殺戮モルフ

『殺戮モルフ』原作 外薗昌也さん、漫画 小池ノクトさんは、連載中に残虐な描写のあまり一部黒塗りで出版されたということでも話題となったスプラッターホラーです。

私は外薗作品、小池作品に惹かれて1巻を読んでいましたが、残虐な絵が話題となってしまったことでしばし興味を失っていました。が、ある日小池さんの作品への渇望がひどくなり、完結した後で読んでしまいました。

ここから先はネタバレなのでご注意下さい。

殺戮モルフ 原作 外薗昌也 漫画 小池ノクト 秋田書店

村崎まどかは女子高校生。友人と出かけた繁華街で通り魔に遭遇します。何故かまどかをスルーして周囲の人物を惨殺する通り魔。彼は拘束され収監されます。が、彼はバイロケーションという同じ時間に別の場所に存在する能力をもち、ある意味どこよりも安全な刑務所にいながら外にも出現して人を惨殺しまくります。実は彼は殺戮モルフ。モルフとは突然変異のことで、増えすぎた同族(=人間)を殺害するために出現したのでした。まどかを殺さなかったのは、彼女が自分と同じ殺戮モルフだと認めたから。止まらない彼の殺戮を止めるため、まどか自身もバイロケーションの能力に目覚め、彼を撃ち殺します。愕然とひざをつくまどか。そこで物語は終わります。

オタマジャクシには時としてモルフが現れるそうです。他の個体より大きく、成体になることなく同族のオタマジャクシを共食いしてカエルが増えすぎるのを阻止する、んだったかな?ちゃんと調べてなくてインターネットでも読み散らかして頭の中で再構築した情報なので、間違っていたらごめんなさい。そんなこともモチーフになっています。

この作品の冒頭では、ジョン・ウェイン・ゲーシーなどのシリアルキラーは異世界からきたのではなく我々の中から現れたのだ、語られていますが、まさしくそういう話です。残虐シーンは確かに多く、グロ目的で小池作品を読んでいるわけではない私は過激なシーンはチラ見して読み進めちゃいましたが、ある日モルフとして目覚めた彼の目的が全人類の殺戮で、安全な収監場所に身を置いて殺戮を繰り返すというコンセプトはとっても興味深く感じました。

殺戮モルフの説明はお話の後半になってでてくるものなので、それまでは主人公のまどかと一緒にとまどい、怯え、混乱します。通り魔事件の目撃者を集めたセラピーにの成り行きにもドキドキします。まどかはちょっと天然ですが行動力のある見た目もかわいい少女で好感がもてます。何故まどかだけが殺されないのかも謎で、お話に惹きつけられます。最初1巻だけ読んで興味を失った理由のひとつには「まどかのいる場所に自由に実体が現れてナタを振り回すんだったらまどか絶対死ぬじゃん、何その無理ゲー」と思ってしまったこともありました。「何故まどかをスルーするのに、執拗にまどかの前に出現するの?」というところに興味を持てないと読み進めるのは難しいかもしれません。

外薗さんはスプラッターものをご自分の絵でも書いているようですし、この作品のウリがグロにあるのも理解しますが、単行本リリースのときのゴタゴタを含め、グロの描写に注目が集まってしまうのはちょっともったいない気がします。人間の中に殺戮モルフが出現するのは何故なのか、決意して自らを異形として刑務所に入ったモルフではなく、誰からも好感を持たれる美しく聡明な少女がモルフになってしまったらどんな世界が繰り広げられるのか。描写の過激さではなく心理的な恐怖作品として殺戮モルフを楽しんでみたかった気持ちがちょっと残ります。

冨士山麓のホテルで繰り広げられる集団殺戮、バイロケーションの能力をフルに活用して暴走族を殺戮しまくる殺人者、己の心酔者には目もくれず、まどかだけには冷静に話しかける殺人者、見どころはいっぱいです。でも、物語は突然終わります。殺人を犯すことを頑なに拒んできたまどかが殺人者を撃ったところで。他の読者さんの感想をチェックすると、最初は4巻で一部完だったものが、気づいたら完了になっていたようです。表現の問題で打ち切りになったのか、外薗さんのこの作品に対する興味が薄れてしまったのかわかりませんが、お話の本質を考えると致し方無い気がします。外薗さんが1巻のあとがきで書いているように、突如現れたモルフの目的は殺害だけなので、この先お話が続いてもただただ殺戮を繰り返すだけの話になってしまうように思うからです。

たとえばこのあとまどかがバイロケーションの力をつかってシリアルキラーとなり、殺害者としての苦労と苦悩と成功を語る作品になったら‥‥実験的ではありますが多分まどかに感情移入することは難しいですよね。主人公がどんどん人を殺していく作品としては、『無能なナナ』(原作 るーすぼーいさん、作画 古屋庵さん)、『不能犯』(原作 宮月新さん、漫画 神崎裕也さん)などもありますが、これらのお話も、連載が続くに従ってただ主人公の殺人の事実だけにフォーカスしたものではなくなっていきますし、ただただやみくもに殺人を犯す物語でもありません。殺戮モルフの問題提起的なメッセージは興味深いですがお話としての落とし所を見つけるのは難しいと思います。

話題となったグロシーンをチラ見しながら読み進めた『殺戮モルフ』も楽しんで読み終えました。

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殺戮モルフ 1

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[著]小池ノクト : 外薗昌也

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