山怪談

『山怪談』は安曇潤平さん原作の、その名のとおり山の怪談です。漫画は、伊藤潤二さん、伊藤三巳華さん、猪川朱美さん、今井大輔さん、吉富昭仁さんが担当。

安曇さんが主人公の作品も多いですが、いろんなお話が掲載されていてとてもおもしろいです。いえ、怪談だから怖いのですが、山で出会う怖い物の話だけでなく、人の想いや愛情を感じるお話も読むことができて、多彩さが魅力です。

ストーリーをひとつずづ語ることはしませんが、感想にネタバレが含まれているので、ここから先はご注意下さい。

山怪談 原作 安曇潤平 漫画 伊藤潤二、伊藤三巳華、猪川朱美、今井大輔、吉富昭仁 朝日新聞出版

この本を読もうと思ったきっかけは伊藤潤二さんです。伊藤潤二さんは「何を読んだのかよくわからなかったけどおもしろ怖かった」と思うこともある独自の、まさに伊藤潤二ワールドと名付けることのできるユニークで魅力的な作家さんです。たとえ他の作家さんが好みでなくても、伊藤潤二さんの作品が読めるなら、と思って読んだのですが、とんでもない!すべての漫画家さんの作画や構成、安曇さんの原作のすべてが素晴らしい、私にとって「当たり」の1冊でした。

安曇さんと伊藤三巳華さんの対談ものっていますが、それもおもしろいです。そして伊藤三巳華さんが美しいです。

山というのは特別な場所です。私は子供の頃に遠足や家族旅行で、子供の足でも登れる整備された山にしか登ったことしかありませんが、思い出はいっぱいいあります。すれ違う人と「こんにちは」と挨拶をかわす気持ちよさ、登頂して○○山頂xxxxメートルというモニュメントの前に立ったときの達成感、登山途中で父が水筒のフタに飲み物を入れてくれて家族で回し飲みをするときのワクワクした気持ち、学校の遠足で土の滑りやすそうな少し急で湾曲している道を駆け足になっておりるときのスリルなど、いろんなことが頭をよぎります。

でも、私の思い出はすべて天気のいい迷う心配のない明るいもの(それと整備されたスキー場)。吹雪で前が見えなかったり、キノコを取りに道なき道を進んでいるうちに方向を見失ったり、急に周囲に人がいなくなって異形のモノが前後から追い詰めるように近寄って来たり、というようなものではありません。一人でテントを張ってうつらうつらしているときに突然ヒトの手やカオとおぼしきものが外からぐっと押し付けられたらどんな気分になるでしょう?静かなテントの外でおだやかになごやかに自分の死に様を紹介しあう声を聞いてしまったら?そこにいるはずのない人と親しく言葉を交わしたことに気づいたら?

山が好きな方は、そんなこわい目にあってもやっぱり山に登ってしまうのでしょうか。このアンソロジーも、怖いばかりではなく、山の魅力や山の仲間の魅力も伝えてくれます。怪談を読んでも「怖い!山に登る趣味がなくてよかった」なんて、微塵も感じません。ただただ自然の不思議とひとならざるモノの存在への畏れを感じるのみです。各作家さんが描く安曇さんの姿も魅力的です。

『山怪談』。この漫画を読んで最も感じたのは「もっと読みたい!」という気持ちでした。

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[著]安曇潤平 : 伊藤潤二 : 伊藤三巳華 : 今井大輔 : 猪川朱美 : 吉富昭仁

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