『堕イドル』はアイドルさんたちのデスゲームのお話。原作 ガクキリオさん、漫画 山口アキさんの作品です。
売れてるアイドル、末端アイドル取り混ぜ50人がパートナーと一緒に拉致され、船の中で生き残りをかけてバトルを繰り広げます。
ここから先はネタバレなのでご注意下さい。
売れないアイドル銀山幸は、偶然言葉を交わしたことのある灰峰とペアリングされて堕イドルのひとりとしてバトルに参加させられます。最初のバトルはパフォーマンスをすることですが、ここでパートナーと親しげな行為をしていたアイドルたちが堕イドルとして選出され、なんと焼き殺されます。実は幸と灰峰以外のアイドルたちは恋人とペアリングされていて、恋人とのいちゃつきをパフォーマンスとして見せてしまったことで文字通り炎上させられたのでした。
次のバトルもパフォーマンスをすることですが、ここでの生き残り方法はアイドルではなく男性が歌うこと。そんなかんじでバトルが続き、灰峰は謎の男として常に幸に適切なアドバイスを提供して幸の生き残りを助けます。
なんだかブラックな才能を持つトップアイドルやツインテールのおこちゃまアイドルなんかもメンバーにいて、さらには生き別れていた幸のママなんかもデスゲーム運営側として登場してきたりします。
それでどうなるかって言うと、実はそれで終わりです。
そう、打ち切られちゃったんですね。マンガにはよくあることです。私が最初に経験した打ち切りマンガは『5愛のルール』、一条ゆかりさんです。登場人物がみんな激情型で、簡単に犯罪をおかしたり自殺したりするマンガで少女ながらにドキドキしながら読んで楽しみにしていたのですが、第一部終了後一向に二部は始まらず、がっかりしたものでした。後に文庫版で出版されたとき、当の一条さんが、打ち切られただけでも不快なのにしつこいファンが覚えててネチネチとあれはどうなったんだと聞いてきてほんと気分悪かった、という主旨のことを書いてらして、二度がっかりしたものでした。でもまあ、考えてみれば、打ち切りは読者にとってより作者にとってのほうがずっと不本意ですよね。
一条さんの説明によると『5愛のルール』の場合は、人気は高かったものの、当時のりぼんの読者層に対して話が大人になりすぎた、と編集が判断したことが原因だそうで、これは大人の目から見るとわかるような気もするのですが、逆に小学生だったからこそ、自分では経験したこともない恋愛や仕事での確執や嫉妬などが人を狂わせていくことを純粋に楽しめたのであって、中高生ぐらいになるとまた別の感想を持ったかもしれない、大人のドロドロした感情を少女に読ませるべきではないという編集部の判断は大人として正しいのかもしれないけど、でも少女だってドロドロしたものを読みたいじゃないか、その意思は尊重されないのか、などと思ったものです。
『堕イドル』から話がそれちゃいました。敢えて調べませんが、ガクキリオさんは確かこんな話をしていたと思います。いわく、『堕イドル』は人気があった、新人の山口さんの作画も評判がよかった、それで新人としては異例の多い部数で1巻が出版されることになったが、期待ほどは売れなかった、そこで早々に打ち切りが決まった、読者の応援はあるので何らかの形で続きを世に出したい、と。
デスゲームとしては、リアル炎上や酸欠死などの残酷なシーンが描写されずセリフや苦しそう程度のイラストでさらっと描かれているのは物足りない人にとっては物足りないかもしれません。そして、それぞれの課題で幸と灰峰がいろいろ検討して試行錯誤してみるところは、ちょっとだけ冗長にかんじちゃうところもありました。
アイドルものとしては、幸がいい子で可愛くて前向きで、状況を素直に受け入れてあやしげな灰峰も信頼してひたむきに頑張るところがかわいくて好感が持てました。わざと下手に歌ったりわざとだらけたパフォーマンスをするときに灰峰が「こんなところもスペックが高い」と感心してるのもおもしろかったです。
なので、ひたむきに頑張る幸とサポートする灰峰や、ライバルたちとのバトルはもっとみたかったし、突然でてきた母親との関係もどうなるのか知りたかったし、「ここで打ち切りなんて、編集部ひどい!もっと読みたい!」というのが最初の感想だったんですが…
打ち切りって多分「じゃあ次回で終わりですんで」ぐらいじゃなくて数回前に宣告されますよね。これから盛り上がるはずだったお話にどうやってケリをつければ読者は満足できうだろうか?というアプローチもありだと思います(『5愛のルール』の場合は、一部を終わらせた後、言を左右されて二部を始めさせてもらえなかったと一条さんは書いていたので、打ち切りにもいろんなパターンがありそうですが。
ガクキリオさんも、いろいろ悩まれて、話を予定どおり膨らませてなんの伏線回収もしない、という結末を選ばれたのだと思います。だけどここまで膨らませられちゃうとファンとしてはもっと読みたいストレスがより大きくなります。難しいですね…いろいろ言いたいことありげなガクキリオさんに対して、山口アキさんは「応援してくださりありがとうございました!」でしめていたので、それはそれで潔くてよかったです。
そんな山口アキさんですが、最近別の作品の打ち切りでも話題となってしまいました。複数の他作品をディスるパロディー作品で、批判をうけて1回で連載終了が決まるという、原作者さん、作画さんはともかく、編集部何やってんだ、案件でした。山口アキさんの絵は私にとっては魅力的で、山口さんの作品を見たことのなかった人にこの話題だけで名前が知られてしまったのは残念というか、不運だな、と思ってしまいます。
私にとって『堕イドル』は、作品の内容より、作品を世に出すことへの姿勢を考えさせられる作品になってしまいました。何がいいとか悪いとかはわかりません。ただ、楽しんで読んだし、ガクキリオさんも山口アキさんも、これからも活躍して素敵な作品を見せて欲しいな!と思います。