ないしょの話

『ないしょの話』は山本ルンルンさんの短編集です。表題のないしょの話を含め6つの短編で構成されています。ここでは『ないしょの話』と『空色のリリィ』の感想を書きます。

ケイトには8歳年上の姉のマユがいます。まだまだ子供のケイトに比べてマユはお年頃。ケイトがあこがれるようなキラキラしたものはみーんなマユのものです。

ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。

その日もマユは、マニキュアを勝手に使ったケイトに「あんたがほしがってたリトル・スージーあげようと思ってたけどやっぱりやめるねえ」と言ってケイトをからかいます。ボーイフレンドが迎えに来てでかけるマユはケイトに「あんたは仲良しのマックスと遊んでなさい」と声をかけます。

マックスはケイトと同じくらいの男の子。ケイトは子供とは遊ばないと言いますが、ミスター・ビーフが遊びたがってると言われて股鏡をします。すると現れるウサギのミスター・ビーフ。ミスター・ビーフは、イジワルなマユのお葬式をすれば優しいマユだけ残るといい、ケイトとマックスはお葬式ごっこをします。

帰ってきたマユはケイトにメロンパンを買ってきてくれてます。優しいマユになったかな?マユに「あんたは今日何してたの?」と聞かれ、ケイトは「ないしょ!」と答えます。

ここまでが『ないしょの話』。他の作品をはさんで最終話が『空色のリリィ』です。

ケイトが5歳のときにゾンビが世界にやってきました。マユとママはゾンビに食べられてしまいました。それから12年。高校生になったケイトは美術のショーン先生と不倫をしています。自慢の妻と娘を失ったパパはまるでゾンビのように望みを失って暮らしていて、ケイトは自分もそうだと思います。

隣の家ではゾンビのマックスが暮らしています。人を食べたことがなくて家族がきちんと管理者できると判断されたゾンビだけが、家族と一緒に暮らせるのです。檻の中にいるマックスに、ケイトはババロアを届けます。マックスがケイトを襲うそぶりをみせるとマックスのママが「食欲を抑えるクスリ」を打ちます。

ある日学校にショーン先生の奥さんが来ます。むしゃくしゃしたケイトはマックスの檻に入って「あたしを食べていいよ」と言います。でもマックスがケイトの手をとって唇を近づけてくるとケイトは怖くなります。マックスがケイトの手のひらにキスしたとき、マックスのママが帰ってきます。ママはマックスと暮らすためにどれだけ苦労してると思っているの、と泣き、ケイトも泣きます。

ケイトは先生にお別れを言います。髪をバッサリ切って少女の頃と同じ髪型にしたケイト。パパに食事を作って、大学生のボーイフレンドと自転車でデートに行きます。マックスの家からはマックスが弾く「恋はみずいろ」の旋律が流れ、ボーイフレンドは「いい曲だな」と言います。

山本ルンルンさん、知りませんでした。『涙子様の言う通り』を見かけ、印象的な絵柄に惹かれました。どんな作家さんかを確認するため、まずは短編集から読んでみることにしました。

ないしょの話を読んで、かわいい絵柄と独特の間合いに夢中になりました。ないしょの話の時点では、マユと何歳離れているかはわからないのですが、美人でオシャレで、ボーイフレンドとデートする年代のお姉ちゃんが持っているものに憧れるちっちゃな女の子が可愛くて愛しくなります。マニュアルを手の指につけるとマユにばれちゃうので足の指につけるケイト。悪知恵は働くのですが、ハケがケバケバになっているので、使ったことはバレバレです。

そんなケイトはマックスみたいなコドモとは遊ばないと突き放しますが、「ミスター・ビーフ」なんていないのよ、あんたの空想よ、と言いながらも、股メガネをすればちゃんとミスター・ビーフが見えます。イジワルなマユのお葬式をすれば優しいマユだけが残るといって、トゲトゲしたものや角張った石を選んできて土に埋めるのも、ちょっと怖いけどかわいいです。そして「デートはつまんなかった」と言いながら帰ってきてケイトに手を洗わせてメロンパンを渡してくれるマユ。すごくいい、とか、好き、とか単純に思いました。

他の作品はちょっと哀しいところのある、でも素敵なお話です。独特の絵柄で、「山本ルンルンさんワールド」と言いたくなる世界観が心地よく、寂しいながらもほっこりとしながら作品世界にどっぷりはいりこんでいました。

そして、『空色のリリィ』です。ケイトは17歳。『ないしょの話』からは想像もつかない、ゾンビが現れた世界のお話になっていました。マユはもうこの世にいません。ケイトはマユとは違ったタイプながらも、やっぱり色っぽい高校生になっています。先生との逢瀬は最初は不倫とはわかりませんが、いずれにしても道ならない恋、背徳感があります。無邪気だったケイトが背徳行為をするのはショック。とは言っても、ゾンビになったマックスがでてくるまでは、このお話がないしょの話の後日譚であることははっきりとはわかりません。

マックスがでてくるので後日譚と思いますが、マックスは幼い姿のままゾンビになっていて、ケイトの言葉も通じず、ショックです。そして、ケイトが檻の中に入ったことで、マックスのママが「人を襲ったことがなく、家族が管理できる」ことを実現するためにどれだけ苦労しているかに思い至ってとても切なくなりました。ケイトは幼馴染として、マックスの好物のババロアを持ってきたり、しょっちゅうマックスのところに来ているのに、ママがどれだけ苦労しているか知らなかったのです。

ママの気持ちに気を取られたので、マックスがケイトを襲おうとしたわけではなく、手にキスしたのだということを最初は見逃しちゃいました。マックスがゾンビになったのは、まだマユが食べられてしまう前。マユのウェディングベールを勝手に持ち出していたケイトのことを思いやってゾンビ警報がでている中、隠れていた茂みから出たことでゾンビに襲われたのでした。ゾンビになってまで、ケイトに紳士なマックス…哀しいです。

マックスとのこの事件があったことでケイトは目を覚まして先生との不毛な関係を終わらせ、動じもしない先生にイラっとはしたものの、等身大の恋愛に身を委ねることにします。パパにもちょっと優しくなれたようです。ケイトが結婚して子供ができても、きっとゾンビのマックスはケイトにとって大切な存在であり続けることでしょう。

素敵な世界をみせてくれる山本ルンルンさんの作品をいろいろ読んでみようと思います。

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