『魔法自家発電』

『魔法自家発電』は谷和野さんの短編作品です。自分を醜いけむくじゃらの動物だと思っている戸窓井くんは、電車の中で、大きな天使の羽を生やした美少女を見つけます。河原でネコを見つけた二人は「飼ってくれる人を見つけるまで」育てることにします。戸窓井くんは天使にベタボレ。

天使である希子の視点では世界は全く異なります。

ここから先は、ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。

戸窓井くんは絶世の美男で、希子は普通の女子です。何故戸窓井くんに天使と呼ばれるか戸惑っていますが、捨て身でネコを庇う戸窓井くんに惹かれて一緒にいる時間を大切にしています。

ある日、希子は、女優の戸窓井美鈴が「自分を特別だと思うために自分以外を醜いと思い込み、言葉にもだす」と語っているのをTVで見ます。戸窓井美鈴は戸窓井くんにそっくり。戸窓井くんは幼少の頃から実母に醜いと言われて育ったことを希子は知ります。

希子は「天使だと思われているなら」と、母の呪縛から戸窓井くんを解き放つ言葉を口にします。希子が天使ではないことがわかって、戸窓井くんは離れていくだろうな、と希子は思います。

希子の親友は、希子が天使に見えた理由を知っています。希子は天使みたいに純粋でいい子だから。戸窓井くんには最初から真実がみえてたんだよね、と親友は思います。

戸窓井の親友は、最近戸窓井に、周囲の称賛の声がちゃんと届くようになって戸窓井が照れるのを見てますます喜ぶ女生徒たちが、戸窓井に希子という彼女がいるのを知ったらどう思うかな、とちょっと笑います。

戸窓井と希子は…幸せの中にいます。

この作品を絶賛するツイートを見かけて読んでみました。読んでみたら柔らかくて温かい世界観を感じてとても気に入りました。

戸窓井くんは自分以外の人を「正しく」判断する能力があります。ごく普通の女生徒である希子が絶世の美女でしかも天使にみえるのも、他の人が寄ってこない自分に親しく話しかけてくれる鈴木が、ほぼほぼ人間に見えるのも、これらの人の内面の美しさや裏表のない率直さをどういうわけか最初から見抜いていたからです。

自分を醜いケモノだと感じ、周囲の視線を「醜さに驚いて注目している」と感じていたのも、周囲に悪く言われていると思っているのも、全て母からの呪縛です。母は「自分にそっくりな美しい息子」に対する無意識な嫉妬から、息子に「お前は醜い」と語りかけてきたのでしょう。いまでは語りかけるどころか、インターホン越しに会話することすら拒否する母は、本来息子のフィルターを介して見ると化け物に見えるはずですが、呪縛をかけた本人なので、見かけどおりの美しい姿に息子の目には映っているのでしょう。

希子は、キレイな男子生徒に話しかけられた普通の子で、ネコちゃんのことも、ケモノくんと会い続ける口実につかっていますが、それを後ろめたく思ったりもしています。ごく普通の女の子です。それを、物語の最後に親友の言葉で「希子が天使に見えるのはわかる」と言わせてくれたおかげで、よんでいる方もカタルシスがあって気持ちよかったです。

親友(?)の鈴木くんの存在にも癒やされます。とんでもない自虐の世界にいた戸窓井くんだったけど、ちゃんと戸窓井くんを見て、見かけの美しさや歪んだ視点に戸惑わずに親しくしてくれる友達がいたということ。

成績も普通で見映えも普通以下の女子生徒だった私には、まさに夢の話です。自分の中にあるいいところを初対面の時から認めてくれる、純粋で優しくて、人が振り返るほどのイケメンの彼氏ができちゃった。こんな話、憧れずにはいられません。多分、そこで憧れちゃう時点で、私はすでに希子ちゃんみたいな天使ではなくて、戸窓井くんの目には動物にしか映らないんだろうなー、などと、自虐してしまいます。

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