ぼぎわんが、来る

『ぼぎわんが、来る』は原作 津村伊智さん、漫画 川本貴裕さんのホラー作品です。じわじわと追い詰められる恐ろしさにぞっとします。

田原秀樹は製菓メーカーに勤めるサラリーマン。イクメンを自認しています。地域のパパ友と交流したり、イクメン名刺をつくったりしています。仕事が早く終わった日はまっすぐ帰って家族との大切な時間を過ごします。が、妻の香奈にとってはそれらは子育ての現実を見ていないごっこに過ぎないのでした。

ここから先はネタバレなのでご注意下さい。

ぼぎわんが、来る 原作 津村伊智 漫画 川本貴裕 KADOKAWA

そんな秀樹はあるとき、自分が何者かに追われていることに気づきます。助けを求めて出会った野崎と真琴の力も及ばず、秀樹は頭と顔を食いちぎられて死んでしまうのでした。

残された妻の香奈は娘の知紗と過ごしながら、むしろ秀樹の子育てごっこから開放された穏やかさを感じます。ところが、死んだ秀樹が知紗を連れ去りに現れます。香奈は、秀樹がそんな身勝手な人間ではなく家族を愛していたことを思い出し、真琴の力も借りながら秀樹を騙るぼぎわんに抵抗しますが、結局はぼぎわんに知紗を連れ去られてしまいます。

なんとか命を取り留めた真琴のもとに姉の琴子が訪れ、真琴のために知紗を救うことを誓います。秀樹の母に話を聞いた琴子はぼぎわんは秀樹の祖母が夫への恨みをはらすためにかけた呪いであったことを突き止めます。ぼぎわんを呼び出し闘う琴子。野崎は、ぼぎわんとともに出現した知紗に自分を取り戻させようとその体を抑えます。病床からパワーを送る真琴の助けもあって知紗は本性を取り戻し、ぼぎわんは琴子に祓われます。

平和を取り戻した香奈と知紗の元に野崎と真琴も足繁く通い、その幸せに寄り添います。遊び疲れて母の腕の中で寝言をいう知紗に大人たちはほほえみますがその言葉はぼぎわんのつぶやきを思い出させるもので…

すごく怖いお話でした。秀樹が御守マニアになって壁に並べるのも怖かったけど、それがボロボロにこわされるのもとってもこわかったです。川本さんの絵は可愛らしくて、特に知紗ちゃんの愛らしさには癒されますが、それに反して読み進めるうちに背筋が凍って、思わず布団を深く被り直してしまいました。夜中に読むものじゃありませんね。

でも秀樹はぼぎわんにつかまってしまいます。一巻の最後に、自分の頭蓋骨が噛み砕かれる音を聞いたのが、彼の最後の意識です。一巻最後なので、二巻を開いたら奇跡があるのかと思わず期待してしまいましたが、残念ながら秀樹はここで死んでしまいました。ところが、二巻が始まって視点が妻の香奈に変わると、物語がひっくり返ります。

秀樹はイクメンという形にばかりとらわれていて、実際には香奈に負担をかけていましたが、秀樹のエセイクメンぶりにイライラしたり追い詰められていく香奈の姿がとてもリアルです。エセだと気づかず善意で頑張る秀樹もリアルなので、まずは呪いの怖さよりも人間の怖さや弱さを感じます。御守をズタズタにしたのも、呪いではなくて香奈の仕業だったとところも、秀樹がそれをぼぎわんの仕業だと思い込んだところもすごくスムーズです。お話の妙に感じ入ってしまいました。

ぼぎわんの秀樹が現れて「知紗は産んだだけのお前には渡さない」と言ったときには思わずそれが秀樹の意思だと思って秀樹を憎んでしまいましたが、香奈が、秀樹はそんな人間ではない、あれが秀樹のはずがないと思いだしてくれてよかったです。そして、新幹線の中で、香奈が知紗を護ろうと、孤軍奮闘する姿は本当にせつなかったです。

真琴は健気でかわいかったですが、真琴と野崎それぞれの子供ができない設定は、私はちょっとよくわかりませんでした。それぞれの葛藤や孤独はドラマだとは思うのですが、このお話に関係あるのかな?秀樹の祖母がやみくもに手を出した夫への呪いが、孫や曾孫まで巻き込んでしまう恐ろしいものを引き寄せてしまったことと、その孫、曾孫を助ける野崎や真琴が次世代にDNAを繋げることのできないことを対比してるんでしょうか?そのわりに除霊のキーパーソンは琴子だし。原作を読んでいないのでわからないけど、もしかしたら真琴と野崎と琴子の3人でいろいろ問題を片付けていくシリーズなのかな。3人とも魅力のあるキャラなので、そうだとしても納得いきます。

それにしても。表紙を見たときにはこんなにこわい話だと思いませんでした。タイトル文字がちょっとマルっこくてかわいいんですよ。ぼぎわんという言葉は意味不明なので、こわいのかかわいいのかおもしろいのかわからない。よく見ると怖い絵が人物の後ろに描いてあるのですけれどね。

ともかく、怖くて満足度の高いホラーでした。

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[原作]澤村伊智 [漫画]川本貴裕

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