監獄実験 −プリズンラボ−

『監獄実験−プリズンラボ−』は原作 貫徹さん、作画 水瀬チホさんの作品で、主人公が謎の組織の主宰する監獄実験に参加する物語です。

江山藍都はいじめの標的となり過酷な高校生活を送っています。いじめの黒幕は優等生の桐島彩。何故標的になったのか身に覚えのない藍都ですが、我慢の限界を迎えつつあります。夏休みに入る日、久字間と名乗る人物から監獄ゲームへの招待状が届きます。特定の人物を1カ月間監禁し、被監禁者に名前がばれなければゲームに勝利、1,000万円が支払われる、なお名前あては1週間毎に4回行われる、というゲーム。藍都は監禁相手を桐島に決め、ゲームに参加することにします。

ここから先はネタバレなのでご注意ください。

監獄実験−プリズンラボ− 原作 貫徹 作画 水瀬チホ 双葉社

他に三崎由乃と勝又誠司が監禁者として参加し、山奥の施設で監禁が始まります。早々に監禁相手を惨殺して失格となり身柄を留保される三崎と、紳士的に振る舞う勝又。藍都は当初は仮面をつけて彩に対峙していましたが、監禁者として覚悟を決め、仮面をかなぐり捨て暴力で彩を支配し始めます。与えられた監禁者としてのポジションにはまっていく藍都は、虐められていた頃とはまるで別人のようになっていきます。そんな藍都を見守るゲームの運営担当者たちと黒幕の権力者、久字間老人との間にも奇妙なパワーバランスが発生します。

実は監獄ゲームが行われたのはこれが初めてではなく、彩の姉が被監禁者、今回の運営担当者のひとり原川が監禁者として同じゲームが行われていたのでした。監禁者として被監禁者を虐待し虐殺した原川は精神のバランスを崩し、自制心を失った殺人鬼となって多くの運営担当者を殺戮した過去がありました。今回の監禁ゲームは、あのときの原川のように人が狂って鬼となる姿をもう一度見たいと望んだ新村が仕組んだものだったのでした。新村は彩と勝又の人生を操り、久字間を傀儡として利用し、藍都と三崎を見出し、原川を始めとする仲間たちをも操ってこのゲームを成立させていたのでした。

勝又は新村の生み出した過酷な人生の荒波に煽られて失格となり、被監禁者ともども殺されます。失格となって莫大な負債を抱えさせられた三崎は脱出を図って一部の運営担当者らを惨殺しますが、結局は捕らえられてしまいます。

勝又と三崎が監禁者でなくなり、運営担当者も三崎に殺されて数が減ったことなどから、運営も施設のクローズに向けて縮小され始めました。そんな中、藍都は全てが新村の陰謀であったことを知ります。藍都はイジメに決着をつけるためまず彩を手にかけ、そして全ての元凶新村を倒しに赴きます。三崎と三崎の同級生だった運営担当の長峰と藍都が、残された運営と血みどろの闘いを繰り広げた結果、藍都が新村を倒します。

彩が生き延びることを望んでいた原川が彩のもとを訪れると彩は息を吹き返します。彩をそっと抱き上げる原川。こうして監獄ゲームは開始12日目にして主宰者死亡により幕を閉じるのでした。

生き延びた原川、長峰は久字間の本家の権力ですべてをもみ消すことに奔走し、次の人生へと向かいます。藍都と彩は、お互いが実は好意を持っていることを認め、新たな関係の構築に進むのでした。

ベースには有名なスタンフォード監獄実験があります。看守の役を与えられた者はより看守らしく、囚人役も自らより囚人らしく振る舞うようになる、という話で、近年ではその実験はかなり恣意的であって信頼のおけるものとはいえないとの見方がでているそうです(一次情報を調べていないうろ覚えの知識です、ごめんなさい)。

おどおどしていた藍都はたった数日で残酷な看守になって彩ちゃんをいたぶります。三崎さんはあっという間に被監禁者を惨殺します。一人娘を失った勝又さんは絶望のあまり被監禁者を無視します。監禁という非日常があっさりと人を変えてしまうことが描かれます。読者としてついていくのも必死です。藍都が壮絶なイジメにあっていて彩ちゃんがひどい子だとの描写がされているので、藍都に肩入れはしますが、それでもあまりの藍都の冷酷ぶりに戸惑わずにはいられません。

