スモウちゃんにさようなら

『スモウちゃんにさようなら』は小骨トモさんの作品です。発育がよいものの運動が苦手な5年生のスモウワカバは、ナワトビ大会が憂鬱のです。クラスメイトたちはワカバが飛ぶと胸が揺れるのをみて嗤うのです。

熱血教師風の小林先生は「胸が大きいのは本人の責任じゃない、嗤うのは差別だぞ!」とみんなを叱ります。

ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。

小林先生はいつもニコニコしていてさわやかで、クラスも問題なく運営されていて、先生方も小林先生を信頼し、憧れています。後輩の女性教師、藤田先生はクラスをまとめるのに苦労しているので、小林先生は藤田先生に「2人で飲みながら語りませんか?」と誘いますが、藤田先生は断り、そんな藤田先生の職員室での評価はますます下がります。

ワカバは思い悩み、大なわとび大会を辞退したいと小林先生に申し出ますが「本心じゃないだろ?」とプレッシャーをかけられて、辞退するのをやめ、練習に励みます。ひとり練習するワカバを見て気持ちが盛り上がり、小林先生は自分の股間を握りながらワカバに声をかけます。

藤田先生は保護者にも怒鳴られて心が折れ、もう辞めよう、と決意して帰ろうとしてまだ校庭にいるワカバを見かけます。会話している間にニキビをつぶすと中から白いものがでてくるという話題になったとき、ワカバは「先生の足からも白いものが」と口走り、藤田先生は青ざめてワカバを問い詰めようとしますが、追い詰めてはいけないと思い直し、ただ自分はワカバの味方だと告げます。

翌日、いつもの小林先生の笑顔を見て安心するワカバですが、藤田先生の態度と「味方」という言葉を思い出して動揺します。味方なら小林先生がいるもん、とワカバが思う中、小林先生はいつもの笑顔で出欠をとり、大声で「スモウ!」「スモウワカバ!」と繰り返します。ワカバは冷や汗をかきます。小林先生は本当に味方?そんなワカバの名前は「須王若葉」なのです。

すごく怖いお話です。読んでいて居心地が悪くてドギマギしてしまいます。スモウちゃんは最初からずっとプレッシャーを感じてドギマギしていて冷や汗を流しているし、小林先生はマークのような貼り付いたニコニコ顔をしているので、辛くて辛くて仕方ないのです。胸が大きい小学生は、そのことを積極的に自慢にしているのでなければ、相当辛いと思います。実際、スモウちゃんの同級生は、スモウちゃんがナワトビを始めると注目し、「エロいこと考えてると胸もおおきくなるんだって」と、心無いことを言います。その中で、男性である小林先生が「スモウはおっぱいが大きい!」と怒鳴るのです。「差別はよくないぞ」という、一見せいろんっぽいことを言いながら。小学生の女の子がどれだけ辛いか。こんな立場にいたら、いったいどうすればいいんだろう、と思います。

藤田先生には、小林先生は例の貼り付いた笑顔を見せながらも、生徒のことを「あいつら何も考えてないですよ」と言ったり、モラハラぶりを見せています。他の先生が小林先生をよく言ってるところを見ると、こういうモラハラ発言は藤田先生にしか見せていないのでしょう。そしてそうする理由は、藤田先生を見下しているからだろうと私は思いました。見下せる相手でないと女性として見れず、小林先生は藤田先生に恋慕を感じながらも、そう感じる理由は藤田先生が教師としての経験が足りず、不登校児童にてこずっていて、他の先生方にいびられても言い返せずにいるからだと思うのです。見下して支配することができそう、というのが、小林先生の性欲を満たす唯一の方法なのです。

須王若葉を「スモウワカバ」と呼び、第二次性徴期にあることをわざわざあげつらい、他の生徒たちにも「スモウ」と呼ばせ、それでも言うことを聞いて一生懸命ナワトビの練習をするスモウちゃんへの性的衝動を、小林先生はもう抑えられなくなってしまいました。スモウちゃんが須王さんだというラストシーンは秀逸だと思います。スモウちゃんが「味方?」と思う小林先生が味方なんかじゃないことは、読者には最初から明らかではあるのですが、ずっと「スモウ!」と呼ばれていたワカバちゃんがスモウなんかじゃないこと、小林先生が率先して変なあだ名を生徒につけたことがわかって、小林先生のモラハラがいかに根深いかが伝わってきます。

それに気づくのが、やはり性のはけ口、モラハラのはけ口として小林先生に狙われている藤田先生だというのがまた、読者にとって絶望的です。

でもタイトルは『スモウちゃんにさようなら』です。ワカバは「スモウ」と決別できるということでしょうか。そのためには藤田先生が力強く道を切り拓いて、人気の先生のモラハラ、セクハラを告発する必要があります。辛く苦しい中、タイトルだけに期待を持てる不思議な作品です。小骨さんの作品をもっと読みたくなりました。

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