人と会わずに引きこもり、その両親も息子に最良の場所を与えているというスタンスで、2階の階段のシャッターを下ろして、僕を2階に幽閉するのがなんともいえず怖いです。

妹が両親の態度に対して「あの人たち私たちを2階にいさせようとする」と言っていやがり、家を出てしまった上、久しぶりに兄の様子を見に来て「私の分も怖い目にあってね」と言うのがこれまた怖い。

息詰まる中で、僕が状況に従順なのが異様で、それがまた怖い。老婆や髪の長い女性の姿を見ながらも、それを怖がる素振りがないのもさらに怖い。

幽霊と思われる存在は何だったのか、何故自分が自分を井戸の上から覗いているのが見えたのか、母が呆然と井戸に飛び込みそうになったのは何だったのか。それもこれもまったくわかりません。

その家のことは結局なにもわからないまま、そして父があれほどこだわっていた家を何故手放すに至ったのかもわからないまま、ただ実家を訪ねようと思った時に導かれるかのようにあの家に行ってしまうこと、その晩に憤怒の形相の老婆が現れるのも、この怪談の正体のわからない恐怖を演出しています。

淡々としているのに、僕の精神も家族の心も壊れているのが、霊の影響で追い詰められているのか、人間が追い詰められていることで霊につけこまれているのか、息詰まる空気が描かれていて夢中で読みました。

カクナと言われているのに、迷ったのに、ニヤリと笑う僕の姿に迫力があります。

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