GUILTY

『GUILTY』は小林拓己さんの作品です。双子の高校生姉妹、里夜と里麻。小さい子供が見惚れるほど美しくそっくりな2人ですが、性格はまったく違います。しっかり者で頭のいい姉の里夜。くったくなくて自由でちょっと馬鹿な里麻。

しかし2人にはそれ以上にはっきりした違いがあります。里夜の顔と身体の右側には醜いケロイドの火傷痕があるのです。

ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。

この火傷痕は里麻に責任があります。少女の頃に揚げ物をしている母の前でふざけた里麻がひっくり返した油が里夜の上に降り注いだのが原因です。

髪や長袖やタイツで火傷痕を隠す里夜は暗い性格になり、いつも一人でいます。里麻は対照的にいつも友人に囲まれています。里麻には彼氏がきれることはなく、ひっきりなしに家に連れ込み、里夜は援交で火傷痕を気にしないレベルの低い男に身体を許しています。

里夜は里麻に、火傷痕のことで深く傷ついているとアピールして悔恨の情に訴え、里夜のためだったら何でもする、という言質を取りつけます。

里夜は自分の火傷痕をクラスメイトにさらして恥をかかせたチエに復讐します。里麻に、チエのお弁当の中に爆竹を仕掛けさせて爆発させ、チエの右頬に取り返しのつかない傷を追わせます。里麻の行動をみていた沙也子が里麻を脅迫し、里麻を集団レイプさせて金を得ようと企むと、里夜はうまくたちまわって、沙也子をレイプの被害者にします。

里夜と里麻をあやしいとにらんだ刑事のことは、近所に住む草太を利用して片付けます。次に、里夜は里麻と草太を使ってもっと大きい騒ぎを起こそうとしますが、草太に裏切られます。草太は里夜を滅多刺しにし、里麻の右頬にも醜い傷を作ります。そこに、実は草太の手引で生きていた刑事が駆けつけます。

里夜を失った里麻ですが、以前の無垢な里麻とは変わっています。右頬に残った醜い傷を見て「里夜がだーいすき!」という自分の言葉を思い出す里麻は微笑みます。そして、刑事の幼い娘を公園に誘い出します。

小林拓己さんは知らない作家さんでしたが、美しい表紙に惹かれて読んでみました。期待に違えず、双子は美しく、特に里夜の迫力はナイスでした。

美しい双子の美醜に関わる歪んだ想いのお話というと、まつざきあけみさんっぽい感じがします。くったくのない里麻は、子供の頃にこっそり入れ替わったときも、火傷の時も、意図せずに里夜に害をもたらしています。最初は、実は里麻がくったくのないふりをしながらも本当は性悪で、自分と同じように美しい里夜の顔と身体を醜いものにし、美しくて皆の中心にいる自分の姿をわざと里夜に見せつけているのかもしれない、と思ってしまいました。が、実際には里麻は馬鹿なだけで、醜くなってすさんでいる里夜の気持ちを思いやるだけの心の複雑さもなく、ただ能天気に男を部屋に連れ込んで、双子の姉に自分の喘ぎ声を聞かせる足りない子でした。

里麻は馬鹿で弱くはあっても、道徳心がないわけではないので、チエの口を爆発させたときも、ちょっとかんがえればそうなるとわかっているのに、実際に大怪我しているのを見てショックをうけたりします。彼氏もとっかえひっかえして簡単に身体の関係を持つ尻軽女です。しかも付き合う男は、高校生にもなって里夜の顔の火傷痕を見て、面と向かって「化け物」と言ってのけるような、見かけだけのくだらない男です。なので、里夜に追い詰められていく里麻を見ても、全然かわいそうと思えないのでした。

チエや沙也子の悪意にはゾクゾクします。チエのはイジワルのレベルで、沙也子は犯罪レベルなので桁違いなのですが、それでも、チエが里夜の火傷痕をクラスメイトの目に顕にしたときの悪意と満足そうな表情にゾッとします。チエは、SNSでも里麻を担ぎ出さないと再生数が上がらないうっぷんをここで晴らそうとしていたのかもしれません。こういう、教室で起きるちょっとした悪意は、若い人の心を根底から傷つけるもので、大人になってからだったら耐えられても、少女のときには本当に深刻なダメージをもたらすものだと思います。なので、チエの右頬が吹き飛んでも正直、「ざまあみろ」と思ってしまいました。ショックをうける里麻を見て「分かってたくせに。ずるい子」と思ってしまう自分の心の闇を感じてしまいました。

私はレイプを話に取り込むのが好きではないので、沙也子への復讐には引きました。沙也子を罠にかけてなければ里麻か里夜が襲われる話ではあるのですが、やっぱりレイプ、それも集団でという話には魂をすり減らされる気がします。血だらけの沙也子をみると、どんなに女が陰で操ってるとはいえ、こんなことを平気でできてしまう男性に対する憎しみが湧き上がってしまうのは、女性としてどうしようもありません。ストーリーに対してではなく、レイプに対する嫌悪感がでてきて、お話に集中できなくなるので好きじゃないのですよね…

そんな中でも離脱することなく最後まで読めたのは、双子の美しさに捉えられていたからです。刑事も翻弄する里夜。草太が裏切らなければ刑事も死んでいました。人目を集めることで犯人が露見するのを防ぐためもっと大きい事件を起こせばいい、というのはにわかに賛成しづらいところですが、里夜の迫力と里麻と草太の動揺、里夜による脅迫、そして草太の暴発まで、お話が一気に進んで、息をつく間もありません。

ラストに自分の右頬の傷をみて暗い笑みを浮かべる里麻には、いままでのおバカな里麻の片鱗もありません。もしや、いままでのことは、里夜を上手く使って里夜を自滅させて自分だけになろうとした里麻の策略か?とも胸をかすめますが、そうではなく、里麻は、傷を追うことで、大好きな里夜を自分の中にとりこんだのです。里夜と一心同体となった里麻は、やっぱりいままでの里麻ではありません。刑事の娘を公園に連れ出す里麻がこれから何を引き起こすのか。最後までドキドキから逃れられませんでした。

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