『スパあんこうの胃袋』はあきばさやかさんの作品です。27歳の会社員さくらはお人好しです。今日の残業時間中も後輩に頼られてかかり切りで面倒をみますが、それが終わると後輩はあっさり「お先しま〜す」と帰っていきます。
それからやっと自分の仕事にとりかかり、好きなパン屋の閉店5分前にギリギリ間に合うさくら。
ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。
ところが、ちょうどそのときさくらは、高そうなコートのベルトをズルズルと引きずっている女性を見かけてしまいます。追いかけて注意してたらパン屋の閉店に間に合わない、でも見過ごすことはできない、と彼女を追いかけます。
話しかけると、その人はあんこうの提灯部分についた疑似餌。さくらは巨大なあんこうに丸呑みされてしまいます。
「余計なお世話」を働いたおかげで死んでしまった、と思ったさくらですが、目が覚めるとそこは「スパあんこうの胃袋」。読みたい本が必ず読める本棚、食べたいものが必ず食べれる食堂、ゆっくりくつろげる温泉、過去の限定ドリンクをなんでも飲めるコーナー、本物のパールをあしらってくれるネイルサロン、思い出したいことをなんでも思い出させてくれる相談屋、忘れたいことをなんでも忘れさせてくれる相談屋、くつろいでリフレッシュするためのものだったらなんでも揃っています。周囲の人に聞いてみると、みんな人に親切にしたのがきっかけでここに来ているようです。
ふとさくらが目を覚ますと、朝です。パンもしっかり買ってあります。昨晩のことはよく思い出せませんが、なにかいい夢をみたような気がします。カーテンを開けるさくらの指先はしっかり、キレイにパールつきでマニュキアがほどこされています。
この漫画は、Twitterで高野雀さんが好き、とつぶやいていた方が「好き」と言っていたのがきっかけで読みました。Renta!の中でも高い評価がついていましたが、値段がとても高いのでTwitterでみていなかったらだったら読まなかったかもしれません。
読んだらすごく癒やされました!なんででしょうね。さくらの他には、子育て中のママ、人気もあるけど理不尽に叩かれることもあるメイク系Youtuber、他人と自分を比べて「何者」かにならなきゃと頑張りすぎてしまう女性、男らしい男性に擬態しているけれど本当はお料理が大好きな男性が、ささくれだった気持ちをスパあんこうの胃袋で癒やされます。ワンオペにくるしむ子育てママの夫にはお魚たちが寝ている耳元で「妻の大変さをわかれ」とささやいてくれます。人を思いやることのない男性が紛れ込んだときは、お客様ではなくスタッフとして働かされます。でも他の人たちを見る中で「自分も人に優しくなりたい」と感じると、お魚たちは彼がそう思った気持ちを、ここを出ても忘れないでいられるように助けてくれます。「人の役に立つヒーローでありたい」と気負っていたドクターは、ストレスで潰瘍ができたあんこうの胃袋を治療して感謝され、「ヒーローになりたい」気持ちを満たされました。満たされていく登場人物たちをみていると、読者もしっかり癒やされるのがステキです。
ラストでは、さくらが自分にそっくりな人がハンカチを落とすのを見て声をかけ、また胃袋の中に入ります。さくらの姿が疑似餌に使われていたのです。あんこうたちがこの街にきてから、善意のメーターは右肩上がりです。街の水族館は何のキャンペーンもうっていないのに盛況です。そうなるとあんこうたちは別の街へと旅立つ頃合い。さくらたちを癒やすことで読者を癒やしてくれたこの作品もおしまいですが、目に触れないところでいまもどこかで誰かを癒やしているのだと思うと、それだけでほっこりです。