今日は鯛夢さんの『ある設計士の忌録』について書こうと思っていたのですが、嬉しいことに今日続編が出たではありませんか。このブログでは原則完結したお話をご紹介しようと思っています。そこで初めて読んだ鯛夢さんの作品『機巧童子』についてお話したいと思います。
『機巧童子』は、ある神社にあり、巫女のナツメが仕える万物万能丸のお話です。
ここから先はネタバレなのでご注意ください。
万物万能丸は究極のカラクリです。歯車、トランスミッション、蒸気など、そこに足を踏み入れた人物の原動力を自分のものとしてしまいます。そのために人を引き入れ案内するのがナツメ。ナツメの手伝いをするのは張り子の猫のハルヨシ。
原動力を万物万能丸に取られてしまった人物はそれまでの行動基準とはがらっと違う動きをみせるようになるのでした。
最後には神社の神官が、自分にナイショであやしげなことをしているナツメたちを捉えにきますが、そのときには万物万能丸の準備もすっかりできて、神社のある丘の中腹から外に出て、新たな原動力を探しにでるのでした。
何より惹かれたのは表紙のナツメの顔でした。ナツメについてはその髪飾り以外、詳しい紹介は載っていませんし、普通に人間と会話をしていましが、ナツメの顔もカラクリそのもの。巫女の服装をしていて、言葉を発しない万物万能丸の代弁をしますが、ナツメがいったい何者なのか、ハルヨシと一緒に何をたくらんでいるのか。無表情な顔のせいもあって、ナツメの気持ちはわかりません。
でも、ナツメは毎回、なにが万物万能丸の興味の中心になっているのか、訪ねてきた人の本質は何なのか、かゆいところに手が届くように説明してくれる狂言回しです。ハルヨシとのコンビもよく、表情豊かとは言えないはずの張り子のハルヨシが、とっても表現豊かに見えてしまいます。
迷い込んでくる人間たちも生き生きとして魅力的です。最初の歯車のお話で、いつも争いをさけて笑顔でいようとしていた少女が、万物万能丸に歯車の仕組みを吸収されてからは、自らクラスに波乱を巻き起こすような発言を始めたのがとっても印象的で、人物、背景、お話の構成を含めて、一気に鯛夢さんのファンになってしまいました!
歯車、蒸気、トランスミッション、表情というように、人の原動力をカラクリで示すというアイデアもとても面白かったです。
最後に万物万能丸が外に出ていくところではワクワクします。これから先、さらに多くの人のカラクリを取り入れて万物万能丸はどうなるのか、究極の目的は何なのか。ちょっと途中で終わっちゃった印象もありますが、これはここで終わってちょうどいいのかもしれません。
とにかく、鯛夢さんを知ることができたのが最大の収穫でした。