てっぺんぐらりん~日本昔ばなし犯罪捜査~

てっぺんぐらりん、は、めでたしめでたし、の意味だそうです。『てっぺんぐらりん~日本昔ばなし犯罪捜査~』はキリエさんの作品。その名のとおり、日本昔ばなしを拠り所に犯罪捜査をするお話です。

瓜子姫とあまんじゃく、鶴の恩返し、舌切雀などの誰でも知ってるお話から、新人刑事の桃生と大学教員(ポジションは不明だけど個室を与えられている)の太郎が犯罪捜査をします。

ここから先はネタバレなのでご注意下さい。

てっぺんぐらりん~日本昔ばなし犯罪捜査~ キリエ 白泉社

桃生一は子供の頃、父を殺されます。血を流して横たわる父のそばにいると人の気配が。とっさに隠れた桃生が見た犯人は人ならざる者でした。桃生の血筋は人外の化け物を見抜く力を持っているのです。

そんな強烈な体験と血筋のためか、新人にして警部と間違えられるルックスを持つ桃生。ある事件で、太郎と知り合い、太郎の推理で人ならざるもの=ウィキッドを犯人と特定して事件を解決して以来、太郎をコンサルタントとして事件の解決に立ち向かうことになりました。

太郎の専門は民俗学。その推理は昔ばなしからヒントを得てウィキッドの行動や心理を推測するもの。桃生のチームには犬井、猿渡、氷室(旧姓雉沼)が配属され、桃太郎の鬼退治よろしくウィキッドを追い詰め逮捕します。

太郎はキモノに中折れ帽に長髪の独特なスタイル。学生に好かれようという気はサラサラなくて、講義を聞いていない学生をちゃんとチェックしていて単位を落とすという厳しい教員。一部の学生からは目の敵にされていて研究室にいたずらをされたりしています。そのキャラクターは特異なのですが、どこかふわっとしたところがあります。桃生は頑固真面目一徹系。最初に読んだ感想は、このふたりのキャラクターがもっと強烈だったら、このシリーズは何十巻も続く超人気作品になるのではないかということ。今一子サンの『百鬼夜行抄』みたいな印象です。

日本昔ばなしを題材にしているところ、犯罪と結びつけていること、太郎の知識でウィキッドをひるませることができるところ、桃生にウィキッドの本質を見る力があるところ、猿、犬、雉とキャラがそろっているところ、ウィキッドでありながら人間でいたい少年がでてくるところ、とても魅力的です。

ちょっと戸惑ったのは、気づいたら桃生と太郎の間にゆるぎのない絆ができていたこと。何故そこまで信頼しあってるの?という理由が、読んでいてわかりませんでした。また私の読み取り力が弱いのかもしれません。絆そのものはいい感じで、お話に色を添えていたと思います。

そんな太郎も実はただの変わり者の学者ではなく、秘密を持った謎のいきものでした。最終巻の浦島太郎編でわかるのですが、太郎も永遠を生きる人ならざるもの。永遠を生きる乙姫と、その孤独をあたためあって時を送っていくことを選ぶのではなく、桃生と一緒に、人に害をなすウィキッドを退治していきことを選んだのです。

こうなるとやっぱり、何故そこまでの絆が生まれたのかを、ちゃんとよみとらないといけません。また読み返さなくちゃ!最初に、もっと濃くてもいいと思った桃生と太郎のキャラもちょうどいい感じに思えてきました。

もっともっと読み続けたかった『てっぺんぐらりん』。太郎と桃生の活躍はまだまだ続きそうですが、読者に紹介してもらえる物語はここまで。大好きなお話がまたひとつ終わってしまうのは寂しいけど、これにててっぺんぐらりん。次回作に期待です。

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