あなたの鼓動を見させて。

『あなたの鼓動を見させて。』は原作 MITAさん、作画 棚橋なもしろさんの作品。

表紙はかわいい女の子の胸がひび割れているイラスト。鼓動を感じさせてではなく文字通り見させて、というこわーいお話です。

ここから先はネタバレなのでお気をつけ下さい。

あなたの鼓動を見させて。 原作:MITA 作画:棚橋なもしろ 小学館

つまんない、と思いながら大人しく地味に生きているこころちゃんは、大学の実習をきっかけにクラスメイト夏川くんの心臓の鼓動をその目でみたいという熱望にかられるようになり、それを実現するためひたすら邁進します。鼓動を見るためには夏川くんが生きたままその身体を麻痺させ、肋骨を開いて心臓を取り出さないとなりません。心臓には身体から摘出されてもしばらくは自律的に動く自動能という機能があるので、摘出するときまで夏川くんが生きていれば、心臓の鼓動をじっくりと眺められるというわけです。…自分でも何を書いてるのかと思いますが、そういう話なんです。

このお話を楽しめるかどうかは、こころのこの気持ちに共感できるかどうかにかかっています。私も、最初読んだときはそれほどはまらなくてふーん、と読み終えてしまいました。細かいところを忘れたころにもう一度読んでみたら何故か最初からこころがかわいく思えて、こころの主観に沿って読んでみると。めちゃくちゃ面白いじゃないですか!漫画はやっぱり共感だよ!

お話にはもうひとつ大きい流れがあります。ヤブガラシとよばれるルートで巷にでまわっている違法薬物の出どころが大学の研究室だという話です。こころの親友のいずきはひょんなことから(と言ってもこころの目的に関連しているので、こころに巻き込まれたと言えるけど)研究室で不穏なことが起こっているのに気づき、先輩を巻き込んだりしつつヤブガラシのメンバーにつけ狙われるようになります。

イケメンの大学院生や男前の女性准教授が冷酷に犯罪に手を染めています。ヤブガラシのメンバーには常磐線の駅の名前が使われていて、大学への通学に常磐線を使っていた私はそれだけでちょっとワクワクしました。

こころが心臓摘出の練習台をカエルからカラスにかえたりしている中、いずきが巻き込んだ先輩は無惨にも殺されてしまいます。この殺し方が衝撃です。劇薬を管理している薬剤管理室の片隅で食欲を増進させられたネズミの中に放り込まれて食い散らかされ、遺体もすぐには見つからないのです。こまかく描写はされませんが、その後いずきちゃんが生き生きと活動していてもつい「何も知らない先輩を死なせたのに」と、頭のすみで思ってしまいます。お話に暗い陰をおとしていて、味を出していると思います。

先生陣やヤブガラシの親玉の学部長もいい感じでお話の構成要素になっています。棚橋さんの作品はこれしか読んでいないのですが、この方の描くキャラクター、とっても好きです。他の作品も読んでみたいな。大学生活の描写もリアルっぽくてよいです。薬大の学生さんはいやいや薬学部はこんなんじゃない、と言うかもしれませんが、実際にそうかではなく、それっぽい感じがちょうどよくて、心臓を取り出すとかヤブガラシとかの非現実的なお話がよく日常に溶け込んで見えるのです。

こころは着々と準備を進めていきます。その行動力と集中力はすごいもので、こころは鼓動を見るという目的さえかなえられれば他に何も要らないように見えます。唯一の友達いずきに目的がばれ「気持悪い」と言われて距離を置かれてしまってもこころは気に病みません。ただひたすらに夏川くんの鼓動を見ることだけを目指して邁進します。こころに感情移入してよんでいるといずきに嫌われちゃったのはショックでした。

いずきはどんどん追い詰められて行きますが、赤龍王というすごい名前の女性同級生とタグを組んでヤブガラシに立ち向かいます。刑事さんもからんできます。こころは、いずきに言うことをきかせるためのエサとして利用するために近づいてきたヤブガラシのメンバーを、逆に拉致して監禁します。なんなんだ、こころのこの行動力。ちょっと無理はありますが、お話がおもしろいから(鼓動を見るというのがすでに無理だし)そんなことは軽々スルーします。

人間を麻痺させるため、こころは薬剤管理室に忍び込みます。そこでヤブガラシのメンバーである准教授とはちあわせ。准教授はヤブガラシの秘密を守るためこころを始末しようとしますが、逆にこころに襲われて生きたまま胸を開く練習台にされてしまいます。こころ無双。

いずきと赤龍王も別口で薬剤管理室に忍び込んで胸を開かれた准教授とネズミに食い尽くされた先輩の遺体をみつけます。そこに警察もなだれ込み、結果としてヤブガラシの犯罪が明るみに出て組織はつぶされます。ただ、暴かれたのは准教授以下の犯罪のみ。親玉の学部長は監督責任のみを問われて給料カットで切り抜けます。ガッカリするいずきと赤龍王。落ち込むふたりに「大丈夫だよ、いずきちゃん」とこころは声をかけ、姿を見られる前にその場を去ります。

実はこころはいずきに嫌われたのがショックでなかったわけではないらしく、いずきを取り戻すためにヤブガラシを全滅させていずきを護ろうとしているのです。強いうえに欲張りだね、こころちゃん。

そんなこんなで、こころはもともと監禁していた大学院生の他に残っていたヤブガラシ、もうひとりの大学院生と学部長、刑事さんまで自分の部屋に監禁しちゃいます。いやいや、つっこんじゃだめです。そういう話なんです。そして夏川くんとクリスマスデートを楽しんだあと、その監禁場所(自宅)に夏川くんを連れ込みます。そのときわかるのですが、好青年の夏川くんも実はサイコパス。VXガスを自分で作って東京テロを計画するとんでも青年だったのでした。彼の目的は心臓が止まる様をみること。こちらはこころと違って心臓そのものは見なくてもよいみたい。

もうなんじゃそりゃ状態ですが、実際に心臓を止めたことのない夏川くんに、実際に生きた人間の胸を開いたことのあるこころの経験が勝ち、こころがその場の主導権を握ります。いろいろあって、こころは夏川くんの鼓動を、実際にその目で見ます。

学部長は実は夏川くんを溺愛する伯父。生き甲斐だった甥の命を目の前で奪われて学部長は狂います。家に火をつけてこころを焼死させます。

ここまで書いてきてかなり疲れました。すごい話ですね。ぐったりです。端折ってもこれだけグロいお話ですがら、画面も凄惨です。グロ耐性が高くて絵を気に入っていることがないととても読めない漫画だと思います。

その状況で学部長は逃げ切ります。学部長を追ういずきと赤龍王。直接対決となったところで警察が入りますが、ちょっとの隙でいずきは学部長に殺されそうに。あと一息でいずきを仕留めようとしたその瞬間、学部長の目の前に死んだはずのこころが現れて心臓を狙います。取り乱す学部長。困惑するいずき。いずきの目には突然こころの名前を叫んで怯えだした学部長しか映っていなかったので。

学部長も逮捕されました。いずきはこころに守られたことを感じ、少しずつ普段の生活に戻っていきます。

こんな話だったかな?また読んでみるとまた違うかもしれません。思い出して話を追いかけながらちょこっと感想を書くだけでも疲れたので、初めて読んだらグッタリだと思います。読み手を選ぶ漫画ですが、棚橋さんの描くかわいい女の子とアクの強いおじさんたちの動きを楽しめる作品です。

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[原作]MITA [作画]棚橋なもしろ

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