上級国民スレイヤー

『上級国民スレイヤー』は外本ケンセイさんの作品です。タイトルのとおり、上級国民を殺すお話です。社会的に重要な地位にいる本人またはその家族であるが故に、犯罪を犯しても逮捕や投獄、処刑などの処置を受けることがない悪人を人知れず殺すお話です。

私の中では必殺仕事人系に分類される漫画です。

ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。

少女を集団暴行する若い男、交通事故で人を死なせた有名な司会者、圧倒的な強さを誇った元横綱の有名親方、元財務事務次官、検事長、そんな悪人たちを成敗するのは、冴えない刑事の赤城愁と、儲け度外視でホームレスの診療もする医師の白森雪人です。2人ともその過去に何やらワケアリで、表向きとは違う顔で裏稼業に力を注ぎます。

上級国民の処刑方法を考えてセッティングするのは雪人です。串刺し、車輪刑、ファラリスの雄牛、ユダの揺り籠、エクセター公の娘、といった、歴史的に有名な拷問道具をその都度特注でつくって利用します。拷問の様子はビデオに撮って、上級国民が犯した犯罪の被害者遺族に送ります。

雪人の父は大規模な疑獄に関わっていて、赤城と雪人はその真相解明にも臨みたいようです。それが明らかになったところで第一部が終了します。

上級国民とはインターネットスラングで、2015年と2019年に新語流行語大賞候補に挙げられているそうです。聞いただけでとっさに意味が察せられる用語のような気がします。平等と言われる日本にも階級があることを示していて、特権階級のレベルには庶民は決して到達することはなく、上級国民が自分たちに有利にするために下している判断で政治も経済も動いているのだという無力感を含んでいる印象があります。

私の印象では、最も頻繁に引き合いに出されたのは、池袋の自動車事故の犯人に対してだった気がします。犯人が高齢なのと逃亡の恐れがないことが不逮捕の原因なのかな、と推測はしますが、御本人の経歴的には「上級国民だから」という印象をふりまいていて、それを理由に家族までを叩く上級国民バッシングに発展していました。この作品でもこの事件はモチーフに使われていますが、犯人はまさに上級国民であることから、犯人であることも隠匿されてしまうのでした。

上級国民である犯人が憎々しいほどに、拷問フェーズに入ったときの読者のカタルシスは上がります。無残な殺され方をしても、あまり残虐な描写はされないので、それほどつらい気持ちにはなりませんが、撮影されている動画は覗いてみたくはありません。栗原正尚さんの『怨み屋本舗』シリーズ同様、必殺仕事人系の漫画は何故かいくらでも読めてしまいます。

赤城に比べて雪人のほうが病んでいて、どんな風に拉致してどんな拷問にかけるかを考えるときの雪人は異様です。それが、自分ひとりを残して家族が殺されてしまった過去とその事件の裏にある上級国民たちの卑劣な行為の痕跡によってそうなったのか、はたまた雪人の本来の性質でそうなるのかはわかりません。それでも、雪人がサイコパスであればあるほど、彼の抱える闇も深そうで、読者としても怖気づいてしまうのでした。

ただ、作中検事長が言っているとおり、上級国民のなかでも特に現職の重職者たちが失踪する事件が続くと、国としても威信をかけて捜査にのりだしてきそうなので、白森一家惨殺の復讐を遂げるのは大変かもしれません。

また、雪人は殺害方法を歴史的な拷問に限っていて、都度拷問器具を発注しているようなので、意外と沢山の人が上級国民スレイヤーに助力している感じがあり、雪人たちの身の安全が心配です。この先どうなっていくんでしょうか。

トータス杉村さんの『報復刑』のように、いくらでも続きそうな「犯罪」→「復讐」のサイクルを持ったこの作品ですが、犯罪を犯す主体が上級国民に限られ、仲間に刑事がいるとはいえ、警察の上層部も上級国民ということで潜伏度合いが難しいところです。第二部以降がどうなっているのか調べてはいないのですが、第一部が完結したあとどう進めてくれるか楽しみな作品です。

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