弊社、死ね!(分冊版 1〜10巻)

『弊社、死ね!』は眠ヰセン子さんの作品です。2話で完結し、そのお話でのサブキャラが次のお話のメインキャラになるシステムで、あとを引いてどんどん読んでしまう作品です。

最初のお話の主人公は井上政美。ブラック企業から念願のホワイト企業に転職してきます。

ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。

井上の頑張りは評価され、仕事は早いと褒められ、Excelのフォーマットを変更すれば使いやすいと褒められます。

しかし、斎藤恭子が産休から復帰してくると事態は一変します。井上は学生時代、斎藤にいじめられていました。それとなく謝罪はされますが、苦手意識は消えません。定時に帰ろうとすると「こんなに早く帰るつもり」と叱られます。他のスタッフが手伝おうかと申し出てくれますが、斎藤に「甘えるつもり」と言われるのが怖くて頼れません。ついには、よかれと思ってフォーマットを改善した資料を元のフォーマットでやり直せと命じられます。ホワイト企業があっという間にブラック企業化し、井上は疲弊します。愚痴を聞いてもらっていた友人のこともささいなことで怒らせて見捨てられます。井上は次第に会社にいくのが怖くなり、軽度のうつと診断されて会社を辞めます。

井上が辞めると伝えられたとたん喜ぶ同僚たちと上司。実は井上は仕事は早いもののミスだらけ。仕事を途中で止めてしまうので必ずチェックしなければならず、かと言って手伝わせてくれないので表立った協力体制をとれず、さらには客先と連携している文書のフォーマットを勝手に変えてしまい、斎藤がいくら怒ってもかたくなに直そうとしない、注意すると泣く、ということでみんな迷惑していたのでした。「ああいう人がブラック企業をつくるのね」とみんなため息をつきます。

『弊社、死ね!』もバズワードになってたっけ?と思いましたが、そういうわけではないみたい。でもキャッチーなタイトルで、ブラック企業死ね的なお話かと思ってたら実は主人公が困ったちゃんだった、という展開が、スピード感もあっておもしろかったです。それ以降も、いろんなタイプのダメ社員たちが現れるのがおもしろくて、先にも書きましたが、どんどん続きを読みたくなる軽快な作品です。

井上のエピソードでは、周囲も「誰かさんのせいで残業が増えた」と井上の周りでこぼしてたりするので、「そんな遠回しに言ってないで業務としてはっきり引導渡せよ」と思うのですが、「上司も周囲も注意しないので私が仕方なく悪役買ってでます」と言いたげな斎藤も、実は「子育てと仕事のストレスのサンドバッグ」として井上に当たっていたので、お話としてもよくできていると思いました。

井上の愚痴をきかされ、正社員であることでマウントをとられていた派遣社員の加藤は、女を武器に営業で好成績を上げています。ぶっちゃけ、取引先の重役と寝ることで契約をとり、派遣先の上司と寝ることで社内のポジションを保っています。目障りな事務方社員を陥れて辞めさせたと思ったら自分に事務の仕事がきて営業ができなくなり、「この会社では『誰でもできる』事務は女の仕事だから」と言われるところでは私もちょっと厶っとしてしまいます。営業事務も重要な仕事だし誰でもできるなんてことないのに。しかも加藤たち事務方が、客先への提案資料作ってるみたいなんですが。どうなってるんだ、この会社。

加藤は営業事務として入ってきた吉沢にそのポジションを奪われそうになりますが、吉沢が退社して「仕事のできない事務のお局」化します。どんな方法にしろ、一時は営業でトップをとっていた社員なのに哀しい。派遣社員だし、次の更新はなさそう。

退職した吉沢は、清楚系の美貌と一流大学の肩書でたやすく面接から合格を勝ち取っていましたが、25を超えてそんな順風満帆にもかげりがでます。姉の恭子の夫にデザイン事務所を紹介してもらうのですが、営業を3年勤めて客先との仕事の流れを理解してからデザインを、という社の方針に納得できず3日で辞めたのをきっかけに、就職できなくなった吉沢はフリーランスのデザイナーとして働き、営業事務時代に培った営業メールで仕事をゲットします。しかし納期も指定も守らず契約を破棄されます。怒った吉沢はSNSで先方を実名で誹謗中傷し、訴えられるのでした。

姉の恭子は井上をいじめていた斎藤。斎藤は夫のモラハラをうけ、ワンオペで育児をしています。結果、昇進が見送られることに。イライラがつのってパワハラ気味の言動をしていたところ、サバサバ系女子の高橋に、学生時代にいじめをしていたことをバラされ、職場にも居場所がなくなり勢いで退職します。時を同じくして、今まで恭子を見下してきたモラハラ夫が土下座してきます。会社をクビになった、でも見捨てないでくれ。恭子は立場が入れ替わったことにニヤリとします。

高橋はサバサバ系を自称していますが、サバサバというよりはガサツ系。みんなが円滑に仕事を回すために飲み込んで、陰で愚痴ったひとことを聞きつけて、相手にそのまま報告し、「私ってサバサバしてるから陰口は苦手」と言っています。江口心さんととらふぐさんの『ワタシってサバサバしてるから』とは違って、自称サバサバと言いながらも実はネチネチしている主人公、というのではなく、ただただ表面しかみないガサツな性格なだけです。そんなガサツ系高橋が会社のSNS担当になったからさあ大変。炎上を知名度向上と履き違えた高橋によって、会社の評判は地に落ちます。そんな高橋をさりげなく煽って楽しんでいた桜井が次の主人公になる予感…

という感じで、どのキャラも違ったやらかしをしてくれるし、顔もそれぞれの特徴があってバラエティに富んでいる上、会社で発生する問題が、ちゃんと社会人あるあるになっていておもしろいのです。井上の、自分は悪意なく周囲を巻きこんでホワイト企業をブラックにしちゃうところも、吉沢が勝手な思い込みで自分の価値観の方がクライアントのリクエストより有意義と思い込むところも、なんだかんだ言いながらも加藤は仕事より性別で評価されるところも、斎藤が夫婦感でも職場でもマウントすることが生甲斐なところも、高橋が会社の評判より自己宣伝にこだわってるところも、「いるいる、そういうヤツ」とうなずかせてくれるところが秀逸です。そんな自分も、眠ヰさんにおもしろおかしく描かれるダメ社員のところを持ってるかもしれない、という恐怖も含めてサイコーです。連載はまだまだ続いています。

カワイイキャラが次から次へとでてくる本作ですが、加藤がモブ顔お局呼ばわりしている木崎さんがツボでした。地味顔有能女性カッコイイ!

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