その強さがあったらいじめられっ子にはなっていなかったのでは、と思うほど、初っ端から藍都は看守としての振る舞いをみせるので、怖くなってしまいます。彩ちゃんをトイレに行かせてあげずおもらしさせて屈辱を味あわせるし、暴力もふるうし、その振る舞いには目を覆います。このあたりで離脱しちゃう読者さんも多いと思います。

しかも、彩ちゃんが藍都を苛めていた理由は好きだからなんです。好きだから強くなって欲しい、という理由でいじめてたんです。こういうところでもお話についていけない人は結構いるのではないでしょうか。彩ちゃんがそうなったのには一応理由があって、実は彩ちゃんは中学生のときに実の父親の手引きで集団レイプされているんです。父親がいるかぎりその毒牙から逃れられないと悟った彩はその手で父親も殺します。というか、このあたりは新村の手によってそういう過酷な人生を歩まされているのですが。そんな過酷さの中で彩が病んでしまうのはわかるのですが「好きな男には強くなって欲しい。だから私がいじめられっ子にしてあげる」という発想に共感するのはちょっと難しいです。

そしてこのお話、とにかく人がたくさん死にます。勝又さんの一人娘も、彩をレイプしたのとほぼ同じ連中に集団レイプされ、精神のバランスを崩してずっと病院にいるのですが、最後には自ら命を断つことを選びます。このレイプ事件も新村の策略によるもので、本当にやりきれないお話です。

運営も久字間も、とにかくどんどん死ぬので、どうかすると人が死ぬことに感覚が麻痺してきます。そんな中で三崎さんは身体の三分の一ぐらいを大火傷しても強い痛み止めの力を借りながらチェーンソーを振り回したりするので頼もしいです。最初はウザいおねーちゃんだなあ、と思うのですが、その活躍には鬼気迫るものがあります。

ラスト、あれだけいじめっ子だった彩ちゃんが最後に藍都にすり寄ってやり直そうと思うのはわかります。元々好きで、強くなって欲しいからいじめてたのだし。監禁されている間は、最初は強かったけれど心が折れちゃってからはスタンフォード監獄実験のセオリーに従って囚人らしくなってしまって、普段自分を殴っている藍都がちょっと身体を拭いてくれたり食べ物を持ってきてくれるだけで「ありがとう」と思ってしまう心境になっていたりしたし。元々の藍都はほんとにコミュ障でいいオトコとはとても言えないので、そんな藍都を好きだというところには好感が持てます。

でも藍都はどうなんだろう。クラスメイトと仲良くするよりは一人で本を読んでいることを選ぶ少年で、看守役になったら女の子を平気で殴ることができる子で、実際殴って、イジメにケリをつめりために一度は殺す決意をして実際殺した(死んでなかったけど)、その子相手に「やり直そう」って思えるんだろうか?

こうやって書くとなんだか批判ばっかりになっちゃいますが、おもしろくなかったわけではないのです。前半は、何故こんな異常な実験をするのか、その裏には何があるのか、という興味に引っ張られて読み進め、黒幕が顕わになってからは闘いそのものや、その行方にハラハラしながら読みました。三崎さんや長峰さんが戦闘技術では明らかに劣るのに必死で喰らいついていく姿に手に汗にぎりました。お話と画に勢いがあって読ませてくれたと思います。

作画といえば、わりと安定してなかったです。特に藍都と彩はコマが変わるごとに顔が変わってました。でも不思議なことに、彩はずっと美少女として読ませるチカラがありました。藍都は難しいですね。イケメンに見えるときもキモヲタに見えるときもありました。ラストで彩やそれ以外の子たちとの関係を再構築していこうとすることを考えると普通に清潔感のある男子であって欲しいけど、藍都の見かけが安定しないのもお話的にはよかったです。

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監獄実験−プリズンラボ− 1

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[原作]貫徹 [作画]水瀬チホ

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