『Another アナザー』は原作 綾辻行人さん、漫画 清原紘さんのミステリー作品。小野不由美さんが好きな私は綾辻さんも気になるし、清原さんの美麗な絵も魅力で、夢中で読みました。
1998年、恒一は夜見山市に引っ越します。好意的に迎えてくれる3年3組の同級生たち。たったひとつおかしいのは、先生を含めた全員が、見崎鳴という少女を無視していること。いじめとは一味違うようで、疑問をもつ恒一のその疑問すらみんなが無視するのでした。
ここから先はネタバレなのでお気をつけ下さい。
実は3年3組は、人数が一人多くなることがあるクラスなのです。多いのは死人。でも、学年が終わるまでは誰がそのひとりなのか、どうしてもわからないのです。そして「それ」が始まると生徒かその親族に災厄が起こります。「災厄」を起こさないためには、「死人」のかわりにクラスの誰か一人をいないものとして扱う、というのが慣例となっています。今年は一人多く、鳴が「いないもの」に選ばれていました。
「いないもの」の慣例を説明するためには「実際にはいる」ことを認めなければなりません。それで、誰も恒一に説明することができないでいたのでした。それをしらない恒一は鳴の存在に惹きつけられ、言葉をかわすようになります。
そして「災厄」は始まりました。恒一と鳴が「いないもの」を完遂しなかったからだと詰るクラスメイトもいましたが、基本的にはみんな今までのことがなかったように鳴を仲間として受け入れます。災厄は始まったら終わらないので、もう鳴をいないものとして扱う必要がないからです。
過去の話を聞いた恒一は、災厄が途中で止まった年があったことを知りました。災厄が続く中で「死人」が死んでしまえばいいのです。死の色が見える目を持つ鳴は、死人を殺す決意をします。災厄があまりにも大きくなっていくことに怖れを感じたのです。
死人は恒一の伯母。恒一の亡くなった母にかわって愛情を注いでくれた伯母は、学校の中で他のクラスにはいない副担任として3年3組に存在していたのでした。火事に巻き込まれて倒れている伯母につるはしを振り上げる恒一…
いつか忘れることもあるのか、と一年半前に亡くなっていた伯母の墓の前で話す恒一と鳴。いつか東京で美術館巡りをしようと誓うのでした。
まずは理由が見えず、クラスの掟らしきものを言いたそうにしてそれでも何も教えてくれないクラスメイトたちの態度に、読者としていい感じにいらつきます。内容がわかってみると話せなかった理由も煮えきらなかった態度の理由もよくわかります。お話が本当にしっかりしているのですね。
災厄は距離が離れていると及ばないとかのルールがあるので、海外にいる恒一の父は叔母が死んだことを知っています。そのことも不自然でなく、しかも核心をつかずに話していて、うまい伏線だと感心しました。九官鳥のセリフも秀逸。おじいちゃんの態度も。恒一が叔母が死んでいることがわかって泣くシーンでもらい泣きしてしまいそうになりました。娘二人に先立たれたおじいちゃん、おばあちゃんの気持ちを考えると本当に悲しいです。
叔母が先生であることも、最後まで明かされないのですが、それまでの恒一とのやりとりが思い返しても不自然ではなく、いつも適切なアドバイスをくれる素敵でしっかりした叔母なので、学校では先生として節度をもって適度に距離を置いて甥と接していたというのも不思議ではありません。家でのカジュアルなスタイルと学校でのコンサバな服装の差もいい感じだし。…とはいえ、漫画だから同一人物だと気づかないのであって、実写だったらすぐわかっちゃうでしょうけどね。でも、副担任が叔母であったとしても彼女が「死人」であることがわかるわけではないのですが。
いつも眼帯をしていて、特に学校では決してそれをはずさない鳴の片眼が死の色を見極めるという設定も魅力的でした。鳴の祖母や母との関係も、いい感じでお話に陰影をつけていました。
1998年という時代設定がどれほどの意味をもつのかは、私にはちょっとわかりませんでした。多分読み取りが浅いんだと思います。1997年の神戸連続児童殺傷事件、サカキバラ(恒一の姓は榊原)は関連しているようで、鳴も「死を連想させる名前」と言っていますが。私は1998年には既に大人だったので、学校の雰囲気が現代とちがうのかどうかはわかりませんが、鳴を「いないもの」とするのがいじめとは違うことを表しているのでしょうか。それとも、なくなっていたはずの叔母の助言もあって美大に進むことを決意した恒一の将来が関係あるのでしょうか。
「災厄」「死人」「いないもの」が受け入れられている社会は、やや閉じた村社会的雰囲気があって、それを表現するために、少し古い日本、という設定が必要だったのかもしれませんが、それだったらもっと思い切って、『ひぐらしのなく頃に』や『王様ゲーム 起源』みたいに昭和の世界にしてしまうのもありかと思いますが…やっぱりサカキバラ事件なのかな。
絵も美しく、お話も面白くて、何より見崎鳴が気に入って、この作品も大好きです。